第4話 信頼関係
「で、今日はなにがあったんですか? しかも、わざわざこんな場所に呼び出して」
放課後、久しぶりに表上先輩から呼び出しを受けた俺は指定のカラオケ屋の部屋へと入ると、やはり既に腕を組み座していた表上先輩に早速目的を問う。
基本的にこうして先輩が俺を呼び出すのは新たな情報を掴んだ時だ。それが分かっている俺は無駄な前置きをせず、単刀直入に尋ねた。
「別になにもないわよ」
「え...?」
しかし、表上先輩はなんてことないような顔で俺の予想を打ち砕いた。
「なに、その顔? 私があなたを目的がないのに誘うのはそんなに変なことかしら? もしかして嫌だった?」
すると、俺のリアクションに表上先輩は何故か少し苛立ったような、不満そうな顔つきでそんなことを尋ねてくる。しまったつい顔に出てしまっていたらしい。
「いや、そんなことはないんですが...なんというか珍しいというか、初めてというかで驚いたと言いますか」
そこで慌てて俺は表情を取り繕うとなんとか彼女を納得させようとする。
「...まぁ、それならいいわ。で、そうね。本当に今日あなたを呼んだのに目的なんてないけれど、強いて言うなら「お互いのことをもっとよく知って絆を深めよう」ってなことかしら」
「へ?」
目の前に座る彼女は尚も少し不満顔で頷くと、俺に向かってマイクを手渡すとニコリと微笑んだ。一方の俺は彼女の意図することが分からず、固まる他ない。さもありなん。
「だって、あなたは私の話に乗って復讐するって言った割にはどこか上の空だし他人事。それに私も私で自分の話ばかりであなたの意見とか意向とか全然聞いてあげれてなかったないし。こんな状態じゃ復讐なんて上手くいくわけないと思ってね。そこでそもそも私達お互いのことなーんにも知らないなぁと思って...」
俺が困惑していると俺の疑問に答えるかのように表上先輩は理由を述べた。俺自身、それは少し心当たりがあることなので反論はしづらい。
「だから、俺をカラオケに?」
「そういうこと。仲良くなるのにはこれが手取り早いと思ってね」
故に気がつけば彼女のペースに流されていた。
「さっ、理由が分かったなら歌いましょう。声が枯れるまで」
「わ、分かりました」
そして結局俺は笑顔の表上先輩に促されるままにマイクを手に持ち、立ち上がるのだった。
*
「思ったより疲れますね。これ」
「でも、スッキリしたでしょ?」
「それは認めざるを得ませんね」
「ふふ...でしょ」
ひとしきり歌い終えた俺と表上先輩はその場にへたり込むと、そんな会話を交わしていた。なにやら表上先輩は満足げだ。
「というか、白くんがカラオケに来たことがないのは意外だったわ。毎日黒澤さんと帰ってた言うから、てっきり何度も利用してるものだとばかり思ってたわ」
そしてお互いに一息をつき落ち着くと表上先輩はウーロン茶を口につけながら、そんなことを口にする。
「まぁ、確かにほぼ毎日一緒には帰ってましたけど、本当にただただ一緒に帰ってただけですからね」
「えっ?」
それに対する俺の答えを受けた彼女は目を点にして、素っ頓狂な声を上げる。相変わらず表上先輩は感情が分かりやすい人だ。
「それってなに、もしかして会話とかもしないの?」
「はい、ただただ一緒に帰るだけですから」
「...その、それって付き合ってる...のかしら?」
恐る恐るといった様子で尋ねた来た先輩に対し特に嘘をつく理由もない俺は淡々と事実を伝えると、彼女はやや遠慮がちに...しかし確かな瞳で俺の目を見つめるとそう発言する。
「さぁ、今となっては俺にもよく分かりません。でも、所詮恋愛ってそういうものじゃないですか?」
「そういうものって...?」
「俺は彼女ことが好きでしたし、毎日一緒に登下校もしましたし、彼女に誘われてデートだって何度も足を運びました。でも、どれだけ逢瀬を重ねようと月日を重ねようと相手の気持ちが完全に分かる日は来ないんです。そして結果的に彼女に裏切られた今となっては当時彼女が俺に抱いていたのが恋心なのかも分かりませんし、彼女が俺を恋人として見てたのか
「なるほど...ね」
俺の考えに先輩は納得半分不満半分といった様子で頷く。
「白くん...ようやく、あなたことが少しだけ分かった気がするわ。今日は誘って良かった」
そして先輩は俺と向かい合い頬に手をつけると軽く微笑み、優しく柔らかな口調でそう告げる。
「そして、それがあなたの考えなら私はそれでいいと思うわ。でもね、覚えておいて欲しいの。確かに白くんの言うように人の気持ちを完全に理解することは不可能よ。でもね、それでも唯一出来ることがあるわ」
先輩はそこまで言うと言葉を区切る。そして、再び口を開いた。
「相手を信じることよ。私は白くんのこと信じているの。だから、白くんも私の事を信じて欲しい。...私からはそれだけ」
「...」
それから彼女は真剣な顔つきで数秒ほど俺の顔を覗き込むと、席を立つ。
「じゃあ、今日はありがとう。色々と有意義な時間だったわ。会計の方は私が済ませておくから気にしなくてもいいわよ。大丈夫、安心して奢られなさい。これは先輩としてのプライドの問題だから」
そしてそれだけ言うと最後には俺に笑顔で手を振ると、視界から姿を消した。
「信じること...ね」
そして1人残された俺はただ彼女の残した言葉を繰り返すのだった。
ある日、俺はまた幼馴染彼女に裏切られた タカ 536号機 @KATAIESUOKUOK
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