第21話 ?? VS 黒崎 薊

「【深淵付与フィールド】」


「.....?」


訓練場の床が一面、広く、浅い、深淵の霧に包まれてゆく。

逃げ場のない私は、思わず身構える。


深淵の霧が襲いかかり、私の足元にまで届く。

しかし、何も起きない。

変化もない。


状態異常か何かかけてくると思っていたが、どうやら杞憂だったようだ。


そうこうしている内に、深淵の霧はこの広い部屋中に充満していった。

霧があたり一面を完全に覆いかぶさると、瞬間、前から強い殺気を感じる。


「.....!!」


敵の方をパッと見ると、奴はもうすでに、私の数歩手前まで迫ってきていた。

咄嗟の出来事に対応が遅れ、私は満足に防御もできずに体を蹴り飛ばされた。


「........ッ」


肋が数本折れる感触を感じながらも、私は受け身を取り、先ほどの攻撃のダメージを軽減させた。


「ぺッ....」


血反吐を少し吐き、私は立ち上がり、冷静に目の前の敵に対処する。


「【深淵の宝庫】」


スキル名を呼び、深淵の穴を顕現させる。

そこから出でるは、漆黒に染まった大鎌。

にこりと頬を吊り上げて、私は久方ぶりの強敵に笑みを浮かべる。



「少し、躾をしようか」



☆☆☆☆



「やあ、雨宮くん、久しぶりだな」


「ば、バベルさん!?、どうして....って、なんで僕はここにいるんですか?」


真っ黒な空間で僕とバベルさんは再会を果たす。

この謎の空間にて、僕は目を覚ます。


「お前さん、また、何かやらかしただろ。多分、それのせいだ」


「やらかした....あ、確かに僕、殺されましたね」


「だろうな。ほら、行こう。また出口へと案内してやる」


「ありがとうございます...!」


殺された理由も、なんでここにいるのかもわからないけれど、僕は彼の後ろについて、出口を目指す。


ここを出たら、きちんと、薊さんと話をしよう。



☆☆☆☆



「どうした、そんなものか?、興醒めだな」


私は大鎌を振るい、戦闘でついた少しばかりの血を払う。


私が見下す先では、漆黒の剣を片手に持ち、地べたを這いながら未だこちらへと敵意を顕にする、 が悔しそうにこちらを見上げている。


「少しは楽しめそうだと思ったが....まあ、ここいらだろう」


私が背を向け、一瞬の隙を奴に見せる。

それを見逃さんと、好機を捉え、再び私の元へと奴が攻撃を差し込む。


しかし、それは叶わない。


私は魔術を発動し、見えない壁を貼り、奴の攻撃を弾き返す。


「何度同じ手が通じないと言ったらわかる?、闇雲に剣を振るい、その馬鹿力で全てを押しのけようとしても私には通じない。その野蛮で、まるで戦いを知らない姿はまさに、猛獣そのものだな。相手にするまでもない」


初期にあったこいつへの興味も次第に薄れ、私は彼がさっさと正気に戻るのを退屈に待っていた。



そんな時だった。

変化を感じたのは。



弾き返された奴は、憤怒のごとく怒っていた自分を沈め、冷たく冷徹な姿を顕にした。

異変を感じ取った私はすぐさま体制を整え、奴の変化に対応するべく神経を尖らす。


ゆっくりと立ちあがた奴は次の瞬間、謎の言葉を発した後、侮る相手から明確な『敵』へと変貌した。


「【■■■■】」


「......!?」


囁いたスキルから発せられたのは、爆発的な力。

あらゆる能力が異常上昇し、相手を殺さんと武器を構えて駆ける。


私はすぐさま鎌を構え、向かってくる奴に相対する。


漆黒の武器同士がぶつかり合い、激しい突風があたりを巻き込む。

激しい鍔迫り合いが起き、武器が火花を散らす中、奴はさらなる一手に手を掛ける。


「【黒炎球ヘルブレイズ】」


「ほう.....」


片方の手を黒剣から外し、その手から黒い炎の球体を顕現させる。

黒球を放ち、それを私の体に当て、轟音と共に爆発させる。


爆発の勢いに乗じて奴は私から離れ、私の体には黒炎が残った。

しかし、私の体には黒炎どころか、傷一つ残らない。


「.....!!」


「どうした?、技が通じなかったのがそれほど悔しいか?」


炎に巻かれた私の体に傷がないとわかるや否や、奴は目を見開くほどに驚きを見せる。


「次はこちらから行くぞ」


惚ける奴に、私は自ら動き出し、攻め手をかける。

猛スピードで突進した私は、奴の喉元へと鋭く刃を突き立てる。


それをわずかに察知した奴もまた、避けようと必死になり、私の攻撃から間一髪で逃れる。


しかし、そんな一回で奴を見逃すほど、私も甘くはない。

奴が後ろへと逃げ出す瞬間に私は奴へと次の攻撃を仕掛ける。


大鎌を振るい、奴へ攻撃の隙を与えることなく、絶えず攻撃を仕掛ける。

避けることを余儀なくされた奴は、私の攻撃に反撃することは愚か、耐えることも厳しくなっていった。


次第に振るわれる猛攻に奴は行き場を失い、やがて、訓練場の端にまで追いやられる。

四角の一端に追い込まれたと気づいた奴は、直ちにその形成を逆転するべく、私に咄嗟の攻撃を仕掛けようとするが、もう遅い。


「今更気づいたのか?、だがもう遅い」


反撃の狼煙をあげるべく、奴は剣を振るい、魔術を放ち、必死の抵抗を試みる。

しかし、そんな苦し紛れの反抗が効くはずもなく、私は奴へと死の宣告を明け渡す。


「少しは楽しめたな」


そう言い残し、私は鎌を奴へと振るう。

抵抗が無意味と感じたのか、動きを止めた奴はこの戦いを諦めてように見えた。


久方ぶりの楽しい戦闘が終わるのを少し残念に思いながらも、俺は無情にも奴の首元へと刃を再度突き立てる。



これで終わり。

そう思った次の瞬間だった。



「......ッ!?」


私は鎌をすんでのところで止め、警戒心を高め後ろへと下がる。

冷や汗が私の頬を伝う中、残念そうにこちらを見つめる奴の顔が目に映る。


あの異様な感覚。

あのまま攻撃を仕掛けていたのならば、やられていたのは多分、私の方だったであろう。


ゆっくりと立ち上がる奴の姿を目に、奴は首の骨を鳴らしながら余裕そうに立ち上がる。


「なるほど.....2回戦と行こうか....」



☆☆☆☆



「ほら、もう少しで出口だ」


「ありがとうございます、バベルさん」


「ん?、ああ...あー、気にするな」


僕とバベルさんの二人で、再度この暗闇の中を歩いて行く。


前回と同様、僕に出口を示してくれるために、バベルさんは先頭を切って誘導してくれる。

正直、ここにはいい思い出はないけど、バベルさんがいるなら心強い。


やがて数分ほど歩いて行き、僕らは光が降り注ぐその一点に辿り着く。

前回も見た、出口への門だ。


だが、何か違和感を感じる。


「....前回よりも、小さい....?」


「お前さんも気づいたか....もう、あんまりここには戻ってくるんじゃない」


鋭い眼光で光の門を見つめる彼から、力強い言葉が返ってくる。


「ど、どうしてですか?」


「お前さん、前ここにきた時に、この場所に辿り着くまで大体何分かかったか覚えてるか?」


「ええと、15分ぐらいでしたかね?、なんでそんなことを聞くんですか?」


彼の不思議な質問を前に、僕は彼へと問いを返す。

すると、彼は光から目を離し、こちらへと真剣な顔で向いて返答してきた。


「今回、ここに来るまでかかった時間は数分。つまり、ここの空間、あの化け物どもがいない空間が狭くなってきてるんだ」


「それって.....」


「ああ、お前さんが出入りすればするほど、帰りにくくなるってことだ。持ってもあと数回だろう」


周りの暗い空間を見渡し、それが迫って来ている実感を持つ。


僕には見えないが、多分、彼の言うことは本当なのだろう。



一体ここは、どこなんだ?



当然の疑問を思い出し、目の前の有識者へと聞こうとする。


「あの、前回は聞きそびれましたが、ここって一体.....ッ!?」


そう彼に問いを投げかけたその瞬間、地震にも似た強烈な揺れが僕ら二人を襲った。


「早く行け、雨宮くん!!」


激しい揺れに転倒しそうになりながらも、バベルさんは僕の身の安全を第一にしながら、僕を光の方へと押し出してくれた。


「あ、バベルさん!、まだ話が....!」


そう言いながらも、門の方へと押し出された僕は、光に飲み込まれ、目を覚ますと訓練場にいた。



「気がついたか」


横たわる僕に、上から見下ろす薊さんの姿が映り込む。

彼は僕が戻ってくるや否や、真っ先に謝ってくれた。


「すまなかった、こんな形で技量を図るのは忍びなかったが、許してほしい」


「いえ、びっくりしましたけど.....まあ、いいですよ。その感じ、どうやらこうなることを知っていたようですし」


「まあ、そうだな」


彼の落ち着きように、僕も彼が全てを知った上でこの作戦を実行したのだと気づいた。

まあ、あそこまでするとは思わなかったけど。


「まあ、とりあえずデータは集まった。明日から本当の修行を始めよう。まあ、とりあえず今日はゆっくり休んでくれ。お詫びに、最高級の料理を用意した。食べていってくれ」


「.....はい!」


そうして僕らは、訓練場を後にし無事、一件落着となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

深淵のアビス〜最弱冒険者の最強成り上がり伝説〜 ヤノザウルス @Yzaurusu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画