禁足
夢月七海
禁足
なぜか事故の絶えない道があるように、私の家はなぜか侵入者が絶えません。
この前も、私が二階で寝ているときに、下の階で足音がしました。なんだろうと、階段を下りる途中で、暗闇の中から懐中電灯を持った人が、私の足元を照らし出しました。
懐中電灯を持った人が悲鳴を上げると、その周りでもまた別の人たちが悲鳴を上げました。なんと、侵入者は一人ではなく、複数人だったのです。
私があっけにとられている間に、侵入者たちは大慌てで家から出ていきました。翌朝、一階を確認すると、土足で歩き回られたり、扉を開けられたりした痕跡を見つけて、ため息が出ました。
私がここに暮らし始めてから、もうすぐ二年ですが、こんなことはよくあります。彼らが散らかした後を片付けるのも、日常の一部になってしまいました。
それにしても、どうして彼らは私の家に入ってくるのでしょうか? 二、三回ほど、これが続いたときは、素直に泥棒だと思っていましたが、どうも違う気がします。
まず、うちは山の中腹にあるぼろぼろの家です。外壁はひび割れて、庭は雑草で生い茂っています。それに、電気が通っていません。こんな家、泥棒が標的にするはずがありません。
例えば、道に迷った人が、ここで一晩を過ごそうとしたのかもしれないと、考えたこともあります。しかし、彼らが逃げた後、車で走っていく音がするので、こんなぼろ屋よりも、車で宿泊した方がいいと思います。
もしかしたら、道を尋ねたいだけなのでしょうか。しかし、私が来てしまうと逃げていくのが解せません。私がクマのような大男だったらしょうがないですが、見た目は普通の女性のはずですから。
それに、彼らは必ず複数人で現れます。一番最小の数は二人で、最大の数は十人以上です。暗いので、これは予測ですが。
大挙で押し寄せてくる泥棒なんて聞いたことありませんし、旅人だとしても変な気がします。そもそも、彼らが必ず夜に現れるのも、理由が分かりません。
三日に一度、食べ物や生活用品を届けてくれるお世話係の方に、聞いてみたいとも思いますが、その方とは話すことが許されません。いつも仮面をつけているので、一方的にしゃべって、反応を見るということも出来ません。
ですから、この手記に、自分の疑問点を書きつづっています。もしも私が死んでいるのを発見された後に、こんなことを思っていたんだと、教会の人に知ってもらうために。
話は変わりますが、以前、暇を持てあまして、辞書をめくっていた時に、「禁足」という言葉を見つけました。この二文字は、「外に出てはいけない」という意味があります。
私のことを言っているのだと、妙に感動しました。××様が行方不明になってしまったため、特例として全国の×カ所の家に、私のような外出禁止の贄を捧げることになったと聞きましたが、今よりも昔に、同じ目に遭った人がいたのでしょう。
ところで、「禁足」という文字に「地」をつけると、「入ってはいけない場所」という意味になります。「禁足」そのままの意味ですと、「出てはいけない場所」という意味になりそうですが、言葉は面白いですね。
入ってはいけない場所に入ってしまう人など、いるのでしょうか? 私にはとても出来ません。呪われたり、死ぬよりも恐ろしい目に遭ってしまったりしそうで。
ロウソクの明かりでこれを書いていたら、また下の階で物音がしました。
なぜか事故の絶えない道があるように、私の家はなぜか侵入者が絶えません。
禁足 夢月七海 @yumetuki-773
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