短編 ノるぜこのカイラク

「ハーイ!みなさんお待たせしました!」


響き渡る明るい声が、薄暗い部屋にこだました。錆びついた蛍光灯の下で、一人の高校生がベッドに横たわっていた。彼の名前はリョウタ。いつもならこの時間、家に帰っているはずの彼は、今日はどこか違う場所にいる。


「はい! 皆様お待ちしました!」

彼は呟くように繰り返したが、その言葉はどこか虚ろだった。部屋の中には、散乱した薬のパッケージと空の瓶が、無秩序に転がっている。壁に貼られたポスターは、色あせてほとんど見えなくなっているが、まだ彼の心の奥に響く何かを残していた。


リョウタは、次の一錠を手に取り、眺めた。手は震えていたが、心の中には奇妙な落ち着きがあった。「これが最終…後がない」と、彼は自分に言い聞かせた。


「だんだかりんでん…じゃんじゃかりんでんらりるれらん…」リョウタは、ふと口ずさんだ。それは、彼の頭の中でずっと鳴り続けるメロディーだった。誰も知らない、彼だけの歌。薬を飲むたびに、その歌が大きくなる。心の中の不安や痛みが、そのメロディーに溶け込んで消えていく。


「Are you ready?」彼は、自分に問いかけた。しかし、返ってくる答えはなかった。代わりに、頭の中に響くのは、再びあの歌だった。


「ベルが鳴る、まるでラッパのように…」彼はベッドから起き上がり、部屋の片隅に置かれた鏡を見た。そこには、赤く充血した目をした自分が映っていた。目の下のクマは深く、肌は青白い。だが、そんな自分にも彼は慣れてしまっていた。


「眠らないマナコ…真っ赤に染めて…」リョウタは、自嘲気味に笑いながら、鏡の中の自分を見つめた。「今日も退勤ロード…満員御礼…隙間なく…」まるで、日常を皮肉るかのように、彼は続けた。


彼は、ポケットから取り出したスマートフォンを見つめた。画面には、何度も通知が来ていたが、すべて無視されていた。家族や友達からのメッセージは、もう長いこと読んでいない。彼にとって、現実の世界はあまりにも遠く、手の届かない場所になってしまっていた。


「さぁみんな、充分働いたかい?」彼は自分に問いかける。「帰りたいかい?」その答えも、もう知っていた。


再び、手に持った錠剤を見つめる。これは、彼にとっての「帰り道」なのかもしれない。彼はそれを理解していた。だが、迷いはなかった。もう、彼の中には何も残っていなかったからだ。


「…イってみよう!」リョウタは、深く息を吸い込み、その薬を口に入れた。やがて、彼の視界はぼやけ、頭の中にはあのメロディーが響き渡った。


「だんだかりんでん…じゃんじゃかりんでんらりるれらん…」


部屋の中に静寂が戻ると、リョウタはベッドに倒れ込んだ。最後に感じたのは、薬が体の中で効いていく感覚と、頭の中で鳴り響くあの歌だった。そして、彼の世界は静かに闇に包まれていった。


だんだんと、メロディーは消えていき、やがて完全な静寂が訪れた。リョウタの身体は静かに動かなくなり、部屋の中には彼の呼吸の音だけが残った。


そして、その音も、徐々に消えていった。

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わら得る 白雪れもん @tokiwa7799yanwenri

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