今、あなたに届いてる『レビューが書かれました』という表示は――大丈夫ですか?

武 頼庵(藤谷 K介)

今、あなたに届いてる『レビューが書かれました』という表示は――大丈夫ですか?



 SNSのとある掲示板に人知れず一つのスレッドがたった。


 『俺が書くレビューって需要ある?』

 

 数あるスレッドの中でもその存在は決して大きくはなかったが、一日また一日と書き込みが増えていく。


『書いてくださるのなら欲しいです!!』

『レビューに需要が無い奴なんていない』

『分かった……』

『ありがとうございます!!』

『感謝です!!』


 そうしてそのスレッドにはいつしか多くの書き込みが見られるようになった――。




「なぁ知ってるか?」

「ん? 何が?」

「これだよこれ!!」

「どれ……?」

 そう言いつつ隣を歩く翔太しょうたが俺にスマホの画面をグイっと見せてくる。俺はそこに映し出されているものに目を走らせる。


「いやいや……無いっしょ!!」

「わかんないだろ? そうだ!! 慎太しんたも確か売れない作家をまだしてるんだろ?」

「売れないとはまた違うよ。底辺だ底辺。悲しいけどな……」

「そんなのどっちでもいいんだよ!! なんだっけ? 『書きたいだろう?』だっけ?」

「そうそう……」

 俺の隣を歩く翔太は俺が小説を書いてSNS上で公開している事を知っている。その小説を公開しているサイトが『書きたいだろう?』というもので。通称は『だろう』。上から目線のサイト名にもかかわらず、結構な数の登録者が居て、サイトの中の作品が書籍化したり、漫画化やアニメ化などもしていて、上位の方々と俺が沈んでいる底辺とではけっこう温度差が生まれているサイトだ。


「そこでこれだよ!!」

「はぁ? これって……えぇ?」

「なんだよ。興味あるだろ? 慎太いつも感想欲しいって言ってたじゃねぇか」

「それはそうだけど、こういうのは頼んで書いてもらうとかするようなものじゃ無いんだよ」

「でもよう……」

 俺に向けていたスマホを自分が見えるような位置へと引き戻す翔太。


「この……Unknownアンノウンってやつに書いてもらったやつは、人気急上昇!! 読者量増加!! ポイントザクザク!! そして夢の書籍化作家へ!! って書いてあるぞ?」

「あぁ、その噂は知ってるよ」

 興奮気味に俺に顔を近づけてくる翔太を、軽く手で押し戻しながら俺はため息をついた。


「そういう人もいるみたいだけど……」

「けど?」

「なんつーか……眉唾じゃね?」

「眉唾っていつの時代の人だよお前」

「語彙力高いだろ?」

「ぜんっっっぜん高くない!! あ、痛!! 何すんだよ!!」

「……るせぇ」

 俺はバシン!! と音が大きくなるほどの衝撃で翔太の背中を叩いた。そして馬大きなため息を吐く。

 

――そんなにうまくいくのなら、登録者全員が書籍化作家になってるだろが……。

 心の中で悪態をつきつつ、俺はまたため息を吐くのだった。



 高校2年生になってすでに秋になり、進路希望などの話題も出てきているのだが、俺は中学生時代から思い続けている夢に向けて動き出すかどうかまだ迷っていた。


 コツコツ書いていた物語をどうにか陽のめの当たる場所へと出したいという思いが募り、執筆活動をする傍らで、一応文系の進学先に強いと言われている高校へと進学、そして高校進学と同時に祝いとして両親に頼んで自前のPCを買ってもらった。


 その目的はもちろん、どこでもいいので自分が書いたものを世に出せる環境を作る事だった。その手始めとして規模の大きな小説投稿サイトへ自分の書き貯めて来た作品を掲載する。そして自分に合ったサイトを軸にして、コツコツと執筆活動をしていくのだけど、俺が合っていると思ったのがこの『書きたいだろう?』だった。


 そして翔太が俺に提案してきた話を、俺はサイトの相互さんから聞いて知っていた。何でもその相互さんのまた相互さんの知り合いの相互さんが、掲示板に有ったスレッドに書き込みをしたところ、本当に作品にUnknownというPNの方からレビューを貰った。


 そうすると見る見るうちに読んでくれる人が増え、ポイントがどんどんたまって行き、今では日間ランキングどころか年間ランキングにも作品が載るほどになっているというのだ。


――あり得ない事じゃないけど……。

 俺はレビューというものの取り扱いを考える。

 確かにレビューとは読んで欲しいと思う作品を、他の人へとお勧めするために書かれることが多い。

 そしてそのレビューを読んだ人が、その書かれた作品を読んで面白ければポイントをいれるわけだけど、読んだ人全員がポイントを入れてくれるわけじゃない。


 しかし、それなのにそこまでランキングが上がるという事は、何かしている可能性も無い訳じゃない。方法は色々とあるようだけど、俺は良く知らない。知りたくもない。


 一番信じられないのが、その書かれたレビューというのが、簡単な文字列でほんの数文字しかないという事。

『面白いから読んで』

『次も期待』

『読まないと損する作品』


 などが今まで確認されている、そのUnknownが書いたと言われているレビューだ。ただそれはあくまで噂の1つであって、中にはしっかりとしたレビューを書かれたという人も少なからずいる。

 

 それと、これも噂になっているものだけど、『自分以外のレビューが書かれたら、自分が書いたレビューを消す』というのが、Unknownがレビューを書く事の条件の1つらしい。


――そんなことして何の得がある? 結局は自分で書いたレビューも消えてしまうのだから、書く事に意味がないじゃないか?


 俺の隣では既に翔太は『だろう』の話から違う話題へ内容が移行していて、俺はそれに相槌を打ちつつも、家に着くまでの間ずっとUnknownについての事を考えていた。





「これ……か」

 家について自分の部屋へと向かい、一息つくとすぐにパソコンを立ち上げる。そして件の掲示板を探して、先ほど翔太が俺にみせて来たものを見つける。


「やば……もう次のスレッドがたってる……」

 書き込み上限まで行ってしまったため、別に新たなスレッドが立てられていた。そしてその数が尋常じゃない――。


「なんだよ……その1265って……」

 俺が見たスレッドは、初めてたてられたスレッドから1265番目のモノという事。

 つまりはそれだけの人が今も書き込みしていて、すべての書き込みがというわけではないけど、確かにUnknownへとレビューをお願いしている作者の様な書き込みも見つける事が出来る。


 俺はそのまま前の、また前のスレッドをたどっていくと、また最新のスレッドへと戻ってきた。

 そして最新の書き込みを確認しようとして言葉が詰まる。


「っ!?」


『君はいいのかい? “もちもち”君』

 最新の書き込みはそう書かれていた。

 しかし次の瞬間にソノ書き込みが消失する。


――え!? なんだったんだ今の……。というかもちもち君って……。

 それは親友とも言える翔太にも言っていない俺のPN。

 

 画面を見ながらも困惑していると、更に次の書き込みがされた。


『君の事だよ? もちもち君。 いや……所慎太ところしんた君』


 その書き込みを見た瞬間に、ひゅっと息を吸い込む。もう一度確認しようとすると、既にその書き込みは消されていた。



――な、なんだ!? 何だよ今の!! 何でおれの事……、いやそれよりも何故知ってるんだよ!! 俺が今書き込みを覗いている事を!!


 急いで掲示板を見る事を止め、パソコンの電源を落として、誰もいない音の消えた部屋の中で独り天井を見上げる。


 そして、今の一瞬ともいえる出来事を思い出して頭を抱え俯いた。背中に流れる冷汗は、次第に量を増していく――。







 あれは何だったのか……。見間違いなのかそれとも現実だったのか……。


 答えの出ない疑問を抱え、悶々とする中でも毎日が過ぎていく。そして今日もまた執筆していた作品を更新しようと、『だろう』の中の住人となるべくサイトへと入っていく。


 サイトの中は変わらず、親しい人からメッセージが来たり、読んでくださった方から感想が来たりしている表示が出ていて、少しばかり安心する。


 人気は無くてもこうして地道な活動を――。


 そうして気が付いた一つの着信表示。


『レビューが書かれています』


――え? いや……ま、まさか……な……。

 俺は恐るおそるその表示をクリックした。


 しかし俺の不安をよそに、そこには見慣れた方から作品に寄せられたレビューが表示されている。


 ホッとして、今度自分宛てに届いているメッセージボックス内を確認した。中には数件のメッセージがあり、上から順に確認して返信を重ねていく。


 そして最後のメッセージを開いた瞬間、俺の眼に飛び込んで来た文章を見て凍り付いた。


『もちもち君。君は選択をした。それが正しい選択なのかは君にしか分からない』

 差出人の名前を見て更に全身から汗が噴き出す。


『差出人:Unknown』


「ど、どういう事だ……? なんだよ選択したって……」

 誰にも聞こえない独り言が部屋の中で少しだけ反響した。


 この日を境にして、俺が『だろう』に入る事はなくなった。







数年後――


『昨晩未明に現在放送されているアニメの原作者であり、人気小説投稿サイトの『だろう』で活動をされている○○先生がお亡くなりになりました――』

『昨日、人気小説家の▲▲▲先生が、ご自宅の中で動かぬ状態で発見され――』

『昨日午前10時頃、アニメの原作者である※※※※氏が、道路を横断中に車にはねられ――』


 俺は一人部屋の中で、パソコンの検索情報サイトの中で流れるニュースを見ている。


 の翌日から、毎日途切れなくなったニュースの1つが、この小説家の連続変死のニュースだ。


 そしてそのニュースになっている人達には、とある噂がある。


 それが『とある人物からレビューを書いてもらった人物』たちだというもの。ただしニュースでも一時期取り上げられてはいたのだが、結局捜査上はその信憑性も関連性も無いとされている。


果たして本当なのだろうか――?


 俺は当時気がかりだったことを思い出す。それは本当に些細な事。

『そんなことして何の得がある? 結局は自分で書いたレビューも消えてしまうのだから、書く事に意味がないじゃないか?』


 本当は何か見返りが必要だったのだとしたら?

 もしあの時、俺が『頼んでいた』としたら?



 今、俺はこのニュースを見る側ではなく、報じられる側になっていたかもしれない。







 今、あなたに届いてる『レビューが書かれました』という表示は――大丈夫ですか?



※あとがき※

 お読み頂いた皆様に感謝を!!


 実はコレ普通に単発短編として出そうかなと思って構成練った作品でして……。

 でももったいないなと思って公式の方へ出展しました。


 お読みくださってご感想お待ちしてます。(^▽^;)

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