第21話国王の愛情

 正妃にしか子供が生まれない。

 後宮の側妃達は何年経っても懐妊の兆しがない。


 この二点で察しのつくものだが、欲深い女共はそれに気付かない。事実を別の角度から見るのだろう。


 正妃が他の妃に子供を産まさないように画策している。

 何らかの方法で正妃が懐妊し難くしている。


 そう言った噂が実しやかに囁かれていた。

 馬鹿げている。

 私のペトロニラは情の深い。

 誰かを傷つけようなどと考えたことすらない心清らかな女性だ。

 嫉妬に駆られて妃達を害する?ありえない。

 そもそも後宮に居ないペトロニラがどうやって側妃達を害せるというのだ。


 まったく度し難い。


 自分達がそうするから、相手もそうすると思い込む。

 度し難い愚かさだ。

 実際に噂を信じる妃は多い。


 正妃を引きずり下ろして、自分が取って代わろうとする妃は後を絶たない。


 愚かなことだ。

 後宮は政治の裏舞台でもある。


 正妃に危害を加えようと画策したり、ましてや、罪をでっち上げようなど論外だ。



「陛下」


「なんだ」


「二十三番目の側妃様が病死なさいました」


「そうか」


 側妃の一人、二十三番目の妃は見目美しい女だが、性格が悪かった。

 何かにつけ他の妃と張り合いたがる。

 諍いも多かった。

 ペトロニラを見下すかのような目つき。鼻で嗤った時もあった。

 側妃の分際で。


 大人しくしていれば生き残れたものを。



『陛下、お許しください』


『これは何かの間違いです!ああ、そうです。正妃様が私を罠に嵌めたんですわ!』


『陛下、どうかお慈悲を』



 命乞いをするだけならまだいい。

 だが、正妃に冤罪を着せようとした。

 その罪、万死に値する。


「側妃の葬儀の手配はどうなっている」


「既に済んでおります」


「そうか。ご苦労」


 二十三番目の妃だけではない。

 これまで何人もの側妃達が愚かな画策をして自ら命を落としていった。


 私の子を産むのはペトロニラだけ。

 他の女が産んだ子など必要ない。


 正妃だけに子が出来る。

 それは私が望んだことだ。



「これから先も私の子を産むのはペトロニラだけだ」



 二ヶ月後、後宮は廃止となる。

 正妃に幾人も子供が生まれていることを考慮すれば、はっきり言って側妃など不要。

 下手に側妃に子が生まれれば後継者争いになりかねない。

 思った通り、反対意見は出なかった。

 皆が私の言葉を肯定した。


「これで思う存分ペトロニラを愛でられる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】彼女を妃にした理由 つくも茄子 @yatuhasi2022

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画