第20話王妃の不安

 王妃になって数年。


「王妃様、大丈夫でございますか?」


「ええ、だいぶん楽になりました」


「それはよろしゅうございました」


 現在、六人目の子供を妊娠している。

 一人目を産んで直ぐに二人目を。その後も、子宝に恵まれた。

 あまり間をおくことなく妊娠してきたせいでしょうか。子育ても乳母任せにすることなく、自ら積極的に行ってきた。

 私がそうだったからですが。

 陛下の理解と協力があっての賜物です。


 それにしても……あの噂は本当なのでしょうか?


 陛下が後宮を廃するという噂は……。


 噂ならよいのですが。

 もし、本当なら……。

 私はどうすればいいのでしょうか。



「王妃様、ご心配には及びません。陛下のご判断は常に正しいのですから」


「だと、いいのですが」


「王妃様。陛下はお優しいお方です。側妃様方のことを考えてのことでございます。何年も御子ができない状態では妃様方も肩身が狭いでしょうから」


「それはそうですが……」


 侍女の言う通り、陛下の御子を身籠るのは何故か私だけ。

 後宮に住まう側妃様方は御子が出来ずにいらっしゃる。

 そのことで苦しい思いをしているのは確かなことです。


 最近、側妃の一人が他国の王子に嫁ぎ、大層大事にされているそうです。


 例え、妃に御子が出来なくとも構わない、とまで言う程に。

 若く美しい妃でした。

 王子が大切にされるのも納得がいきました。


 他の側妃には申し訳ないと思いますが、私は安心をしているのです。

 陛下の愛情を独り占めにはできない。

 正妃とはいえ、私の場合は不可抗力。

 いつ、この国の有力貴族の側妃に取って代わられても致し方のない存在。

 ですが、もし後宮が無くなれば、私は誰に憚ることなく陛下の唯一人の妃になれる。


 浅ましい考えだとは思います。

 けれど、正妃の地位を盤石にしたい。


 膨らんだお腹を擦りながら、私はそう思わずにはいられませんでした。


 取り立てて美しくもない。

 若さすら無くなれば陛下も見向きもしなくなるのは目に見えています。


 そうなる前に……。


「王妃様、大丈夫ですか?」


「ああ、ごめんなさい。少し考え事をしていました」


「あまりご無理はなさらないでくださいまし」


「ええ」


 でも……。

 全ては私のわがままです。

 陛下の御子を何人授かろうと安心できない私の愚かな願い。

 ああ、お優しい陛下。

 どうかお許しください。

 私は浅ましい女なのですから。


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