第19話側近の仕事

「行ったか?」


「はい、陛下のご命令通りに」


「あの国の王子は彼の側妃にご執心だからな。多少のことは目をつぶるだろう」


 今日、後宮に居た若い側妃が他国に嫁いだ。

 王子妃として。そう仕向けた一人、としては側妃の幸せを切に願う。が、それはそれ、これはこれ。


「しかし、陛下もお人が悪い。側妃が嫁ぐ際に、ご実家の公爵家からではなく王家から嫁がせるなど」


「あの国は小国とはいえ、侮れない。公爵令嬢として嫁がすよりもずっといいだろう」


「資源が豊富な国ですからね」


「そういうことだ。側妃の実家は渋っていたがな」


「……まあ、そうでしょうね」


 公爵家としては陛下の御子を身籠って、確固たる地位に就いて欲しかったのだろう。

 まあ、それは無理というものだが。

 権力欲の強い家は、なにかとプライドが高い。根拠のない自信を息巻いて後宮入りするが、成果を出せた者は一人としていない。


 気位ばかり高くて、王妃に対しても不敬な態度をとる。

 だいたいの妃は礼を尽くすのだが、一部の妃達の態度は悪い。

 今回、嫁いでいった妃は特に酷かった。


 公爵令嬢という立場ゆえ、後宮では誰よりも高い地位だと疑わない。王妃ではなく自分が最も優先されると思っており、将来は自分が王妃になるのだと信じて疑わない。

 未来の王妃……。

 心の中で思っている分はいいだろう。いや、よくはないが……言葉に出すよりは。

 実際、「我こそは」と思っている妃は後宮に数多いる。ただ言葉に出さないだけで。


「これで、後宮は暫く静かになるな」


「そう願いたいですね」


「まったくだ。さて、私は執務に戻る」


 あ、と思い出したように陛下が振り返り、


「次の会議に後宮の廃止案も出すつもりだ。よいな」


「かしこまりました」


 一礼して陛下の前を辞する。

 さて。後宮の廃止か……。

 後宮が廃止となれば、側妃達は実家に返される。

 妃達はまだ若い。直ぐに嫁ぎ先は決まるだろう。

 元側妃というブランドは彼女達の価値を跳ね上げるに違いない。


「……いっそのこと、王家から婚姻を促した方がいいか?それとも王家主導で嫁ぎ先を探した方がいいか?そちらの方が妥当かもしれないな」


 妃とその家に貸しを作れる。

 長年、後宮に居る妃ならその方が良いだろう。


「陛下はどちらをお望みだろうか?」


 まあ、後宮の廃止が優先だろうが。


「さて、私も仕事に戻るか」


 陛下の執務室を辞す。その足で、自分の執務室へと戻る。

 後宮の廃止は陛下がお決めになったこと。

 反対意見は出ないだろう。

 王妃様には幾人もの御子がいらっしゃる。

 下手に側妃に子ができると火種になる恐れもあるし。


 後継者争いになる前に。

 下手に勢力が増える前に。


 準備を始めなければ。


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