第3話

「入って下さい。散らかってますけど」


コモリさんは恥ずかしそうに言った。

案内された部屋に入ると確かに汚い。

手前の方には大きな丸いラグがあり、その上にはお菓子のゴミなどが散らかっている。

奥は壁に大きなモニターがあり、向かい側にベッドがある。


「それではアキラさん。あなたにはあの子たちのお世話を頼みたいのです。それから、あなたの部屋を用意します。部屋は後で案内しましょう。」


お世話かぁ。

ガキはあんまり得意じゃないが、コモリさんみたいな綺麗な人といれるならいいかな。

しかも宿問題も解決できるしな。


「もちろん!喜んでやりましょう!」


するとコモリさんはフフッと笑って言った。


「ありがとうございます。ではお世話について説明しましょう。少々おかしな話ではありますが、その、あの子たちの練習相手や、武器の手入れをしてほしいのです。」


「なるほど!武器の手入れ…」


ん?


「武器の手入れ?!?!」


何を言われてるのか分からない。

ガキだぞ?武器?何を言ってるんだこの人は。

「少々おかしな話ではありますが」、じゃねぇよ!

少々どころかクソほどおかしな話だぜ?コモリさんよぉ。

わかった。おもちゃだな?そうならそうと言ってくれればいいのに。


「なぁんだ!武器っておもちゃですかぁ!びっくりしたぁ。脅かさないでくださいよ。」


コモリさんはポカンとしていた。


「…本物ですよ?信じられないと思いますが、本物なんです。こうなった経緯については、あなたもおわかりでしょう?」


「全く知りません!」


俺の清々しさに驚いたのかコモリさんは一瞬眉にシワを寄せた。


「失礼ですがあなた、どうやって生きてきたんですか?」


そこで俺はコモリさんに一通り説明した。


「なるほど。それじゃあ知らないわけですね」


コモリさんの受け入れが早くて、逆に俺が驚いてしまった。


「驚かないんですね?」


「まぁ、この世界は死後の世界みたいなものですから、みんなあなたと同じで、転生してきた人なんですよ。言ってしまえば、あなたはただ最近この世界に来ただけの人になるんです」


どこか冷たい答え、なんか、悲しい!


「話を戻しますが、この世界は元々魔王がいたんです。この国は魔王の支配下にありました。ですがある日魔王が倒されて、みんな喜んだんですよ。ですが…」


コモリさんはさっきまでの優しい顔を殺したかのように悲しそうな顔をした。

その顔はまるで絶望に近い顔だった。


「ですがとある人によってこの世界はよりひどいものになってしまいました。その人は…この人です」


そう言ってコモリさんは椅子に座り、モニターに1人の写真を映した。

写真の男は笑っていて、至って普通の40歳後半に見える。


「この人は子供が大好きで、子供たちとよく遊んでいたんですよ。そのせいもあってか、子供たちもこの人によく懐いていました。」


今のところこの人が悪い人には聞こえないし、確かに笑顔が柔らかいから子供たちに懐かれるのも納得だ。


「この人は実験も好きな方でした。たまに子供を集めて、実験でつくりあげたキャンディを配ったりしていました。ある日、1人の少女が言いました。わたしはもう死んじゃうから、どうせならそのキャンディみたいに、好きなものいっぱいの魔女になりたい。と」


その女の子は魔法を使いたかったのだろうか?

そうだよな、俺も魔法、使ってみたいよ。


「そして男はなんとしてもこの子の願いを叶えたいと考えたんです。結果、男は少女とその好きなものを合わせることに成功したんです。少女はとても喜びました。そこから男は人体実験ができるし、子供たちも喜ぶと考え、子供たちの要望を聞いて、そのたびに子供たちを好きなものと合わせていきました。」


ここまで聞くとただ子供たちが好きなだけの研究者の話に聞こえる。この男はそこまで酷いことをするのであろうか?


「ですが実験を重ねるうちに、この子供たちに戦闘能力があるのか興味がわいてきた男は、子供達を戦わせました。と言っても簡単なじゃれ合いみたいなものですが。それを元に男はデータを集めたところ、明らかに攻撃力の高い子がいるのを見つけ、その子について調べることにしたんです。結果その子には大きなトラウマを抱えていることがわかりました。他の子も同様です。幸せなほど低く、トラウマが大きいほど高い。」


「トラウマって…子供のうちなんだから、虫が怖かっただとか、嫌いな食べ物があるとかそんなもんですよね?」


「…アキラさん。この世界は歳を取らないんです。これがどういう意味か、わかりますか?」


歳を取らない…てことは


「この世界の子どもたちは…?」


コモリさんは頷いた。


「そんな事、あっちゃだめだ!子供はいっぱい遊ぶべきだ!そんなの!そんなの…」


少し間が空いたが、コモリさんは続けた。


「子供ですから、心の傷も負いやすい。言ってしまえば簡単に心を動かせるんです。それを利用して男は子供達を洗脳し、憎い魔王を倒そうとしました。結果、恐ろしく強い子供達の魔法で、魔王は倒せましたが、その間に男は独占欲に溺れ、子供たちだけではなく、世界を自分のものにしたんです。これがこの世界の、あの子たちの秘密です。」


…あまりの悲劇に俺は言葉が出なかった。


「少し休憩しましょう。お茶を持ってきますので、座ってて下さい。」


俺は扉に向かって消えていくコモリさんの背中を見ながら、1人ボーっとベッドに座り込んだ。

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せかいへいわだいさくせん! ざくざくたぬき @gal27

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