明るい月曜日
異端者
『明るい月曜日』本文
その日は、良く晴れた月曜日だったそうです。
Tさんは、まずその日の天候について話し出しました。
「まあ、真夏の晴天なんて暑いだけですが」
そう言葉を
彼は当時大学生で、実家から離れた大学に通うために独り暮らしをしていたそうです。
もっとも、大学は夏休みということで、マンションの三階の自室でごろごろして過ごしていました。実家に帰ってこいとも言われていましたが、独り暮らしに慣れてしまうと実家で小言を言われるよりも気が楽だったそうです。
「エアコンをつけていても、何をするのも面倒で……食事もレトルトかコンビニで良いかなって――」
そんな彼ですが、していることがありました。
寝っ転がって、適当につけたラジオを聞くこと。内容はなんでも良くて、とにかく人が喋っていればいい……そんな感じだったそうです。
「それが、いつもは合わない周波数に合っちゃって……変だなとは思ったんですが――」
よく適当にラジオを聞いている彼には、それが普段はない周波数だとすぐに気付きました。
だからといって、特に気にすることもなく、その周波数のラジオ番組を聞き続けました。
「最初はお経みたいだなと思ったんですが、聞いているとなんだか呪文みたいにも聞こえてきて――」
彼は変な番組だなと思いつつも、そのまま聞き続けました。
気付いたら、彼は病院のベッドの上でした。頭には包帯が巻かれ、右足にはギプスが付けられていました。
ここからは、その様子を見た通行人、Mさんの話になります。
Mさんは偶然Tさんのマンションの近くを歩いていました。
すると、ふらっとTさんがマンション三階のベランダに現れたかと思うと、柵を乗り越えて飛び降りたそうです。
地面に落ちたTさんは倒れ込んでピクリとも動きませんでした。
Mさんは慌てて救急車を呼びました。そして、救急隊員にそのことを伝えたそうです。
Tさんは病院でそのことを聞かれましたが、全く記憶にないと答えました。
最後に記憶にあったのは、あのラジオを聞いたことだけでした。
「おかしいんですよね。あのラジオを聞いたことははっきりと覚えているのに、それ以降が全然記憶に無いんです」
Tさんは首をかしげながら言いました。
私はふと、思い出して聞いてみました。
「『暗い日曜日』という曲をご存じですか?」
「え? なんですか、それ?」
「有名な都市伝説なんですが――」
暗い日曜日――という曲は、かつてヨーロッパを中心に聞いた人間が次々と自殺したと言われている曲です。数百人が死んだといわれ、曲自体を放送禁止にした国もあるそうです。もっとも、本当にその曲が原因かと言われると因果関係が証明できないこともあり、あくまで都市伝説として扱われています。
「でも、そんな曲みたいな感じではなかったですよ」
彼はそう答えました。
「確かに、その曲自体ではなかったかもしれません。……ですが、その曲にある『自殺する要素』だけを抜き出して流していたのだとすれば……」
思うに、それは「実験」だったのではないでしょうか?
暗い日曜日に入っている自殺する要素だけを抜き出して、ラジオの電波として流して実際にそうなるか検証する――テロや戦争に使うための軍事利用の実験。
しかし、そうとも言い切れません。
かつて、アニメ『ポケットモンスター』で激しい光の点滅を見た多くの子どもたちがてんかん発作等をおこして病院に搬送されるという事件がありました。これは大騒動となり、「ポケモンショック」等といわれ、それから多くのアニメには注意書きが入った程です。
その後、この事件を軍事利用しようと研究している国があるといわれています。それよりずっと前の暗い日曜日が研究され、既に兵器としてほぼ完成していても不思議ではありません。
私が話し終えると、彼は深刻な顔をしました。
「じゃあ、自分が聞いたのは……」
「そのテスト、かもしれませんね」
私はお礼と別れの挨拶を告げると、立ち去ろうとしました。
「あのっ!」
とっさに彼は私を引き留めようとしました。
「あの後、治るまで入院していた時に、誰かに見られていたような気がして……」
彼は話を続けました。
彼が言うには、入院中に常に誰かの視線を感じていたそうです。
ですが、飛び降りた記憶が全くないことを言うと呆れられたので、どうせ信じてもらえないと思ってこのことは他人には言わなかったそうです。
今回、私が話を聞きたいと申し出た時も、そのことは黙っておくつもりだった、と。
「確かに、その後の経過を観察するために、誰かが監視していた可能性はありますね」
「じゃあ、自分の気のせいじゃなくて――」
「はい、おそらくは……」
彼は少しの間呆然としました。そして――
「今も、監視されてるんでしょうか?」
「さあ、そこまでは分かりません。ただ、もう危害を加えるつもりはないと思いますよ。それから随分と経っている訳ですし、そのつもりならとっくにそうしているか、と」
私は彼を安心させようとそう言いました。
それでも彼の表情は最後まで硬いままでした。
※これはあくまでもモキュメンタリーですが、類似の事件が起こる可能性は否定できません。
明るい月曜日 異端者 @itansya
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