第14話
シリカの街はとても賑わっていた。
新しいダンジョンには人が集まる。
そこから出土されるアイテムや魔物の素材が街で売られる。それを目当てに商人も集まるのだ。
いわゆるダンジョン特需である。
あちこちで様々な屋台が出され、いかにも冒険者然とした人達が並んでいる。街の広場には簡易テントが広げられるように、特設のスペースが設けられていた。
シリカはこれまで特に大きな観光地があった訳ではないので、宿屋の数が足りなくなって大変なのだと街の通行門の警備兵が苦笑しながら教えてくれた。
しかし宿屋問題は私とライアンにはあまり関係がない。一応他国の貴族。専用に別途確保してある宿に泊まることが出来た。
勿論部屋は別である。
貴族用に用意されているだけあって一部屋が広く、三分の二程の場所で間仕切りで分けている。
ふたつにわけた片方を簡単な応接室として使えるようにしてあった。
「さて、それじゃあ軽く屋台でもつまみつつ情報収集しましょうか」
「かしこまりました。ちょうど来る時に通った大通りの串焼きが人気のようでしたよ」
「いいわね、じゃあそれにしましょ」
大通りの串焼きは私も気になっていた。大きめに切られた肉を四つほど串に刺して、タレをつけて直火で炙っていたのだ。
タレの焦げるとてもいい匂いがしていた。
いそいそと屋台へ向かうと先程と同じく結構な人数が並んでいた。ライアンとふたり、最後尾に並びつつ会話をしてるふりをしつつ耳をそばだてる。
「今回のダンジョン、だいぶ深いみたいだな」
「そうらしいな。今わかってるだけで二十階層まであるんだろ? 」
「二十一階層への階段は見つかってるらしいが、どうやら魔物が強くてなかなか先に行けないらしい」
二十一階、というのはダンジョンの中でも深い部類に入る。
「へえ、今最深部を攻略してるのはBランクの『烈風』だろ? あいつら結構な手練だって聞いてたが」
「ところがだよ! その烈風のひとりが二十一階層への階段手前で結構な大怪我をしたってんで引き上げてきたらしい」
「へえ! そりゃ大変だ」
「今は治癒の魔法使いもだいたい出払っちまってるから治療待ちらしいぜ」
ふむ。
どうやらダンジョン攻略の最前線にいた冒険者パーティが負傷して攻略が止まっているようだ。
この世界のダンジョンは完全攻略したとしても消えたりしないので、ぜひ早く復帰して最深部までの情報を持ってきて欲しい。
親友が作った世界観を元に作られていたものの、私はダンジョン攻略ゲームや建国シュミレーションゲームの方は触っていないので完全に初見だ。
そうなると少しでも情報を集めてリスクを減らしておきたい。
ダンジョン攻略自体しなければいいと言われそうなものだが、これはこれで自分の強さの確認と実戦経験としてとても大切だと思っている。
ルチアの死亡率が本格的に上がるのは学園に入ってから。
なので、それまでにできる限りステータスを上げておきたい。
ゲームと違ってこちらでは自分のステータスを見ることは出来ない。ひとつづつ確認していくしかないのが辛いところだ。
「つーことはあれか、烈風が止まったなら今一番進んでんのは『双頭の蛇』か? 」
「あー、あの双子の冒険者な」
『烈風』も『双頭の蛇』もどちらも私でさえ名前を聞いたことがあるくらい有名な冒険者パーティだ。
『烈風』は獣人の女戦士ラフィノアが率いる六人組のBランクパーティで、ラフィノア自身はAランク冒険者だという。
『双頭の蛇』は双子のクレフとアレフだけの冒険者パーティだ。
こちらはCランクだと聞く。
冒険者は国に左右されないので、どちらも普段の拠点はリアメカ帝国ではなかったはずだ。
やはりリアメカ帝国はかなり気合いを入れてこのダンジョン攻略に望んでいるらしい。
「冒険者登録、しておくべきかしら」
「そうですね……しなくとも問題は無いでしょうが、身分証の代わりにもなりますし、これからダンジョンに潜るのであればあった方が便利かもしれませんね」
「じゃあこの後登録にギルドに行きましょ」
「かしこまりました。……ああ、順番が来たようですよ」
「やった!もう待ち切れそうになかったのよね! 」
列が進むにつれていい匂いが強くなってきていて、長旅のせいもありとてもお腹が減っていた。
思わず口調が乱れてしまったが、ここはリアメカ帝国。知り合いの貴族に会うこともそうないだろうから、少しくらいは平気のはずだ。
勿論どこからか父へ報告が行く可能性はあるのであまり気は抜けないけれど。
ライアンから渡された串焼きを頬張りつつ冒険者ギルドに向かう。そういえば屋台で買い食いをするのも、歩き食べをするのもこの世界でははじめての事だ。
前世では祭りで食べ歩きをしたこともあるけれど、それだって子供の頃以来だ。
少しテンションが上がる。
串焼きの肉は匂いに負けず劣らず美味しかった。
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乙女ゲヒロインは攻略対象から逃げ出したい わい @wa1i
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