天才と言われるより、仲が良い友達が欲しかった私は時を戻ったら今度は積極的に友達と付き合おうと思う。
鍛冶屋 優雨
第1話
私は魔法初等学校に入学し、魔法の授業の時、この教師はなんて難しい事を言っているのだと思った。
あぁ、慌てないでもらいたい。
私の話を最後まで聞いてほしい。私が難しいと思ったのは、授業で行っている魔法の内容のではない。
だってその時は水を出すっていう初歩的な魔法だったからね。
じゃあ、何が難しいと思ったかというと、教師の説明だよ。
たかだか水を出す魔法の説明なのに何で小難しい魔法理論を並べるんだ?
教師が発動した魔法も酷いものだったよ。
もちろん、確かに水は出たよ。
だけど発動の時に、構築された魔法陣・・・、あぁ、そうだよ。
あの一瞬だけ見えるやつのことだよ。
あれは酷いものだった。
私はあんな醜い魔法陣を見て寒気がしたよ。
水を出すだけなのに、何であんなゴチャゴチャと魔法理論が書き込まれているのか分からなかったよ。
水を出すのに、
【魔法を行使する者の気分を良くする】
なんて魔法理論はいらないよね。
他にも、
【水を軟水にする】
とかさ。
そりゃ、魔法陣は便利だよ。
だって、その陣形を覚える事で、面倒な呪文を詠唱することなく、魔法を起動して、後は魔法陣に魔力を込めたら、
『はい、発動』
って感じで、魔法が行使できるからね。
魔法最初期の頃は早口言葉のように呪文を言える人が天才と言われて、今は魔法陣を暗記している人が天才って言われているね。
だけどさ、自分が覚えた魔法陣がどんなものかも分からずに、盲目的に、これが絶対だ。
なんて思い込むのはどうかと思うよ。
間違ってもらいたくないんだけど、私は
【魔法を行使する者の気分を良くする】
【水を軟水にする】
もくだらないとか、不必要だとかは思っていないよ。
その魔法陣を考えた人にとっては重要だったんだろう。
例えば、魔法を行使した時、魔力を込める量を多くなってしまうと魔力酔いの症状が出るからそれを緩和するために、その人は魔法陣を作ったのかもしれない。
軟水にするしても、飲料水や料理に使用する時に軟水が良いと思った魔法師が作ったのかもしれないね。
時が経つにつれ、それらの思惑が忘れられて魔法陣だけが残り、意味も分からずに丸暗記する者が優秀とされてきた結果、こうなったんだろうね。
「有名魔法師に聞く!」より一部抜粋
天才魔法師『葉月レオナ』へのインタビュー記事
〜〜〜〜〜〜〜
魔法師はその能力によって、ランク別に分けられており、上は特級から下は10級まで別れており、魔法初等学校卒業で10級、中等卒業で7級を与えられ、それ以上は試験を受けて昇級する。
一部には、魔法学校には行かず、私塾や親から一子相伝の技術を学ぶ魔法師もいるので、魔力があればこの試験は受験できる
「魔法師になろう!」から一部抜粋、魔法師のランクについて
〜〜〜〜〜〜
私は子供の頃から、周りの人間は大人も子供も含めて愚かな者が多いなと思い、周囲の誰もが、私が簡単にできることができないと気付いた。
私の両親もそうだ。
私が簡単に発動できる魔法を発動できない。
しかし、私は両親や周りの人を馬鹿にしてはいなかった。
なぜなら、両親は私が生きて育上で、重要な知識を与えてくれていたからである。
『良いか?レオナ、周りの人が隕石を召喚できなくても良いんだよ。あぁ、レオナも隕石を召喚しなくても良いんだ!だって隕石を召喚しても何も良いことはないだろう?えっ、隕石に含まれる鉱物や仮に微生物が付着していたら大発見だって?大丈夫!世界には他にもた〜くさん、偉い人がいるからね。今は隕石を召喚するよりも隕石があるところに行くことが良いんだよ。あぁ!大丈夫、レオナは行かなくて良いんだよ!えっ?!すぐに帰って来られるって!?いや、パパやママはレオナが一瞬でもいなくなると寂しからね。だから、行かないでほしいな。』
父は、このように少し周りクドいが優しく常識を教えてくれたし、
母は
『良いか、レオナ!お前は知識を人に言わなくて良いんだよ。老人とか偉い奴ってのは、自分が負けそうになるとむきになって突っかかてくる奴が必ずいるからな!知識は論文とか公式な場所で発表すると良い。そうすれば、お金をもらえることもあるかもしれないし、何より世の中にはレオナが思い付いたことを自分の知識として人に言ってしまう奴がいるからね。』
などという特許や金銭感覚について教えてくれた。
両親が、毎日言ってくれていたのは、
『絶対に人を馬鹿にするな。人の努力を馬鹿にするな。お前が挫折した時、助けてくれるのは、お前の周りにいる人だから、周囲から人を遠ざけるようなことは絶対にするな。』
ということだった。
私は両親の教えのとおり、人を馬鹿にすることはなく、生きていたつもりだった。
魔法初等学校の教師にも、何も言わず、彼より簡単で魔力消費が少なく発動時間の早い魔法を披露したくらいだ。
魔法は今の世では便利な能力だけど、人を和ませることはない。(やればできるかもしれないけど。)
私は魔法理論の授業よりは、一般教養で習う音楽の授業が人を和ませると思っていた。
同級生の涌井カリナさんのように歌を上手く歌えたら良いなとよく思っていたものだ。
私がカリナさんに歌を歌ってもらおうとすると、周囲の人が、
『歌なんて上手くても確実に歌手になれるわけではないしね〜。その点、レオナさんは魔法理論の天才だし羨ましいよね〜。』
なんてカリナさんの目の前で言うから、カリナさんは泣きそうになり、私を避けるようになった。
私は魔法中等学校の時には魔法理論に関しては学ぶことはなく、逆に教師にも質問や魔法陣の改良などを依頼されるくらいになっていたので、飛び級制度が適用され、授業は免除、代わりに魔法大学校の研究室で研究をすることになった。
しかし、研究の合間に、美術や音楽の教務にこっそりと参加して、カリナさんの歌を聴いたり神城ゼンジロウ君の絵をみたりしていた。
でも、教師に見つかると
『葉月さんはこんなものよりも世界の発展に貢献するようなことをしてください!』
なんて言われて教室から出されてしまう。
カリナさんやゼンジロウ君の前で歌や絵を『こんなもの』なんて言わないでもらいたいな。
〜〜〜〜〜〜〜〜
私が成人する頃、
昔、両親が心配していたような周囲には誰もいない人間になっていた。
どうしてだろう。
私は誰も馬鹿にはしていないのにな。
魔法理論なんてどうでもいい。
きれいな歌声やきれいな絵を描ける能力が欲しかった。
例え、自分ができなくても、周りにそんな友達がいて、私が下手な歌を歌っても、下手な絵を描いても、気にしない世界が良かった。
〜〜〜〜〜〜〜
そんなある時、この国の首都に天使が降りてきた。
天使は某イタリアンレストランチェーンの壁に描かれているような姿(実はこの天使はとある絵の一部を拡大したものである)で現れた。
天使は何も喋らなかったが、その愛らしい姿から、救いを求めてきたものを助けると思われていた。
しかし、あるテレビの中継で、インタビューをしようとして、近づいたアナウンサーを一瞬で蒸発させた光景が全世界に配信された。
世界は大混乱となった。
ただ嘆く者、天使を殺そうとする者、それらに反発する宗教信者、天使の周りには、天使に殺された者の死体や天使の処遇で争った者の死体が放置されていた。
天使はそれらを見て、ニコニコ笑っているだけだった。
国としては、もはや放置はできず軍隊や多くの魔法師に天使討伐の命令を出す。
しかし、一部の軍人や魔法師は宗教上の理由で拒否、命令に従って攻撃しようとする軍人や魔法師の邪魔をする者もいた。
例え攻撃に成功しても、天使には効果はなく、反撃にあい、死亡する者が多数出たことにより、攻撃は中止とされた。
しばらく動きを止めていた天使だが、行動に移り、道行く者や建物を無差別に攻撃するようになった。
老若男女問わず攻撃され、建物もほとんどが更地になり、これ以上、首都として機能が維持できなくなるまでになったとき、私に依頼がきた。
その頭脳を持って、天使を行動不能にしてもらいたいとの依頼で、私が無理と判断、あるいは殺されたときは、自国の残存部隊と各国政府に協力依頼をして、天使に対して魔導縮退砲を撃ち込むとのことだ。
魔導縮退砲は極小規模のブラックホールを短時間発生させる武器で首都はおろかこの国も滅びる危険性があるが、天使を放置するわけにもいかないので、このような措置になった。
私以外にも天才と呼ばれている人はいたが、例え天才と呼ばれている人でも、宗教的な存在を害することはできないみたいであり、この国の良い意味での宗教的関心の薄さの中で成長した無宗教の私が抜擢されたらしい。
さて、私は天使の前に瞬間移動の魔法を使い移動する。
天使は私に向かって炎を出すが、私は自分の周りに真空の層を作り、炎を断絶、対流圏内で起きる現象は真空になると発生しなくなるので、炎や水なんかは私には効果がない。
私自身を燃やされようとした場合には、どうやら天使も魔力(この場合は天力か?)を使用していると判明したので、撃ち込まれた魔力を無効化すれば、あのアナウンサーのように燃やされることはないので私にとっては問題はない。
ただし、打ち込まれた魔法によって足場が悪くなるので、天使の目の前まで歩いて移動するのには苦労するが。
天使の魔力は膨大な量であり、防ぐ私も疲労していく、私も電光や炎等の攻撃をしてみるが、天使には効果が無いみたいなので、このまま続くとジリ貧で負けてしまう。
対応策を考えるが、なかなか良い案は思いつかないな。
先ほどから、天使は私には炎や水などは効果が無いと判断したのか、私に直接魔力を撃ち込み、ダメージを与えてくる攻撃方法をとってきたので、私も同じ攻撃をしてみると、多少の効果はあったのか、私の魔力が当たった時、天使の顔が少し歪んだ。
「人間を殺しても心は痛まないみたいだけど、自分が攻撃されたら痛いみたいね!」
私は天使がいる空間そのものを断絶できないかどうかと試してみた。
子供の頃、私はカリナさんやゼンジロウ君と仲良くなりたくて彼らが好きな物を調べていた私は彼らがよく読んでいた漫画に「空間断絶」という技があったのを思い出したのだ。
持つべきものは友達ね。
もっともカリナさんもゼンジロウ君も私はを友達とは思っていないでしょうけどね。
私は魔力が空間に作用できるように魔法陣を構築、天使の右腕を照準して発動すると思ったとおり、天使の右腕はボトっと地面に落ちた。
発動するのには、かなりの量の魔力が必要だけどね。
天使に拾われてくっつけられても困るので、更に魔法を発動して落ちた右腕を細切れにする。
トカゲの尻尾みたいに生えてきたら困るけどね。
天使は細切れになった右腕を呆然と見つめた後、私を憎しみの籠った目で睨んできた。
やれやれ、貴方がしてきた方が酷いからね。
自分がこの世の不幸を背負っているみたいな顔をしないでほしいわ。
しばらくしても、幸いなことに天使の右腕は生えてはこないみたいだから空間断絶は効果があるみたいね。
私は天使の全身を対象に魔法陣を構築、魔法を発動して、天使の五体(右腕がないから四体かしら?)をバラバラにした。
空間断絶の魔法を複数発動したから、もうほとんど魔力が残っていないわ。
魔力酔いも酷い。
私が魔力酔いの影響で目眩を感じていると、天使から何かの魔法陣が構築された。
「この魔法陣は何かしら?」
どうやら天使が敗れたことを鍵として発動する魔法らしい。
私は魔法陣が表す内容を読み取る。
魔法陣に記載された内容は、
『天使を倒した者を回帰させる』
という魔法だった。
天使の身体に残っている過去の記録の残滓を読み取ったところによると、歴史上、多くの天才が若くしてこの世から去っていた。
例えば、音楽の天才と言われたカーディナルや絵の天才と言われたゼンジュウなどの一部の天才が夭折した原因はこの天使によるものらしくて、別に天使を殺さなくても、天使が勝負事に負けたら発動するみたいね。
私は発動した魔法陣を壊そうしたけど、魔力はほとんど残っていないし、魔法陣や過去記録の読み取りに時間をかけ過ぎたみたい。
発動は避けられないようね。
私は発動する魔法による光に包まれながら、
「もし同じ時を繰り返す事ができるならカリナさん達と仲良くしたいな。」
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「おとうさん。なんで皆は隕石さんが珍しいって言っているの?私が隕石さんって、呼んだらすぐにきてくれるよ!」
天才と言われるより、仲が良い友達が欲しかった私は時を戻ったら今度は積極的に友達と付き合おうと思う。 鍛冶屋 優雨 @sasuke008
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