送り人の追憶

怒りの火と燃え遺りと送り人

私は

また見送る

既に死んでる身で

未だに

この世に死が身憑き

親しい友人が先に逝くのを

ただ見送る

次は俺の番と

見送って貰えると思ったのに

先に逝くとは何事か

優しいヤツだった

怒りで世界を焼き尽くさないように

常に我慢していたのは知っていた

怒りの納め方

飼い慣らしかたは教えた筈だった

でもダメだった

外を燃やさずに

自らを燃やし尽くして

おまえの残した怒りの残り火が

俺の燃え尽きた何かに移ったのかもしれない

心の奥底に

常に遺された

拾った何かに

燻り続ける

また見送る

次は俺の筈だったのにな

薬と機械で無理に活かされてるのだから

停めれば

止めれば

すぐに逝けるだろうに

遺された何かに

生きろと言われた気がして

臆病な俺には

自分で自分を終わらせられない

自然と逝けるまで

あと何人見送る事になるのだか

妻は言った

「きっと貴方は送り人なのだから」

「皆が逝くまでは活かされる」

「大丈夫」

「次は私が見送ってあげるから」

「何も怖くないよ？」

「全部憶えていてあげるから」

今回は見送ろう

今回も見送ろう

待ってろとは言わない

すぐに追いつけるだろうさ

ゆっくり休んでくれ

先に行って安全確認でもしてくれや？

道案内でも頼むかもな？

逝く先は同じだろうさ

今は安らかに

ただ心安らかに

怒りの火は今度こそ消えたさ

もうおまえを苛むモノは無い

もうおまえを悩ますコトも無い

心穏やかに

ただ穏やかに

誰も恨むな

何も怨むな

怒りの火は俺が引き受けよう

俺は憶えておくよ

おまえやおまえらが遺したナニかは

ちゃんと俺が引き受けてるよ

安心しろよ

ハードディスクは処分するし

黒歴史の痕跡もしっかり消してやる

アフターケアもバッチリさ

送り人ナメんなよ？

今までもこれからも

ちゃんと俺の番が廻ってくるまで

送るから

遺すから

だから安心して

今は心安らかに

今は心穏やかに

逝ってらっしゃい

還って来んなよ？

次の世界をお楽しみに

おまえの旅路に幸多からん事を祈って

俺は此処に居るよ

私は此処に残るよ