第20話 お姉ちゃん、任される?
「い、いいって! そんな大げさにしなくても……」
「ん〜? そんなの幸多くんが勝手に決めることじゃないし! だから大人しく寝てるのっ!」
体育時間に村尾に当てられた直撃ボールのダメージは大した事がなかった。
しかし保健室で長時間眠りまくった俺は、教室に戻るまでに足元がおぼつかず笹倉に寄りかかるという失態をしでかしてしまう。そんな危なっかしい俺に対し、笹倉は青夏と一緒に看病してあげると言いだした。
単なる睡眠不足で寝ていたはずなのに頭へのダメージを気にしての気遣いにより俺は今、笹倉家のベッドに寝かされている状態だ。
秋稲に手を引かれて家に上がったところでさらに青夏の手に引っ張られ、今はひたすら天井の壁を眺めている。
「参ったな……」
「何が参ったの?」
「いや、今の状況が」
「諦めてね? 私、こう見えて心配性なんだから!」
笹倉は自分の家に帰ってきた途端、学校での緊張が解けたかのようにくだけた言い方に戻っていた。
「そこは、ほら……いきなり親しげに話してたら幸多くんが大変でしょ? だからだよ」
「俺が大変?」
「幸多くんの男友達とかもそうだし、幸多くん狙いの女子とかが勘ぐりそうかなって」
俺の男子友達というと、第一に村尾。第二に安原、おまけに月田くらい。
笹倉と直接関わりがあるのは村尾だが、村尾のことだろうか?
「そんなことないけどなぁ。俺は好きでもない女子に好かれてもそんな嬉しくないし、男子の友達とかに気を遣うとか無いよ?」
「……好きでもない女子ってたとえば?」
「え、えーと……」
ベッドで横になっている俺に顔を近づけながら、笹倉は答えにくい質問をしてくる。それこそ息づかいが分かるくらいの近さで。
……というか、笹倉ってこんな訊いてくる子だったっけ?
俺とはずっとお友達のはずなのに、最近は関心が高まっているのかだいぶ近い感じがあるんだよな。
顔を間近に近づけながら話す秋稲に緊張していると、青夏が力強く握りしめたタオルを目の前で広げて俺の額に乗せてきた。
「――っ!? つ、冷たっっ!!」
乗せる手前で顔を強張らせていたけど、どうやら相当に冷やしまくったタオルだったようだ。
「ちゃんと冷たさを感じたね? 良かった~安心安心」
「青夏ちゃん、俺、熱なんてないよ?」
「ん〜? お姉ちゃんがすっごい間近に近づいて興奮してたよね? 熱上げて顔を真っ赤にしてたから冷やしてあげようと思ってたんだ」
……これはもしやヤキモチ?
「せ、せいちゃん! そんなことないよね、幸多くん?」
「そ、その通り!」
「ふーん? どうだか。でも、良かったねお姉ちゃん?」
「え、何が?」
俺の彼女になる宣言をした青夏なのに、最近やたらと俺と秋稲をくっつけようとしているように思えるんだが。
どう見ても、俺の密かな気持ちに気づいているとしか思えない行動と態度を取っているのは何故なのか。
「良かったって、秋稲さんだけなの? 俺は?」
「幸多くんは黙って布団かぶって寝てる!!」
「――わぷっ!?」
すぐそばにいるのに、青夏は厚めで重たい羽毛布団を俺にかぶせ、俺から二人の姿が完全に見えなくしてしまった。
……つまり俺には聞かせたくないし聞かれたくない話ってわけだな。
具合も悪くなければ大して眠くも無いが、姉妹の話を邪魔するのは良くないので俺はそのまま無理やり眠ることにした。
「……で、なんだけど。お姉ちゃんの最近の……」
「そんなことは……ないけど、だからってそんなの……せいちゃんはいいの?」
などなど、断片的に聞こえてはいるものの、顔を出してしまえば青夏からのお叱りが延々に続く恐れがあるのでとにかく目を閉じまくった。
「うん。別にいいよ。元はといえば、幸多くんが性格悪そうな女子に絡まれていたのが原因だしね。それを誤魔化す為っていうか、今のところ全然彼女っぽいこと出来てないしさー」
「そ、それって……キス……とか?」
「まぁね。キスくらい簡単なんだけど、わたしがしても幸多くんにはあんまり効果無さそうなんだよね」
もはや二人が話してる会話の内容が聞こえなくなったくらい、俺は人の家で本格的に眠り始めている。
目が覚めたら翌日だったとかシャレにならないけど、今はとりあえず寝ておく。
「じゃあ、お姉ちゃん。幸多くんを任せたよ~!」
「あぅ……う、うん。え、でも、当面はせいちゃんも付き合い続けるんだよね?」
「適当にね。お姉ちゃんが意地を張らなければきっと大丈夫だと思うよ!」
「うん」
姉妹二人の密談が繰り広げられる中、結局俺は夜まで熟睡だった。
ズッ友宣言をしてきたお隣さんから時々優しさが運ばれてくる件 遥 かずら @hkz7
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