第19話 気づいたら保健室に運ばれて泣いて怒られてた
「おいっ、
よく分からないけど、俺はどうやら倒れ込んでしまったらしい。ちょっとだけ思い出すと、確か体育の時間にドッジボールをしていたような。
自慢じゃないけど、俺は運動神経が皆無。ボールを投げるのは出来ても強い力で投げられたボールを受け止める力は無いに等しい。
それに加えて、実は今日はあまり寝てなかった。
朝に笹倉と昇降口で話をしていた時点では眠気を感じる余裕も無かったが、笹倉と一緒に教室に着いてからの記憶がまるで無い。
授業も聞いてたようなそうでないような、とにかく昼休みが終わった直後の体育時間は非常に曖昧でほぼ意識がどこかに飛んでいた。
そんな状態なものだから、自分の身に何が起きたのかさっぱり。だけど、誰かが俺に声をかけているのだけは何故か聞こえる。
「幸多くん、幸多くんっ!! 嘘、全然起きないなんて……ほ、保健室に――」
この声は女子だな。それもおそらく笹倉っぽい。
「……悪い、ぶつけたのはおれだからこいつ、保健室に運んでくる!」
「え、でも……」
「運ぶのに女子の力は借りられないしな。そこの男子……安原だっけ? こいつ運ぶの頼むわ!」
そして、ボールをぶつけてきた張本人の村尾が安原に声をかけている。
「あん? おわっ!? 誰かと思えば栗城! え、なに、栗城にボール直撃したのか?」
確か安原と村尾はあまり話したことがなかったはず。俺の前後の席な彼らだけど、安原が好きなのは女子だから俺以外の男子と話してるのを見たことがない気がする。
「……まぁな。おれがぶつけちまった。だから、悪いけど手伝ってくれ」
「運動神経なさそうだとは思ってたが、直撃は流石に避けようがなかったか。いいぜ、栗城は仲間だし手伝ってやるよ! えーと?」
「あ、おれは村尾。幸多……栗城の前の席の」
「村尾か。じゃあ、村尾は片方の肩を頼むわ」
流石に運ぶといっても担架運びじゃなくて両肩を支えるだけみたいだ。
それにしても女子の声は笹倉しか聞こえてこなかったけど、笹倉以外の女子はあまり知らないし知っている女子はクセが強すぎるし、村尾と安原に運ばれるのが正解かも。
「……んむむ。う……」
「おっ? 目が覚めたか?」
「あれっ? 安原?」
「まぁな。お前を見ていたのが女子じゃなくて悪いな。オレは戻るけど、休み時間になったら誰か来てくれるかもだからそのまま眠ってていいぞ!」
目覚めたら安原だった。
……村尾の奴より安原の方が面倒見がいいのかもしれないな。バイトの件もそうだし。
そして、どうやら午後の授業が始まっているようで俺だけ保健室で寝かされているらしい。眠ってなかっただけあって完全に熟睡状態。
それもあって起こしても起きなかったみたいだ。保健医がいないのをいいことに、俺はもう一度目を閉じて完全回復を目指すことに。
「……ばかっ!! 幸多くんのバカバカ! 何であんな男子と友達なの……? 一番のお友達はあの男子じゃなくて私なのに……」
おや?
何やら連続した叩かれと体を揺らされているような気がする。しかも上半身に集中的に。
しかも何故か怒られてるような?
調子に乗って寝すぎたから保健医の人が少し強めに起こしているのかも。もう体力もほとんど回復してるし流石に体を起こしながら元気アピールしないとまずいな。
そう思いながら体に力を入れて上半身を起こそうとすると、誰かが俺の胸の上に乗っかっているような感覚があった。
もしかして心臓が止まってるとか確認されてる系?
それはいくら何でもってことで、勢いよく動かすが――
「――はわっ!?」
……何か可愛い反応だな。
目を開けると、至近距離にあったのは女子の顔というか笹倉の顔だった。しかもかなり顔を真っ赤にさせて慌てて俺の胸の上からすぐにいなくなり、近くの椅子に座り直した。
「さ、笹倉……?」
「違います!」
「あ、秋稲さん」
「はい。何ですか? 幸多くん」
下の名前で呼んでるだけなのに、こんなに親しかっただろうかと錯覚しそうになる。それにしても、かなり怒ってるみたいだ。
そうじゃないとそこまで顔が真っ赤にならないだろうし。
「いつからここに?」
「ついさっきくらいです。幸多くんはいつ頃目を覚ましていたんですか?」
それにしては結構時間が経っている気がするけど。しかも気のせいか涙を流したみたいに目を腫らしている。
「俺もさっき……いや、誰かが来たと感じた時くらいからかな」
「そ、そうですか。もう放課後ですけど、大丈夫なんですか? どこか痛いところとか……」
「放課後!? え、そんな長い時間寝てたの?」
「壁掛け時計で確かめたらすぐに分かりますよ」
スマートフォンは教室に置いてきてるし時間の確かめようがないと思ったけど、そういえば保健室には時計があるんだった。
笹倉に言われたとおり壁掛け時計を見ると、確かに放課後の時間帯に変わっていた。
「……そっか。そんなにかー」
「ぐっすり眠ってたみたいだけど、もしかして今朝からそうだったんですか?」
「ま、まぁ、実を言うとね」
「昨日とかじゃなくて、笹倉会の疲れとか?」
「そんなところかな……」
多分メンタル的に疲れがきてるけど、俺よりは笹倉の方が大変だよな。
「あーところで、秋稲さん」
「うん。何ですか?」
いや、泣いてたの? とか聞いていいわけないか。訊いていいとしたらあれだ。
「何で俺って怒られてたの?」
「――! えっ、き、聞こえてたの?」
「いや、何か体が揺れてるな~って感じたら直後に軽い衝撃があったから」
痛さなどもちろんなかった。
けど、笹倉からしたら心配させといてスヤスヤといい気になって寝まくってるなんて。などと、よほど頭にきたに違いない。
「だって幸多くん、ちっとも目を覚まさなかったじゃないですか! 私、てっきり置いていかれるかと……」
「勝手にあの世に送られても……」
「……とにかく!! 睡眠不足は駄目ですからね! 今日はせいちゃんと一緒にとことん看病させて頂くんですから!」
「え? 青夏と看病?」
もう治ったというかただの睡眠不足なだけなんだけど。
「そうです! 今日はこのまま私の家に来てもらいます!」
「そんな、悪いよ……だってボールぶつかっただけでどこも悪くない……」
「悪いですっ!! 友達を悲しませた罪は重いんです! だから、幸多くんは黙ってついてくればいいんです。それとも嫌とかです?」
いつになく強引だな。家が隣という利点はあるにしても、今度は俺が看病される側になるとは予想外すぎる。
「じゃ、じゃあ……よろしくお願いしま――」
「――うんっ! お願いされたから教室に戻って帰り支度をしてきてください!」
多分誰も教室に残ってないだろうけど、教室に戻るのは中々に面倒だな。
「私、外で待ってますから。だから、帰りも一緒に帰ろ?」
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