第24話「無限とも言える刹那」

──僕らは北西の遙か彼方の魔王城を目指して旅に出た。草原を歩き森を抜けさらに荒野を進んだ先で遠方に村を見つけた。




村には畑が多くあるのが見える。イモ類を育ててるのかな。それ以外は普通の村っぽいな。




ん?村の方から誰かがこちらに走ってきている。




「あ、あのー!!助けてください!!」




そう遠くから叫びながら僕たちに近づいてきた。


見た目は村の少年Aだ。茶髪で背は低く特に珍しい顔でもない。




「どうしたの?」




「レイシさんですよね!!僕の村が危ないんです!!助けてください!!」




「なんで僕の名前を知ってるの?」




「時間が無いんです!!とりあえず村まで来てください!!」




そう言って少年Aは村に走っていった。




「どうする?ついて行くのか?」




「今は行くしかないね」




「私もう疲れたー!!」




「リリスはアマテラスと歩いて来て」




「ああ」




とりあえず僕は走って少年Aを追いかけた。




「ここです」




そう言って村の最奥の洞窟のような場所に連れてこられた。途中村人達が話しかけて来たけど全無視した。後でちゃんと説明しないと。洞窟は外が昼であることが関係なく真っ暗で10歩先は見えない。ていうかこの洞窟──




「来ます」




──ドスンドスンドスン




重い足音が聞こえる。既に魔力探知には引っかかっている。何らかの魔物だ。




───ドンドンドンドン




走ってきた!そして上半身のガッシリとした筋肉以外は洞窟の暗闇のような真っ黒な体毛に覆われた二足歩行人型で凶暴な牛の顔で巨斧を持つ魔物が見えた。ミノタウロスだ!!僕はとっさに少年Aの前に出て腰に鞘とそれに納められた刀を生成する。そして両足を前後に開き刀を握る。




「モオォォォォォォ!!」




ミノタウロスが巨斧を振り下ろしてくる……がもう遅い。僕は既に背を合わせるように牛の後ろにいた。




──ズバン!!




──ドスン




ミノタウロスの上半身と下半身が泣き別れになり倒れる。これはアスターの流れ星を応用した抜刀技。




──流星一閃




うん。この技いいね。かっこいい。




「さすがレイシさん!!これでようやく──」




「そろそろなんで僕の名前を知ってるか教えてもらっても?」




「はい!僕の能力です!」




能力?見た人の情報を得られる能力とかかな。




「僕の能力は記録セーブ読み込みロードです!僕と僕の指定した人のどちらかが亡くなったときに任意の記録した時間と場所まで戻れる能力です!!」




まぁそれで存在しない過去に僕と出会ってたってことだろう。そしてこの子自身は能力で生存することは可能だろう。




「理解したよ。君の能力で指定した人物をあるタイミングまで守り続ければいいってことだよね?」




「さすがです!!そんな感じです…けど──」




「大丈夫。理解してる。この洞窟、ダンジョンなんだね。それでさっき魔物が出てきたからダンジョンブレイクしたってこと。だからしばらくしたらこのダンジョンから大量の魔物が出てくる。それを対処しながら指定した人を守り続ければいいんだよね?」




「す、すごいです!人目で状況を理解して対処法まで思いつくなんて!!」




「多分ここまでは存在しない過去の僕も思いついたはず。それでも守れないほどの大量の魔物か強力な魔物が出てきたってことか。いや後者だな。このタイミングのダンジョンブレイク。僕もダンジョンでイレギュラーに遭遇したことがある。全て繋がった五大元素竜だ!!」




あ、つい思考をそのまま口に出してしまった。


まあいい。やることは1つだ。




「もうレイシさんの方が僕の能力を使いこなしてますよ!僕はそこまでは分かりませんでしたから!!」




「特定の人物はこの2人に守ってもらって!!僕はダンジョンに入ってくる!リリスとアマテラスは人を守りつつダンジョンから出てきた魔物を全部倒して!」




僕は着いたばかりの2人に口早に説明し、ダンジョンに向かった。




「全く貴様と言うやつは……了解だ」




「私達も頑張るからレイシも頑張って!!」




──ダンジョン内、魔力探知で目視は出来ないが長い空洞がかなり先まで続いているのがわかる。




──最大出力氷凍世界アイスフィールド




ダンジョンのはるか遠方まで凍る。これでこの階層の魔物は全滅だろう。なるべく外に魔物が出ないよう殲滅しながら進もうと思う。


そうこうしながらこのダンジョンの最下層、ボス部屋の前の扉まで着いた。扉の横には巨大なロウソクが壁に取り付けてあり、火が燃えている。ダンジョンのボス部屋の扉はだいたいこうなっている。


大きな扉が開き出す。




──ゴゴゴゴゴ




───!?




僕は目の前に映し出された情報に困惑する。僕は前回のように五大元素竜がその部屋いっぱいに巨躯


を存在させているのかと思っていたが違った。


たしかに五大元素竜が僕の視界には存在している。だがその姿は──






───竜人。






「なんだお前。冒険者か?悪いがここにいた魔物は始末した……くはっ……代わりに俺が相手してやろうか?」




薄橙色の鱗に覆われた人型の竜は顔だけこちらに向けて話しかけてくる。およそ人とは異なるトカゲのような尾を振りながら。




こうなると話が変わってくる。なぜ?ダンジョンのボスと戦闘することは考慮していた。だけど……まさか竜が魔物相手に能力を使うとまでは……そしてその能力があの時の氷の竜と同じなんて……




僕はもう一度その竜人を眺める。肘とふくらはぎにはあのブレスのエネルギーを応用したジェット噴射が可能だろう四角形の筒が生えている。


さすがにジェット噴射での移動速度を対応するのは骨が折れるじゃ済まない。


どうしよう……ここでダンジョンの外に出られると困る。ここで対処するしかない!


僕は左腰に鞘と刀を生成する。




「君は五大元素竜でしょ?何の元素なの?」




「くはっ、俺が竜…しかも五大元素竜とわかるとはな……俺の同類とも戦ったということか。俺は見ての通り、岩だ」




竜人は今度はこちらに体を向け胸に右手を当て説明する。




「ダンジョンのボスは強かったの?能力を使うほど?」




「正直に言おう。強かったぞ。あいつの存在は守り神のようだったぞ。あいつが存在するだけでここら一帯の地域は魔物が寄ってこないほどにな。」




なるほど。普通の守り神なら大事だったが、ここはダンジョン。時間が経てば復活するから良かった。




「どんな見た目だったの?」




「お前質問が多いな。普段の俺なら既に殺しているがなにせ今は寝起きで機嫌がいい。あいつの見た目か……たてがみの生えた獣だな。」




「本当に守り神みたいだね。君はどうやって復活したの?」




「クリュスタロッスが封印されたろう?俺らは深いところで繋がっている。ただの封印なら大したことなかったのだがいかんせん強力でな。俺らは直接封印されなくとも弱体化し眠っていた。冬眠みたいな感じだ。しかしクリュスタロッスの封印が解かれたことで俺らも目が覚めたということだ。」




なるほど。クロノスくんは封印するのがやっとってる言ってたけど逆にそれが良い方向に進んだんだ。それとも知ってて──あの人のことは全然わかんないや。




「不便な体だね」




「くはっ、それは同感だ。これに関しては能力でどうにもならんからな!さて──」




───来る。




僕はすぐさま刀を握って─






───次の瞬間僕らはお互いの位置が入れ替わっていた。




何とか流星一閃で耐え忍んだ!危なかった。けど無理して速度を出したせいで膝と足首の靭帯を損傷した。もうさっきの速度で流星一閃は使えない。次は無い!!




───カキーーン




音がようやく僕らに追いつく。




───プシュー




竜の筒がオーバーヒートする。これで少しの間高速移動が使えない!この隙に仕掛ける!!




「お前、俺の攻撃を防──」




──ドドドドドドドドドドドドドド




竜が僕の方に振り返りきる前に連打付与した高速移動斬撃を仕掛けた。けどこの斬りごたえ……くそっ!




───ボロボロボロボロ




「残念だったな」




竜人は即座に岩の壁を展開して斬撃を防いでいた。


くそっ、、手足ズタボロだ。竜は能力を発動するだけでここまで強く……!!




「まだ」




─ダッ




僕は後ろに跳び、距離を取りつつ左手を地面に着く。






「重力世界グラビティフィールド」




ズウゥゥゥゥゥン




この巨大な部屋全体に凄まじい重力がかかる。




「ぐっ……くはっ、この程度で俺は止まらんぞ!」




この技を使っても竜人は多少動きが鈍くなる程度だ。決定打にならないし致命傷にすらならない。




「さあトドメだ!!人間!!」




──またあの高速移動が来る。僕は両足を前後に開き、刀を鞘に1度納め握り直す。




──ダンッ!




僕らは互いに攻撃を仕掛ける。時間がゆっくりに感じる。


たしかに初撃の速度の流星一閃はもう出せないけど、君に重力がかかり鈍くなった今ならただの流星一閃でも対応可能だ。むしろ僕の方が高速で動けているんだよ。


僕は刀を竜人の首の高さに合わせる。君の速度も利用させてもらうよ。




──ああ、すごく遅く感じる。竜人は自身に迫る死を悟り刀が首に近づくにつれ少しずつ表情が曇る。


この無限とも言える刹那で僕は竜人の首を─




──フッ




再度お互いの位置が入れ替わる。最初の僕たちの構図だ。だけど竜人には首がない。






──ザンッ……ゴプゴプゴプ……バタッ




音が遅れて聞こえ、竜人の首から吹き出るはずだった血は重圧によって鈍い音を立てながら零れ、その首のない肉体は倒れる。




なんとかなった。良かった。






──うっ、




僕は痛みのあまり両膝を地面につく。少々体に無理を聞かせ過ぎた。僕は少し時間をかけて丁寧に体内に能力を発動し傷を癒した。戦闘中にできるくらいの精度と速さがあれば良かったけど…今後の課題だな。


僕は走ってダンジョンの外に向かった。




「みんな大丈夫!?」




ダンジョンの外に1人の少年と3人の少女が防御魔法の結界の中にいた。




「ああ、魔物は1匹もダンジョンの外に出てこなかったぞ、貴様こそ大丈夫なのか?」




「僕は五大元素竜の岩を倒してきたとこ。指定した人ってこの子?」




「そうです!この方です!自己紹介をお願いします。」




すると綺麗なピンク髪でショートヘア。


僕から見て右横髪が耳にかかるくらいの三つ編みでそれを引き立たせるような左に傾けて被ったベレー帽がとても似合っている。服装は白いワイシャツの上に黒いニットベストに灰色の短いスカート。そして白い靴下に黒いローファーだ。




「あの…私…ヒナって言います。」




身長はアマテラスより少し大きいくらいだ。僕はその子に目線の高さを合わせて─




「ヒナちゃんって言うんだね。お兄さんはレイシだよ」






それにしてもこの子の服装……ほかの質素な服装に比べると異様だ。




「あ、あの…」




「レイシさん!僕とヒナさんを助けて頂きありがとうございます!」




「全然気にしなくていいよ。これくらいお安い御用だよ。」




「あ、あの…」




「それで、ヒナさんの事なんですが─」




「あ!あの!!」




ヒナちゃんが突然大声を出した。




「どうしたの?ヒナちゃん」




「私のこと子供扱いしないでほしい…です。これでも成人してるので……」




「そんなんだね。ヒナちゃん成人してるんだね。」




もちろん目線の高さを合わせている。成人してようが関係ない。というかうちのパーティーには既にアマテラスがいるからなぁ。慣れてるというか……




「だから……その、ヒナちゃんって言うの…」




「嫌なのかな?」




「いや…じゃないけど……」




「なら、いいね」




──なでなで




「………」




ヒナちゃんは無言のまま頬を赤くしている。




「それでヒナさんのことですが、少し前に貴族の1家が来て突然ヒナさんをこの村に捨てたんです。それでレイシさんが次に行く国がその貴族がいる国なので連れて行ってくれませんか?」




物騒だな。とりあえず事情を聞きに行くだけでも価値があるな。




「お…お願いします」




「もちろんだよ。2人もいいよね?」




──あれ?2人がいない。




「お二人はあちらに─」




言われるままに少年Aの指さす方を見ると─




「見て!この芋デカい!」




「アマテラス!勝手に抜くな」




え、神様より悪魔の方が常識あるじゃん。いや、それより──




その後色々話して一時的にヒナちゃんがパーティーに加わった。少年A…ではなく、タケルくんの能力の指定の対象は選べないらしい。とりあえずヒナちゃんを助けるのが最善の未来に繋がるそうだ。


僕らは村を後にしてヒナちゃんの家族がいる国を目指すことにした。




「レイシさん!ありがとうございました!!」




「こちらこそ食料(特に芋)たくさんもらっちゃって…ありがとう!!またいつか!!」




こうして僕らはまた歩き出した。






アマテラスには厳しく言っとかないと。

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能魔大戦 星のおかゆ @HoshinoOkayu

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