迫り来る女〜遂には私の目の前に……〜

青 王 (あおきんぐ)

誰? ︎︎そこで何してるの?




 これは私が小学二年生の時に実際に体験した出来事です――――




 ◇




 ある夏の日。

 その日はとても暑かったのですが夏休みということもあり、朝から近くの公園へ遊びに行こうと二歳下の妹と一緒に家を出ました。


 当時私は二階建てのアパートの二階に住んでおり、玄関の扉を開けて外に出ると、その場から見下ろせる位置に駐車場がありました。


 そこには横一列にズラリと入居者の車が停めてあり、我が家の車も同じ様にそこに停めてありました。



 そして私と妹はいつもの様に階段を降り、駐車場を横切って、歩いて公園へと向かいました。


 私の家からその公園までは歩いて五分程の距離でした。

 近くにある大きな池の周りを真っ直ぐ歩いて行くとその公園があるのですが、途中必ず通る場所にお地蔵様が祀られている小さな小屋の様なものがありました。

 その中には大人が三人座れる程の長椅子が二脚置いてありました。



 普段はあまり気にならないのですが、その日は何故かその小屋が気になり、目だけでチラッと中を覗いてみました。


 するといつもは誰もいない小屋の中にその日は一人の女性がいて、長椅子に座り俯いていました。


 その女性は長い黒髪に少し大きめの白い長袖のワンピースを着ていました。

 しかしその女性は俯いていて、長い黒髪が顔にかかっていた事もあり、どんな人なのか、どれくらいの年齢の人なのかはわかりませんでした。


 そしてその女性には他の何よりも目立つ特徴がありました。


 それはデイ○ーダック(ドナ○ドダックの女の子版みたいなやつ)とミ○ーマウスの大きなぬいぐるみを両手で抱えていた事でした。



 私はホラー映画でよく出てくる幽霊の様なその姿や、夏の暑い日なのに長袖を着ていた事、そして両手にぬいぐるみを抱えて俯いていた事に異様な気味悪さを感じ、妹の手を引きいつもより早足でその前を通り過ぎ公園へと向かいました。




 ◇



 私と妹は公園へと到着し、いつもの様に砂遊びやブランコ、虫取りなどをして三時間程遊びました。


 その後、妹がお腹が空いたと言うので昼食を摂りに一度家に帰る事にしました。



 その時、妹がおもむろに口を開き『まだあの女の人おるかなー?』と言いました。


 私は妹もあの女性に気が付いていた事に驚きましたが『どうやろなー? ︎ ︎もうおらへんのちゃうー?』と誤魔化し、公園を後にしました。


 そして私達はその女性がいた小屋の前まで歩いて来ると、今度はゆっくりと、そしてしっかりと中を覗き込んでみました。


 すると小屋の中には未だその女性はいて、先までと何も変わらずぬいぐるみを抱え、長い黒髪を垂らし俯いた状態で長椅子に座っていました。


 この時私達はそのまま何も反応せず、静かに帰ればよかったのでしょうが当時私は八歳、妹は六歳とまだ幼く、子供らしくギャーギャーと騒ぎ、その女性を少し馬鹿にした様なテンションでその場から逃げるように走って家へと帰りました。



 ◇



 そして私達はその後何事もなく、母が用意してくれた昼食を摂りまたすぐに外へと遊びに出掛けました。

 その時、家にいた時間は約三十分程だったと思います。


 そして私達は玄関の扉を開け、階段を降り、駐車場を横切って先程の公園へと向かいました。


 すると先程まで公園近くのお地蔵様の小屋にいたはずの女性が、私達の家の近くの道端に座り込んでいたのです。



 私達はその女性にすぐ気が付き『えっ……!?』と息をのみ、その女性の方を一切見ずにその前を黙って早足で通り過ぎました。



 暫く歩き公園近くまでやって来ると私達は顔を見合せ『何であんなとこにおんの?  怖すぎやろ……』と言い、そしてその後お互いにこくりと頷き合い、意を決してくるっと後ろを振り返ってみました。


 しかしそこには誰もおらず、女性がついてきている気配すらありませんでした。


 私達はホッと胸を撫で下ろし、気を取り直して公園の中へと入り、また数時間程二人で沢山遊びました。

 この切り替えの速さも幼さ故だったのかもしれません。



 ◇




 夕方の五時頃。

 良い子は家に帰りましょう的なチャイムが鳴り響き、私達は家に帰る事にしました。


 余程公園での遊びが楽しかったのか、先の女性の事などすっかり忘れ、小屋の中を覗くこともなく真っ直ぐに家へと歩きました。


 そして私達が家の前の駐車場へと到着した時。

 私は横一列にズラリと並ぶ車の列にふと目線を移しました。


 すると先程のぬいぐるみを抱えた黒髪の女性が我が家の車の窓ガラスに顔をくっつけて、中を覗き込んでいたのです。


 しかも駐車場には何台もの車が停っているのにも関わらず、何故かピンポイントで我が家の車の中を覗き込んでいたのです。


 私達はその事実に震え、猛スピードで階段を駆け上がり家の中へと入りました。



 そしてすぐに母にその事を報告し、一緒に車を見に行ってもらう事にしました。


 しかし玄関の扉を開けて、アパートの二階の外廊下から我が家の車を確認するもその女性の姿は既に無く、母からは『何処にもそんな人おらへんやんか。しょうもない嘘吐きなや』と呆れられてしまいました。


 私と妹は顔を見合せ『おかしいなぁ?』と言いつつ、家の中へと入りました。


 そして妹はすぐに気持ちを切り替え、母とテレビを見始めたのですが、私はどうしても先程の女性の事が気になり、玄関の扉の横にある私の部屋へと向かいました。


 当時住んでいた家の私の部屋の奥には外廊下と面した窓があり、そこから駐車場が見えました。


 私はゴクリと唾を飲み、その窓にかけてあったカーテンを開け、意を決して窓をガラッと開けました。



 すると窓を開けたすぐ側の外廊下に、先程のぬいぐるみを抱えた長い黒髪を垂らした女性が顔を上げ、窓の外に立っていました。


 その時初めて見たその女性の顔は、目が赤く充血し、肌は異様に白く、見るからにこの世のものとは思えないようなものでした。


 私は思わず『ぎゃあああ!!』と大きな叫び声を上げ、ドンッと尻もちをつきました。


 そして泣きながら母の元へ行き、窓の外にその女性がいた事を報告しました。

 母は私の鬼気迫る表情にこれは尋常ではないと感じたのか、急いで私の部屋へ行き窓を開け外を確認しました。


 しかしやはりそこには女性の姿はなく、私はまたしても母に呆れられてしまいました。

 その後私も恐る恐る窓の外を覗き込みましたが、そこに女性の姿はありませんでした。



 それから五年間、私達が引越しをするまであの女性を目撃する事はありませんでした。



 大人になった今となってもあの女性が誰だったのか、何故我が家の車を覗き込んでいたのか、何故私の部屋の窓の外に立っていたのかはわかりません。


 ただ、その理解できない行動や異様な雰囲気がとても怖かった事を今でも鮮明に覚えています。


 この一件があってから、昨日放送された『本当にあった怖い話』などでよく出てくる幽霊の特徴ってあながち嘘ではないのだなと思うようになりました。


 長々と私にしては珍しく真面目に書き連ねて参りましたが、以上が私が体験した本当にあった怖い話でした。



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 最後まで読んで頂きありがとうございました。

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 私は他にもダークファンタジー、異世界ギャグコメディ、青春ラブコメ、短編を投稿していますので是非ともそちらも御覧頂けると嬉しいです(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”

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