衝撃と光

zinto

衝撃と光

あれは、自分が小学1、2年生だった頃だと思います。


両親は共働きをしており、帰りはいつも遅かったため、一人っ子だった自分は小学校が終わった後、自宅には直接帰らずに知り合いの家に帰らせてもらい、母親が知り合いの家に迎えに来てくれた後、一緒に帰宅するというのが日常となっていました。


その日も、いつもと同じように、知り合いの家に迎えに来てくれた母親と自宅に帰宅しました。

家の横には1本の街灯があり、辺りを照らしてくれているのですが、まだ誰も帰宅していない自宅は真っ暗で、その為、街灯の明るさに目が慣れてしまっているせいで、鍵を鍵穴に差し込むのも困難な状況にいつもなっていました。


とは言え、いつもの事ですから、それについて騒ぐでもなく程なくして鍵が鍵穴に刺さり玄関の扉は開きました。



「ただいま~」



母親と一緒に真っ暗な家の中に声を掛けました。

勿論誰もいませんし、目もまだ慣れていないため、まさしく暗闇の家の中は何も見えません。


その時です。


自分の頭をまるでハンマーで殴られたような衝撃が走りました。

しかしそれは衝撃だけで、痛みは全くありませんでした。


あまりの事に当然驚いたのですが、その衝撃と同時にが自分の目に飛び込んできていました。


それは正しく稲妻の様な青白い強烈な光で、自分の網膜に焼き付いてしまうのではないかと言うほどの物でした。


ですが、そんな強烈な光にも関わらず、不思議な事に周囲が明るくなることはなく、暗闇のまま、玄関の少し先の廊下に佇むある物ののみが光っていたのです。


その強烈な光はカメラのフラッシュの様に一瞬だけ光ったため、余韻を残しながら徐々に消えていきました。


消えていく最中も、その輪郭のみが鮮明に目に焼き付いているため、が何の輪郭なのかをじっくりと確認することができた自分は、思い当たる物を口に出しました。



「ブン太がおる……」


この言葉に母親は玄関の先を見渡したようなのですが、


「どこに?なんも見えんよ?」


そう返事が返ってきたのを覚えています。


我が家には家の中で飼っているペットの犬がいたのですが、普段ブン太は廊下の先の扉で遮られたリビングで自分達の帰りを待ってくれているため、玄関にいることはありませんでした。


「でも、おるもん。そこで光ったやん」


暗闇の中で間違いなくブン太の輪郭の光を見た自分は、母親にそう告げるのですが、


「光ってなんのことよ?」


どうやらその強烈な光を見たのは自分だけだったようで、母親は信じてはくれませんでした。


この言葉の後、突如暗闇の中から母親の足元に、何かが飛び掛かりました。


「きゃああああああ!!!」


母親は突然の衝撃に大きな悲鳴を上げたのですが、その犯人がブン太だとすぐに気が付いて気を取り直していました。


どうやら、自分と母親の声を聴き嬉しくなったようで、喜びながら飛び掛かってしまったようです。


そして、電気をつけてみると、朝家を出るときにリビングの扉の閉まりが甘かったようで、リビングの扉を押し開けたブン太が玄関の方まで出てきて、帰りを大人しく待ってくれていたようでした。


母親からは、自分がブン太がいると先に言ってくれていなければ気絶していたかもしれないと言われました。


あの日は晴天で、雨雲などもなく、勿論雷もなっていません。

家は道路沿いではありますが、車のヘッドライトで玄関を照らされる構造でもありません。

それに、どちらの場合でも、家の中全体が明るくなる事はあっても、犬の輪郭のみが光る……ということは考えられないと思います……


あの時、自分の頭をハンマーで殴られたような衝撃とともに、目に焼き付いた青白い強烈な不思議な光……いったい何だったのでしょうか?


ちなみに、あれから長い年月が経っていますが、今でもその衝撃と、目に焼き付いた青白い強烈な輪郭のみの光は、鮮明に思い出すことができます。

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