卵焼きが美味しいと、それだけで嬉しい。

「お母さん、今日の卵焼き、ふぅわふぅわで美味しかった!」


 鮎華あゆかの前に、からの弁当箱を差し出して、娘の笑顏がはじける。


「あ、ぼくも……」

 息子は、今まさに鮎華あゆかの手で洗われている弁当箱を見やりながら、

 遅れまい、と付け加える。

「おいしかった」


 そんな娘と息子の姿に 満足気にうなずきながら、かばんからからの弁当箱を取り出しているのは、鯉登りと

「うん。今日も、ありがとう。ごちそうさま」

 そう言って、キッチンに向かう。



 ふふふ、と笑いながら、鮎華あゆかは空になった弁当箱を洗っていく。



 リビングでは、

「お母さんが作る卵焼き、今日は ふぅわふぅわだった!」

 鼻歌でも歌うように言いながら、娘が、ソファーにダイブする。

 そのはずみで動かされた息子は、ちょっと ムスッとしながらも、

「明日も、甘いのがいいなぁ」

 と、リクエストを欠かさない。

「わたしは、醤油がらいのでもいいよ!」

 隣で歌い続けるあねを横目に、

 息子おとうとは、キッチンにいる両親鮎華と鯉登に目を向ける。




鮎華あゆかの卵焼きが、いちばんだよ」

 鯉登りと鮎華あゆかの耳元で甘くささやく。

「甘いのも、からいのも。鮎華あゆかの卵焼きが、いちばん 美味しいよ」







 






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卵焼き 結音(Yuine) @midsummer-violet

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