クレヨンの絵

栃木妖怪研究所

第1話 クレヨンの絵

 小学生の頃は、私の家の近くには何故か廃屋が幾つもありました。

 道を挟んだ向かい側も小さな廃屋。友達の家にいく時に曲がる角の家も廃屋。祖母同士の付き合いで、幼い頃から連れて行かれた家の裏側には、小さなアパート丸ごと廃屋でした。

 廃屋と言っても、マニアの方々が行くような、立派な廃屋?ではなく、玄関も扉も無くなって台所と二間位しかなく、外から全て丸見えで倒壊寸前のような物ばかりでした。

 危ないので中に入るな。と言われておりましたし、外から丸みえですから、中に入れば直ぐに見かけた大人に叱られます。

 入った所で、廃材と埃しかなく、面白い物でもありません。普段から町の景色の一部でしたから、何の違和感もありませんでした。

 

 小学校5年生の秋でした。私の家は、当時住宅地の西の端にあり、ここから数百メートルは田畑になる為、夕陽で家の中も外も真っ赤に染まります。

 同じ夕陽でも、春は、太陽が枇杷の実の様に丸く、ゆっくり沈んでいくのですが、秋は空を巻き込んで、何もかも赤い光線で埋めてしまうほど強烈な色となります。

 

 その日は、誰も家に居ませんでした。友達も何故か居なくて、一人で2階のベランダから真っ赤な夕陽を見ておりました。

 真っ赤な光の中に、田圃を渡る通学路が見えて、小学生の女の子が二人で歩いて行くのが見えました。

「まだ明るいのに、あの二人しか人が居ないなあ。」と思い、一階に降りて外に出ました。

「やっぱり、人もいないし、車も走ってないな。変な日だ。それに、なんだか夕焼けの時間が長いな。」などと思いつつ、家の周りを歩いておりましたら、家の裏口側にある廃屋が目につきました。

 「誰もいないし、ちょっと入ってみるか。」と、周りを見回してから、廃屋に入ってみました。

 外から丸見えなので、

「特に見る物もないな。」と、ふと、廃屋に夕陽が当たった木製の壁を見ましたら、今まで気づかなかった絵が描いてありました。


壁に直接クレヨンで描いた家族の絵です。

 

 小学校低学年の子の絵の様です。皆正面を向いて、左に立っているのが、背が高い男性らしく多分お父さん。隣に背の低い女の子が二人。右側がちょっと背が高い、多分お母さん。皆、手を繋いでいます。後ろに黒い線で書かれた家と、チューリップの花が幾つか。


「あれ?こんな絵あったっけ?」と、今まで気づかなかったのかな?と思いながら、家に帰りました。

 やがて家族も帰ってきて、夕飯となりました。夕飯の時に、

 「あの、北側の廃屋ってさ。女の子が二人居たの?」と、家族に聞いたら、母は「知らない。」と言います。他は誰も答えませんので、話はそれまでになってしまいました。


 夜になって、二階の自分の部屋で、本を読んでおりましたら、祖母が部屋に来ました。「お前、なんでさっき、あの家には女の子が二人居たって聞いたんだい。」と言うので、「壁に、そんな絵があった。」と、言いましたら、

「またお前、変な物を付けて来たんだね。」と言って、持ってきた手提げから塩とお札を取り出しました。

「婆ちゃん。部屋の中で塩蒔くなよ!」と言ったら、

「今、この窓を開けると、廃屋が下に見えるだろ。私が塩撒いて、お祓いが終わる迄、窓開けるんじゃないよ。」と、きつい顔で睨まれました。

「なんだよ。それ。」と言って、その窓に近づいたら、バタン!と何かが窓を外から叩きます。え?っと思う間もなく、またバタン!窓を見ると、小さい子供の手が4つ。何度もバタン!と窓を叩きます。ここは二階で、そちら側にはベランダも何も有りません。

 祖母が塩を撒き、お札を窓に貼り、我が家に伝わるお経なのか祝詞というのか分からない呪文の様な物を唱え始めました。

 すると、バタン!という頻度が少なくなり、しばらくして鳴らなくなりました。

「なんだったのさ。」と聞きますと、

「あの家は、私達がここに引越して来た時。お前のお母さんが、まだ大学生だった頃より前から廃屋だったんだよ。誰が住んでいたかは知らない。ただ、子供の祟りがあるから、子供は入るな。と、前からこの辺に住んでいた人達に聞いていたんだ。」

「でも婆ちゃん。凄いね。その呪文みたいな奴。」

「これはね。お前のひい婆ちゃんになる人からね。私が嫁に来た時に、最初に覚えさせられたんだ。お前の爺ちゃんは職業軍人だったから、色々危ない目にも会うし、人の命にも係るから。と、代々嫁が繋いで来たんだよ。ただ、お前のお母さんは一人っ子だから、お父さんはお婿さん。なので、お母さんに教えようとしているんだけど、学校の先生ってのは休みが無いのかねぇ。まだ教えてないんだよ。前にも、お前が変なの連れて来た時に、これやったろ。その時に効いたから、今回も出来ると思ったんだよ。」と、何時もの優しい顔になっていました。


 数ヶ月後、その廃屋は、檀家の住職と地主さん立会いで撤去されました。クレヨンの絵の事は分かりませんでした。  了

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クレヨンの絵 栃木妖怪研究所 @youkailabo

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