第3話
マスター室にこれだけの書類が積み上がっているのも理由がある。
ここ最近、紅葉桜は人手不足なのだ。
否、他のギルドもだろう。
しかし、魔物は減ることはない。
例年のように、同じ人数を魔物に割くとこういった書類仕事やギルド間連携を取る者が少なくなってくる。
紅葉桜は他のギルドと比べて圧倒的に少人数なのだ。
それぞれ個々の能力が高く、ギルドを良く思っていない貴族たちにも紅葉桜は一目置かれているが、それでも人手不足。
多くの者がこのギルドに入ろうとするものの、最近の若者は質が悪く、合格率1%未満には入らない。
これも、人手不足の原因の一つだ。
元気な若者が、ほとんどいない。
一般ギルドメンバーであれば子供でも登録できるので数は多かれど、隊員は本当に少ないのだ。
「マスター、この人手不足の中で私を学園に行かせると、高難易度の依頼、それにこれらの書類はどうなるの?」
「温室に籠ってる時間を学園と思えば変わらない」
「温室に籠ってるのも依頼で、趣味混じりとはいえど、ギルドに貢献してるのは変わらないけどね」
確かに、先程まで温室で昼寝していたのは確かだが、ルッタリアの開花が昼なので待っていただけであるとティトリトアは心の中で言い訳をする。
「それに、この国の法を忘れたとは言わさない」
「、、、、如何なる理由があれど、15歳になれば学園には在籍した記録を残さなければならない、、、、それなら、陛下にお願いして偽造工作してもらおうと思っていたところよ」
ティトリトアの身分は特別だ。
彼女は史上最年少である5歳で紅葉桜のギルド隊員の中でトップに登りつめ、陛下とも認識があり、ギルド間で世界最強といわれるほどの実力をもつ。
いや、ギルド間だけでなく、全世界の認識だ。
しかし彼女のことを皆、まだ15歳の成人していない少女であり、その名はティトリトアであると認識している者はそれこそマスターであるエゼルと皇帝陛下、そして彼女の使い魔ととある親友だけである。
「実は二週間前、側近を除いた陛下と話し合いをした。話題はまず別のことだったが陛下が一息ついて、お前の学園入学をどうするかの話になった。お前はいつでも動ける状態にしていないといけないから、陛下はどうせ、偽造の話をすると思ったんだが、、、、全く違った。学園に入れてあげたいと、そう仰ったんだ。陛下が言ったのだから、せっかくのことだしお前を学園に入れたかったんだがな」
どうせ意思はかたいんだろう?と口に出さずに付け足す。
「陛下がなぜ?」
「さあな、だが色々経験しておいた方がいいとだけお前に言っておく。お前は、、、、普通とは違う方面の経験をしすぎだ」
「否定しない、、、」
ティトリトアにも自覚はあった。
戦地では、周りに大人か魔物しかいない。
自分の背丈も子供っぽい声も魔法で誤魔化しているとはいえ、寂しさを覚えたこともある。
「陛下が言ったのなら、悪くないかもしれない。でも、本当にこのギルドの状況を見てもマスターは許可を出すの?」
「出す」
マスターはそう、断言した。
「わかりました。行きます」
口調を変え、金色の瞳を隠すように瞼が落ちる。
そして、何もなかったかのように書類を片付け始めた。
ーーーーーーー
「おはようございます、ティトリー様」
その名前を使うのは親友しかいない。
「おはよう。ノア、学園は今日よね」
「はい、何を持っていくべきか後で教えますね!」
背丈が高く、黒髪で成人男性と勘違いするようなノア。
親友といえど、敬語である。
だが、当たり前かもしれない。
ティトリトアは時に陛下よりも身分が高くなる身。
ノアが他の人と違って、普段フードで隠れている彼女の素顔を見ている数少ない人物だとしても、敬語は外せないのだろう。
創憶のティトリトア あるか 梓妃 @arukaazuhi
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