完璧なんて追い求めるくらいならまだ平凡で平均的で普通でいればいい

Libra

第1話

 色。

 人がものを見るために必要な重要な要素のひとつだと思う。


 ─この花はオレンジだ。

 ─この植物は綺麗な緑色だ。


 などなど、色というのは人がこれがなにかを判断し、これはこういうものだとわかるためにあるものだろう。


 しかしながら、元来その全ての色が見えない人、特定の色が見えない人がいるのをご存知だろうか。

 色覚異常。そう呼称する。

 先天的には持っているとされる男性では20人に1人(5%)の人が、女性では500人に1人(0.2%)の人がそうである。

 これはそれを抱え、「普通」に憧れる1人の人間のお話。



 ──────────



 僕の名前は茅崎 優(かやさき ゆう)。

 そこら辺にいる学生だ。まあただ言えることがあるなら「普通」に憧れている一般学生と言っておこう。

 僕の目は正しく「色」というものを捉えることができない。いわゆる色覚異常を持っている。

 それを自覚したのは、保育園に通っていた頃。

 みんなで絵を描こうってなった時、僕だけ白黒で提出したら精神病院に行ってこいだのやれ障がい者だの言われたことだった。

 そっからだと思う。

 僕は「普通」というのものに憧れを持ち出したのは。


 保育園の頃は、これが自分が描くものの表現だなんだと言ったけれど、実際親に言って、眼科に行って調べてもらったら、僕の場合は色はおろか、明度すらも捉えられていないんだそうだ。

 色覚補正のメガネがあるとは聞いたけれど、僕はそれを断った。

 それこそ僕の憧れる「普通」ではないじゃないか。

 色覚補正のメガネはたしかに全ての色が見えるように補正をしてくれる。

 だが、そこまで普通のメガネのように普及している訳では無い。

 かけてたら何言われるか、何を勘違いされるか分からない。

 そんなのに耐えられる自信が僕にはなかった。


 僕が色覚異常を持っていることを知っているのは僕の両親しかいない。

 それ以外の人達には言っていない。言う勇気もなければ言ったら見捨てられるかもしれないと思っているから。

 せっかくできた友人もせっかくできた信頼関係もぜーんぶこわれてしまったら意味が無い。

 ならば僕は道化を演じよう。

 周りに好かれて、なんでも出来るそんな人に─


 だけど人間誰しも完璧なんていない。

 それに気づいたのならば僕は。平凡で平均的で普通な人を演じよう。


 色が見えないだけで僕はここまで悲観している。

 それはそうだ。当たり前にみんなは僕の見た事のない世界を楽しんでいる。

 なのに僕はみんなの当たり前を経験することが出来ない。

 それに憧れを持つのはいけないことなのだろうか。

 否、そんなことはないだろう。


 憧れを持つことくらい誰にだってその権利があるはずだ

 ないというのなら僕は知らない。


 僕の将来はなりたいという職業は無い。

 当然だ。将来に対して不安しか抱いていないやつがなりたいものなど思いつくわけが無い。

 画家、小説家、翻訳家、サーカス団員…まだまだあるだろうけど、僕が思いつく限りはこのくらいだ。

 なんかひとりで経営するってのもおもしろそうだな。

 そんな才があればの話だけど。

 そんな才には恵まれていないのはわかっている。

 だけれど挑戦はしてみたい。

 やってはみたい。

 けれど無理だろうな。


 僕自身には、才がないというかなんというかそういうセンスがない。

 人に褒められたい。何かできるようになりたい。

 だけど、こわい。

 人に認められたいのになにかアクションを起こせない自分が嫌いだ。

 人に何か言われるのが怖くて何も行動できない。

 でも人と関わりは持ちたい。

 けれどそれすらこわい。

 なんでもかんでも自分がやろうとすることがこわいんだ。


 要するに僕は何がしたいんだろうな…





 続く

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