第4話「平和と言う日常」

 未だ最強のファミリーは健在か。その力を使わないで済む国に、我々は導いてこられただろうか。今の話だと、いささか不安も残る。


 あの苦しみ、悲しみの戦争に時を戻してはならない。この空が赤黒く染まる日はもう沢山。私の嫌いな空の色だ。


 しかし、遠国では未だ戦争を行っている国もあると言うではないか。


 政治家の都合、軍の都合、貧富の都合、差別の都合、言い出したらキリが無い。


 戦争とは所詮、安全圏の住人の食い物になってしまう。私は何とも居心地の悪い感情が芽生えてしまった。


 だが、それを一時でも忘れさせてくれるものがある。


 料理、酒、娯楽、音楽、今日のシャトーメデルギウスは効くなぁ。涙が出るほど、効いている。その点ではこのラビオリも申し分ない。


 私がうっすら涙を浮かべると、夫婦は慌てて私に駆け寄る。


 安心してくれ。ここには涙を浮かべる余裕と、平和がある。


 君たちがこうして噛み締めてくれていることが何よりだ。


 ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ 


 丁度、ラビオリも食べ終わり、ワインの瓶も空いた頃、今年もいつもの恒例行事をするため、家の傍らの桜の木の根元に向かった。


 今は春。


 その桜の異様なまでに仄白い花は七分咲きで、花見がてらの食事に十分に華を添えてくれた。


 そこで、私はダーコート氏に新たなワインの瓶を手渡した。ダーコート氏はコルクを抜くと、


「今年も君らを忘れないでいられた。戦友よ、どうか安らかに…」


 そう言うと、桜の根元にワインを手向けた。


 この樹の下には、多くの身元不明の戦没者の遺体が埋まっている。彼らは墓守としてこの地を守ってくれているのだ。


 私は挨拶もそこそこに、車に乗り込み帰路に着いた。彼らも…私も戦争の大罪人。


 そんな彼らを世話をしてしばらくになる。身分の抹消、仕事の世話、安定した収入など、普通の市民の生活を用意した。


 ダーコート氏もキャロライン夫人も、子供の頃から戦火に追われ、終戦に至る日まで、それは劣悪な人生を送っていた。


 私を含め、彼らを利用した軍部には彼らを見届ける使命がある。


 私は元軍部最高司令官ファウスト。今はしがないワインの酒蔵の使用人をやっている。


 来年もいい酒を彼らに届けられればいいのだが。それまでに夫人の料理の腕が上がっていることを切に望む。

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世話焼きのシャトーメデルギウス はた @HAtA99

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