第3話「消えない才能」
「あいつ…ベルモンドだっけ?実は私の元上官。ベルモンドは偽名だったの」
キャロライン夫人のいた部隊は、確か隠密機動。軍部の裏事情に精通しているはず。これは色んな意味で危険人物だ。
「で、ダーキーに相談したんだけれど…」
ここで、何か引っかかる点があった。この二人はなぜ、遠くの町の事情に察知できたのだろうか。
ちなみにダーキーはダーコート氏の愛称。夫人もいつもはキャロルと呼ばれている。
「この子には17個の盗聴器を…」
「信じらんないでしょ!?この両親!!ホント、戦争バカなのよ!!先生の方がまだ常識人だったわ!!」
怒りの矛先が変わった。確かに、この二人は軍人としては超がつくほどの天才だ。しかし、民間人としては欠落している部分が失礼ながら多いと言わざるを得ない。
「で、乗り込んだんだけど」
乗り込んだのか。
「そこには二人の姿は無かったわ。盗聴器も全部外されてた」
この二人を出し抜いたのか。流石は元隠密、お見通しか。
「で、手を考えてたら」
「私の方の通信機に、娘がコンタクトしてきたんですよ」
そうか、キャロル夫人の盗聴器は同じ母国の物。しかし、旦那の有する敵国の技術を用いた通信機には精通していなかったのか。
「町はずれの倉庫に監禁されて。十数人の元軍人が、お父さんたちに復讐なんて言ってたっけ。人質がいるから楽勝だとか」
確かに元軍人たちには、彼らに恨みがあるものは多いだろう。だが、まともに戦っては勝ち目なし。よく戦力差を熟知している。
「で、二人で町はずれの倉庫に向かうと…」
「60人くらいだったっけ?」
「63人だよ」
流石、ダーコート氏。分析も早い。この分析力で何人もの戦友を救って来た。
だが、そんなダーコート氏もサポートに回るほど、キャロライン夫人の武力は凄まじい。
「私は弾丸の雨を掻い潜り、手榴弾を三発、投げ込んだわ」
「だけど、そのままなら元軍人には避けられちゃうね」
「そうそう。そこで拳銃で手榴弾を撃ち抜いて、空中で破裂させたの」
…簡単に言ってくれる。明かりも無い暗がりで弾丸を躱すだけでも神業なのに。やはり、戦闘で彼らを敵に回してはいけない。腕は平和になった現代でも相変わらずのようだ。
「まあ…あんまり大したことなかったわね」
「よく言うよ。エスメルが人質になって、ためらったくせに」
ほう、どうやらやはり二人だけではキツかったか?
「そこで、ウチのご近所さんの出番だ」
そう、彼らのご近所さん。農家、酪農家、本屋に新聞屋、花屋に、肉屋、八百屋、皆、全て昔からの戦友だ。
しかも一人一人が戦時中は第一級の軍人だった。ご主人、夫人にも匹敵する戦力である。戦時中に、この部隊が組まれたら間違いなく無敵の軍隊となっただろう。
彼らを敵に回すのは、国を落とすくらいの覚悟が無くてはならない。彼らの役目は、実はこの家族の監視のため。だが、この様子なら心配いらないか。
「そして先ほどの手榴弾の煙に紛れて、無事制圧。…と、行きたかったんですが」
ん?
「ベルモンドはエスメルを車に詰めて、逃走したわ」
それでは、手が出せないか?だが彼らは、いくらでも手がある。
「まあ、こういうこともあろうかと敵の車体全てのタイヤをパンクさせておいたけど」
この未来が見えているようなダーコート氏の分析は本当に…脅威だ。
「で、エスメルは…」
無事だったのか?同じ車に乗っていたのに。
「うーん、何ていうか安全なスペースが何となくわかったというか」
「私らは軍事実験で超人になったけど、まさか遺伝するとはね」
蛙の子は蛙、しっかり血を受け継いでいたのか。
…恐ろしいものだ。私もこの家族に対する言動は考えねば。
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