第2話「家族」
「ただいまーっ!!あ、今年も来たんですね、いらっしゃいです!!」
そこに、二人の娘、エスメラルダ嬢が、街の高校から帰ってきた。
彼女の高校はここから片道10kmあるが、コントラ社のエルマンという小型のオートバイで通学している。
エスメラルダ嬢の性格は明らかに母親似。なおさら肩身が狭い旦那だったが、それすらも受け流して許している心の広さは、もしかしたら国一かも知れない。
「ねえ、飲んでいいですか?」
この国にもお酒に関しての法律はあるが、彼女は幼いころから嗜んでいる。これは誰にも言えない秘密だ。
我々四人はグラスを手に取り、
「乾杯!…まあ、試飲だけどねー」
くっと、口に含み味と香りを確かめる。今年の出来も例年通り。悪くない。三人も満足そうな表情で何よりだ。
「いけない、ラビオリ茹でっぱなしだわ!!」
「えー何?お母さんが作ったの?はぁ~…こりゃ無いかなー」
明らかに不満を漏らすエスメラルダ嬢。夫人の料理の腕の信用は本当に無いようだ。しかし、
「いやここだけの話、作ったのは僕で彼女は茹でただけ」
「あ、じゃあアリだわ。ありがとー、お父さんっ!!」
旦那の言葉に、明らかに言葉の色が変わった。…そんなにか?
気分がいいだろうと、桜の樹の下の庭先にテーブルを用意し、チェックのテーブルクロスをふぁさっと掛ける。
そこにバゲットと、お手製のラビオリと、そして我が蔵のワインが並ぶ。
改めてグラスを合わせ、私はご馳走にありついた。ラビオリはお世辞抜きで美味い。流石はダーコート氏の仕事だ。
◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇ ◇ ◆ ◇
「最近ね、ちょっとした面倒ごとがあったのよ」
私がバゲットを咀嚼していると、最近の日常の話になった。夫人が切り出した話は、なかなかに刺激的な話だった。
「実は…先月かな?娘と夫が大喧嘩したのよ」
旦那と奥さんならともかく、異様に仲が良いこの二人の喧嘩は本当に珍しい。
私は原因が気になった。それを尋ねると、
「目玉焼きには塩コショウでしょ!!これはまだ譲ってないからね、お父さん!!」
「わかってないな。マスタードの辛みが黄身の美味しさを引き立てるんじゃないか」
「ねー?国境線より深い、人類の永遠に埋まらない溝で大喧嘩よ」
成程、また喧嘩が再燃しそうだったので、私は二人をなだめた。
ちなみに夫人は、
「目玉焼きにはマーマレードでしょ?ねー、常識ですよね?」
『それだけは無い。絶対』
夫人の奇異な意見は二人に一蹴された。
正直、私はピーナッツバター派なのだが、混乱を招くので口をつぐんでおいた。
「そこで私の高校の担任のベルモンド先生に相談したの」
話に聞くと、ベルモンド氏は退役軍人だという。実はこの地区は戦争での勝利国の領域。
政府は戦争の軍隊の幹部が多かったはず。教育機関に採用されたなら、そこそこの階級だったと思われる。
「相談したら、一泊させてもらえることになって」
…完全にアウトだな。私もそう考えたが、ダーコート氏の怒りの熱が再燃した。珍しく口調が荒くなり、
「お前もお前だ、ホイホイと乗るんじゃないよ」
「だから!!私は断ったって!!」
「いいじゃない、減るもんじゃなし。教師と生徒の禁断の恋なんて、なかなか劇的だと思うわよ?」
夫人が斜め上の意見を出した。いつもの旦那のツッコミが入るかと思いきや、
「…って、私もはじめはそう思ったんだけどね」
夫人の表情が真顔になる。これは何か理由がありそうだ。
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