閉店
西園寺 真琴
第1話 閉店
「ねぇ、このまま誰も来なかったら私たち捨てられちゃうの?」
杏子は木南子に尋ねる。
木南子は筒を咥えながら、首を横に振る。
「今の世の中、捨てるような奴はすぐネットで叩かれる。大丈夫、誰かが必ずもらってくれるわよ。」
木南子はああいっているが、心配は拭いきれない。
同世代はみんな誰かのものになってる。
理由は薄々感じていた。
遠目に私たちを見ている人の声が聞こえていた。
最近の人は写真を撮って周りに自慢できるような可愛らしいものが好きなんだ。
映えって言うらしい。
私たちは映えないらしい。
ひと昔前だったら人気者だったのにねぇ、とよく言われたものだ。
ひと昔って?と誰かが訪ねると、平安時代とか?。。。
じゃあふた昔はネアンデルタール人か?
優しい人は趣があるとか奥ゆかしいとか言うけれど、最終的には私を選んではくれない。
結局煌びやかなものが好きなんだ。
私や木南子みたいにのどが渇いてしまうようなのはやんわり避ける。
喉が潤ってる時に声を掛けられる、都合の良い存在。
『好きな人は好きだよね?』
もう聞き飽きた、うるさい。
私がこんなに怯えているのに、木南子は素知らぬ顔で座ってる。
「木南子はどうしてそんなに落ち着いていられるの?」
木南子には自信があるのか、何か策があるのか。それとも既に諦めてるのか。
杏子は自分では気持ちを律することができずにそう尋ねた。
すると木南子は咥えてたものを置き、杏子の方を向いて答える。
「あんたは自分にそんなに価値があると思ってるの?」
「え?」
杏子は口ごもってしまう。
自分に価値がある、そんなことは思ったことがない。
むしろ価値がないと感じているからこそ不安になってしまうんだ。
そう伝えると、木南子はにんまりと笑った。
「なんだ。だったらどうして不安になるの?価値がないものに需要がないのは当たり前でしょ
?」
杏子は自分の中にある串に衝撃が走るのを感じた。
その様子をみて、木南子はしたり顔で続ける。
「そもそも目に見える価値なんて、本当の価値じゃない。安売りのレッテルを貼ってくるやつらがいるけど、自分を安売りしちゃだめだよ?あんたの見えない価値に気づいてくれる人が必ずいるから。ある人にはただの紙切れでも、100万出してくれる人もいる。そういうもんでしょ?」
そう言うのと同時に、男性が木南子の前にやってきた。
「あんたもきっと大丈夫。」
その男性は、木南子を手に取って微笑み去っていった。
「木南子、うん、そうだよね。私、安売りなんかさせないよ。」
杏子は自分にそう誓った。
周りが自己評価を下げていく中で、杏子は奥歯を噛みしめて待つ。
大丈夫、周りを気にしちゃダメ。
私は私。
安売りなんてさせない。
私の良い所に気づいてくれる人が必ずいる。
絶対的な価値なんてないんだ。
自分の価値を信じて。
大丈夫。
絶対いる。
そろそろかな?
周りが静かになってきたな。
でもきっと大丈夫。
自分を信じて。
外も暗くなってきた。
たぶん大丈夫、大丈夫よ。
木南子、、
大丈夫だよね?
なんか疲れちゃった。
もうダメなのかな?
杏子の心が折れかかったその時、黄色い札を持った男が杏子の前で立ち止まる。
「やっと、来て、くれた?」
杏子が男を見上げると、何やら小さく呟いている。
「そろそろかな」
そう言うと男は手に持っていた札を杏子の体に貼り付ける。
なに?なにか貼り付けられた?
すると別の男性が杏子のもとにやって来た。
「お、半額か。あんま好きじゃないけど買ってくか。」
閉店 西園寺 真琴 @oguchan41
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。閉店の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます