6-2
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№.4の門まで来ると、今回使用する車があった。前回はワンボックスカーで行ったが、今回置いてあるのは軽トラックである。
燃料も満タンに入っている。これなら往復する分は十分にあるだろう。今確保できているエリア内のガソリンスタンドから廃棄車両の燃料タンクに至るまでかき集めても、燃料はほとんどない。今後確保するエリアに期待するしかない状況の中、軽トラ一台分よく準備できたものだとカナタは思った。
整備は行き届いており、エンジンも快調にかかった。運転席にスバルが座り、助手席にダイゴ。残りは荷物と共に三台に乗ると軽トラックは門を出て走り始めた。
「私、都市外に出る事はほとんどないので楽しみです」
そう言って喰代博士は、景色を眺めている。
都市外と言ってもすでに結構な範囲を守備隊の手で確保している。ばらつきはあるが、だいたい500m四方を一つのブロックとしてあり、№.4を中心として同心円状に拡げてある。確保したブロックは1番地とし、時計回りに2番地、3番地と呼称されている。
「この辺は4番地ですね。ここを抜けて14番地、25番地を抜けたらまだ未確保の領域に入ります」
「今の到達エリアが29番地と聞いています。守備隊の皆さんは大変ですよね。危険な作業だと思います」
喰代博士がそう言うので、本当に大変なのは守備隊でも攻略隊のほうですけどね。と返しておく。
実際にカナタ達の所属している守備防衛隊は、攻略隊があらかた感染者を片付けた後の作業なので、戦闘になることはそれほどない。それに対して守備攻略隊は感染者の真っただ中に切り込んでいき、倒すか予定してあるエリア外まで誘導する。そうしてエリア内に戻らないようにしてから、防衛隊に引き渡すのだ。危険度の比が違う。
「なるほど、そんな仕組みになっているんですね。私はもともと病理学の、特に疫学の研究員でした。今現在起きている事象はウイルス感染によって引き起こされていると仮定されてます。それで声がかかったんです。まあ、わたしはウイルスより寄生虫説を推してますけどね。」
「それはなぜか聞いても?」
喰代博士の話に興味がわいてきたカナタが訊ねる。
「これは私の私見ですから人に言っちゃだめですよ?大雑把な分け方ですけど、ウイルスには目的はないと思うんです。ただその個体に感染すると増殖したりして、結果的に感染した個体に影響を及ぼす。それに対して全てではないですが、寄生虫は明確な目的があって宿主に寄生します。ほら有名なものだと、ロイコクロリディウムとか。かたつむりに寄生して鳥に食べられるような行動を取らせる。最終宿主である鳥の中に入るという目的のために寄生するんです。今回の事象の最終目的がまだ分かりませんが、仲間を増やすための寄生と考えると面白いと思いません?感染者達って、感染した人は絶対襲わないってデータはあるんです。例え発症してなくて人として意識を持っている状態でも襲わないんです。どうやって見分けてるんでしょうね。」
実に楽しそうに喰代博士は語った。博士の説が正しいとすればカナタが不思議に思っていたことも説明できるのだ。
それは、あれだけの集団で襲い掛かってくるのに、噛まれたほうは原型がほぼ残っている。という事だ。寄ってたかって噛みつかれれば、もっと多くの部位をかじられていたりするんじゃないだろうか。恐らく二次的な原因で体が損傷しているのは見かけるが、体の半分以上を噛みちぎられた感染者とか見たことがない。
これは集団で一人に対して襲い掛かっているのに、誰かが一噛みして感染するとそれ以上攻撃しなくなるのではないだろうか。
この推論を喰代博士に話すと、博士も興味を示した。
「興味深い意見ですね。現場ならではですね。ぜひ今後も何か感じましたら私に教えてください!」
身を乗り出してそう言う喰代博士に、もう少し軽い世間話程度に話したつもりだったカナタは、あいまいに笑みを返す。喰代博士の研究者としての食いつきに、その名前からサメを連想してしまった。
軽トラックはエリア内を順調に走り抜けて行く。もはや車が走る光景が珍しくなりつつあるので、エリアの住民は通り過ぎる軽トラックをいつまでも見ているので、なんだか気恥ずかしい思いをしていたのだが、25番地の境界までたどり着き、そこを抜ける。
「ここからは未確保の領域です。警戒を怠らないようにして行きましょう。」
一応カナタが伝えると喰代博士もさすがにすこし引き締まった表情になって頷く。
そのまま走り、高速道路の乗り口を過ぎると変わり果てた光景にしばし見つめてしまった。
「たった二年でここまで……」
思わずカナタが呟いた。前回通った時も放置車両があって物が散乱していたりして、それなりに荒れていたのだが……。
今見える光景は、それからまただいぶ様変わりしている。放置車両には錆が浮いて、土埃なのか表面を覆っており、元の色からだいぶあせて見える。道路にも草がアスファルトを割って生えていて、きれいだった高速道路の面影を食い尽くしていた。道路だけではない。そこから見える景色もすべての建物が傷み、同じように色あせてしまっている。
荒廃した世界……。映画や小説などではよく使われていたフレーズだ。実際に目にするとは思っても……見なかったが。
周りの風景に目を奪われている間にも軽トラックは順調に進んでいく。運転席ではスバルとダイゴが笑いながら話しているのが見える。さすがに声は聞こえないが、何か楽しい話題で盛り上がっているのだろう。
前回と同じ美馬インターで高速を降りるとすぐ市街地になる。ここも同じように荒廃した街並みとなっているのを横目で見ながら美浜集落へ向かっていると、前方に道をふさぐように車両が停まっている。これまで見た放置車両とは違い、傷んではいるが何か違和感を感じたカナタは、後ろからキャビンの壁を一定のリズムで叩いた。
ルームミラー越しにスバルと目で合図しあうと、スバルは少しづつ速度を落とし、カナタは武装の確認を始める。
「どうかしたんですか?」
それを見た喰代博士が聞いてくる。その隣では、雰囲気で察したゆずもライフルを持ち、マガジンの弾薬の確認をしている。
「思い過ごしならいいんですが、前方の道路をふさぐように置いてある車両。あれがとても気になります。万一戦闘状態になったら、荷台のあおりの影になるように伏せていてください」
そう言うと喰代博士は何度か頷くと、言われたとおりに伏せている。
「カナタくん、見た限り車両の周りには人影はなし。いるなら両脇の建物の影か、銃を持っていれば二階からの狙撃もあるかも」
さりげなく付近を観察していたゆずが言った。未だに感情が薄いゆずだが、その反動かとても冷静に状況を把握できる。
これまでの経験から全面的にその判断を信用しているカナタは、その情報をもとに動きを振り分けた。カナタは耳に装着しているインカムのスイッチを押して、それぞれに動きを伝えた。
「スバル、このままもう少し前進して、道が通れなくて困ったふりを装って車を減速させて様子を見てくれ。いきなり攻撃してくるかもしれないから警戒してな。ゆずは地上は気にしなくていい。上からの射撃に気を配ってくれ、銃を持っていなくてもクロスボウや、自作で弓を作っていた奴もいたからな。ダイゴは逆に地上に気を配ってくれ。放置車両の影や両脇の建物の死角にいる可能性がある。もし姿を見せてきて戦闘になるようなら、俺とダイゴで切り込むから、状況をみてスバルとゆずは援護を頼む」
そう言うとスイッチから手を離す。カナタ達は部隊員全員が耳に着けるタイプの小型のインカムを装備している。崩壊前ならワイヤレスイヤホンに近い形だろうか。
都市での仕事で物資の収集の際に発見し手に入れた。親機を中心に遮るものがなければ半径10mほどの通信距離がある。無線ではなくBluetoothでの接続なので壁などには弱いが、相互同時通話を可能としている。
親機はゆずがもっているので、だいたいゆずを中心に展開することになる。
「ありゃあ……こりゃ通れないなあ!」
若干わざとらしさを感じるが、スバルがそう言いながら軽トラックを停車させる。すぐに降りはしないで窓越しに周りを見ている。
「カナタくん!右の建物二階、トランシーバーを持った男が一名、飛び道具はなし。監視を続ける」
インカムを使いゆずがそう報告をする。チラリとみると、いつの間にかゆずは荷物の中に混ざってまぎれている。そしてほとんど頭だけ出して、ライフルのスコープで探っていたようだ。そして相手のその様子から、たまたまそこで車両が故障してしまった。という可能性が限りなく薄くなり、カナタはため息をついた。
「二階から見て指示を出して有利な位置を取るつもりなんだろうな。多分物取りか……面倒くさいな……」
やり取りをしているうちに回り込んだのだろう、軽トラックの後ろ側左右から男が一人づつ現れた。それぞれ鉄パイプや、バットを持ちフルフェイスのマスクに剣道か何かの胴を着けている。
同時に、前からも二人同じ格好をした人物が現れて、軽トラックを取り囲んだ。
「さて……どうでるか」
様子を見て動かないカナタ達を、動けないと判断したのか一人の男がこちらに向かって話しかけてきた。
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BIO DEFENCE @karakoba0110
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