第3話 カインとアベル その1


「あなたがカインさんだったんですね !!よかった!! ボクずっとあなたのことを探して!!」

「……」

  

 驚愕した表情から一転、アイラはキラキラした目でカインを見つめ、興奮した様子でまくし立てていた。

 一方カインは彼女の名を聞いてからどんどん呼吸が荒くなっていき、まくし立てる言葉もほとんど入ってこないようだった。


「……」 

「こんなところで出会えるなんて! 本当にうれしいです!!! 実は、あなたに手紙をあずかって……」

「!!」


 そう言ってアイラがベッドのそばの机に置かれた自分の小さな鞄からゴソゴソと手紙を取り出して、カインに手渡そうとした。その時だった


 パン!


 とその手紙を手渡そうとする手をカインがはたき、手紙は宙を舞う。


「な、なにするんですか!!?」

「……出てってくれ」

「……え?」


 急に冷たくそう言い放つカインにアイラの表情は一気に曇った。しかしカインは全く調子を変えることなく再びアイラに告げた。


「聞こえなかったのか? 出てってくれ、命も助かったんだしもう十分だろ……?」

「あ、あの……でもボク……」


 なおもすがろうとするアイラにカインは大声で怒鳴った


「出てけって言ってんだよ!! とっとと出てかねぇとさっきの騎士どもに突き出すぞクソガキ!!」

「……」


 つい先ほどまでほんわかしていた空気が一気に張り詰める。そんな中、怒鳴り声を聞きつけて外からウーロンが戻ってきた。


「あ、あの~どうしたんで……?」

「……お世話になりました!」」


 瞬間アイラはその目に涙をためながら声を振り絞ってそう言い放ち、開いたばかりの玄関から外へと駆け出していった。


「お、おい嬢ちゃんどこ行くんだ!!? ……なあおい、にいさんどうしたんだよ!!? 急に出てけって! なにがあったんだ!?

「別に……なんもねぇよ」


 呟くようにそういうカインにウーロンは一層強く問いかける


「何もねぇってこたねぇだろうよ!!てめぇからあの嬢ちゃんを助けようとしたんだろ!! なんたっていきなりそんな冷たく突き放すんです!! 助けたなら最後まで責任持つんじゃねぇのかよ!!」

「うるせぇな!! 気が変わったんだよ!!」


 そう怒鳴ってカインはウーロンに背を向けると面倒くさそうな調子で続けた


「……疲れたから一回寝る」

「はぁ!!? あの連中はどうするんです!!? 気が変わったってなんだよ!!? 巻き込んどいて何が寝るだよ!!?」

「巻きまれてくれって誰が頼んだんだよ? てめぇから巻き込まれたんだろ?」

「……ああそうかい!! だったらずっとそうやって寝てやがれ!!」

「ああ、そうするよ」


 もう動く気もない、そんなカインの様子に呆れ、ウーロンは床をどんどんと大きく踏み鳴らし玄関へと向かい


「てめぇとはここで縁切りだ!! このろくでなし」


 そう叫ぶと開け放たれていたドアをバタン!と強く閉じて出て行ってしまった。


「……け」


 部屋に一人になったカインは、小さく悪態をつくと、そのまま眠りにつこうとした。しかし……


(なんだってんだ……全然気持ちが落ち着かねぇ……)


 これじゃ寝れやしない。そう考えたカインはむくりと身体を起こし、さきほどの酒の残りを飲み干してしまおうと立ち上がる。


「一気飲みしてとっとと寝ちまうか……」


 そう呟いて、酒瓶ののったテーブルへと向かおうと足を動かしたときだった。


 カサリ


「あん?」


 なにかの紙を踏んづけてしまい、カインは足をどかして、それを確認する。


「これは……」


 封筒だった。どうやらさっきアイラの手紙をはたいたときに飛んだものらしい。カインはそれを捨てようと拾い上げ……その文字を一瞬でもちらと見てしまったことを後悔した。


――カインへ……


 封筒に書かれたその筆跡は見覚えのあるもので、そして一生忘れられないであろう親友のものだった。

 目を背けたい。早く捨ててしまいたい。自分にはこの男と関わる資格なんてもうないのだ……!心底からそう思っているはずなのに……カインはもうその封筒に縛りつけられたように、うごけなくなってしまった。


 (なんだってんだくそ……!)


 かつての親友が今更自分に何を伝えようというのか、一度気になると頭がそれでいっぱいになってしまう。


「だぁ~もう! 置いてったあのガキが悪いんだ!! とっとと見て!! そんで捨てよう!!!」


 こうなったら仕方ない……とそう完全な他責思考になると、早速封を切った。


(けど……! 今更何が書いてあったって俺は関わるつもりはねぇからな……! 悪く思うなよアベル……?)


 心の中でそう宣言し、その場に座り込むとゆっくりと中身を読み進めていく。


「えーと……なになに?」

 

 手紙には元気か?とか最近はどうしてる?とかそんな言葉が並んでいた。


(元気もくそもねぇよ……! てめぇのおかげでいま最悪な気分だってんだ……!)


 心の中でそう悪態をつきながらも手紙の文字を追う。しかし……


「……!」


 ある文言を読んだ瞬間、無意識にカインは立ち上がっていた。

 そして……。


「くそ!!」


 居ても立っても居られなくなり、玄関を開けて外へと駆け出した。

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かつて最後の戦いで勇者を見捨てて逃げた俺の元に勇者の娘が訪ねてきました~ろくでなし魔法使いはこんどこそ世界を救う~ 井ノ中 エル @ryou1994

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