3.Days

◆俺は誰だ

 ――とまあ、ここまでは順風満帆で良かった。



『キイイイイイイイイイイイイイ……ドオオオオオオオオン!!!』



 それは突然の交通事故だった。

 俺は家につく寸前にトラックにねられ、かなり飛ばされた。その後の記憶はまったくない。



 ◆



「……俺は誰だ」

「お兄ちゃん、記憶がないの!?」

「すまん、君のことも思い出せない」

「そんな……」



 目の前にいる少女がなぜ悲しんでいるのか。……分からん。俺は何者なんだ? なぜ、こんな病院にいるんだ。

 なぜ包帯グルグル巻きなんだ。

 意味が分からん。


 院長がしばらく入院だと言った。

 俺はトラックにねられたらしいが、奇跡的に軽傷で済んだらしい。本当に奇跡だった。

 本来なら死んでいたようだ。



「運が良かったよ、龍聖くん」

「それ、俺の名前か」

「そうだよ。君は記憶のほとんどを失った。でも大丈夫、きっと回復する」

「……」



 マジで思い出せない。

 どうすればいいんだ。


 しばらくして、俺は純菜という少女と二人きりになった。病室でちょっと気まずい。


「お兄ちゃん、ごめんね」

「ん、なぜ謝る」

「わたしが来たから……」

「どういうこと?」

「一人が寂しかったから熊本に来たの。わたしのお父さんと株本さんが仲良かったからね。だから、頼ったの」


 その後、俺と住むようになったとか。信じられんな。こんな美少女と同棲生活をしているだなんて。


「そうだったのか。けど、すまん。なにも思い出せないんだ」

「うん、思い出させてあげるからね」



 その後、純菜は毎日のように病室に通い、俺の面倒を見てくれた。

 ただ来るだけじゃない。

 体を拭いてくれたり、リンゴの皮を剥いてくれたり……時にはゲームの対戦相手になってくれたり。


 とにかく優しくて、俺に全振りしてくれた。


 不思議だった。

 彼女はなぜそこまで尽くしてくれるのか。



 軽症だったことも幸いして、あと一日検査をすれば退院できることになった。

 でも記憶は戻らない。

 仕方ないか。


 純菜とやり直すしかない。

 思い出せなくても、彼女が大切な人だということは痛いほど理解できた。


 あんな悲しい顔されてはな……!



「さて、検査の時間だ」



 半日かけ、俺の体は隅々まで調べられた。


 骨折、ナシ。

 内臓に異常ナシ。


 本当に奇跡的だ。なぜ死ななかったのか、これは神様がくれた二度目のチャンスだろうか。


 もしそうなら、大切にしなければ。



「お兄ちゃん」



 検査が終わると純菜が迎えに来てくれた。めちゃくちゃ嬉しかった。不思議と涙があふれ、零れ出た。



「純菜……」

「家に帰ろう」



 手を繋ぎ、歩いて外へ。……温かい。俺はこんなにも幸せ者だったのか。知らなかった。

 そんな時、純菜が俺に抱き着いてきた。



「お兄ちゃん、好き」

「純菜」



 気づけばキスをされていた。唇に。



 …………ああ。



 なんか。やっと、思い出した――。


 俺には義理の妹がいる。一緒に暮らしている。そうだ、そうだよ。純菜は俺の大切な義理の妹じゃないか!!


 ようやく全てを思い出した。

 辛い過去も多かったけど、今が最強の幸せだ。



「……突然ごめんね、えへへ」

「嬉しかったよ、純菜。おかげで全部思い出した」


「え……。お兄ちゃん、記憶が戻ったの!?」


「ああ。キスのおかげだ」

「わーい!! よかった、本当によかったよぅ」



 泣きながら抱き着いてくる純菜を俺は受け止めた。俺自身、記憶が戻って良かったと安堵していた。

 ようやくこれで家に帰れる。


 もうトラックだけはカンベンな。

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義妹とはじめる甘々生活 桜井正宗 @hana6hana

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