◆パパ活とかじゃないし!

 最高の昼休みを過ごした。

 純菜とこんな最強の日々がずっと続く!? そう考えただけで俺はもだえた。

 いや、これは脳内麻薬ドバドバなヤツだ。

 義妹がいるだけで、こんなに人生が変わるとは。


「もうお昼終わっちゃうね」

「そうだな。そろそろ教室へ戻ろうか」


 このままずっと純菜と二人きりで過ごしていたい。そんな風に思った。

 だが、授業をサボるわけにはいかない。

 一応、卒業はしないとなぁ。


 教室へ戻ると早々、俺の机に座る女子がいた。


 えっと…………このギャル誰だっけ。や、顔は知っているんだが。名前はいちいち覚えていなかった。



「やっと戻ったわね、月島くん」

「原田さんだっけ」

「全然違うわ! あたしは大和田おおわだ あんずよ」


 そんな名前だったんだ。

 結構可愛い名前だったんだな。

 クラスのギャルといえば彼女だった。

 いつも、キャッキャしていたから顔だけは覚えていた。でも、俺とは100%接点なんてないものと思っていた。

 そんな人気ギャルが俺の机になんの用かな。


「悪いが金ならないぞ」

「いや、パパ活とかじゃないし!」

「え、じゃあ、なに?」


「つ、つ、つ、付き合ってあげてもいいんだけどな!?」

「マ?」

「――って、あたしよりギャルやん! いや、それはいいわ。うん、マジ」



 突然の告白に俺は動揺した。

 なぜ大和田さんは俺なんかに……?

 今になってなぜ。

 俺はずっとアリみたいな扱いを受けていた男だぞ。なんの魅力もない、ウ●コ製造機。取柄なんて毎日ウ●コを乱造するくらいだ。


 でも、それは一週間前までの話だ。


 今の俺は少し変わった。いや、かなり変わった。


 守るものができた。


 今の俺は純菜に全振りしたい。

 全力で義妹を幸せにしたい。



「ごめんなさい」

「エッー!! あたし、振られちゃったの……。でも、諦めないから! ぴえん……」



 諦めの悪いギャルらしい。

 まあいいか、大和田さん面白かったし、また機会があったら話してみたいな。



「お兄ちゃん、あの人……」

「気にすんな」

「でも、泣いてたよ」

「ぴえんだから大丈夫だ」

「ぱおんかもよ?」

「もう古いって」



 着席し、午後の授業を待った。

 しばらくすると数学の教師・新川が出現。相変わらず渋い表情で教壇につく。ご高齢で腰を痛めているせいか、動きが鈍い。壊れかけの人形のようだった。



「……では授業をはじめる……」



 声もか細い。

 今にも死にそうだ。

 大丈夫かな、あのお爺ちゃん。




 ――なんやかんやあり、放課後を迎えた。




「月島くん!!」

「またかい、大和田さん」

「結婚は諦めた。でも、付き合っては欲しい」

「いやいや、結婚した覚えはないよ?」

「記憶にないだけよ。大丈夫、あたしはきちんと覚えてるもん」


 怖いって。

 なんなのこの人。

 今時のギャルはちょっと頭がおかしいのか!?



「悪い、大和田さん。義妹の面倒を見なきゃならないんだ」

「え~、別に兄妹ならそんなべったりすることないじゃなーい」

「そうはいかない。純菜はまだ東京からきたばかり。右も左も、上も下も、斜めも分からん」


「不憫なのね」

「ちゃうちゃう。単純に土地勘がないんだ」

「そっか。じゃ、あたしもサポートしてあげる」

「今はいいや」

「ひどっ!」


「もう少し俺だけの力でがんばりたいんだ」

「へえ、優しいのね。あたしにも優しくしてね!」


「ん~~~…。考えておく」

「月島くん、結構ひどいのね……ぴえん」



 ウソ泣きして大和田さんは去っていく。美人局つつもたせかな? 俺は騙されないぞ。

 彼女と関われば、きっと怖いお兄さんが現れるんだ。そして、金銭を要求されるんだ。そんな未来が視えるね。



「おにいちゃーん」



 クラスの女子と話していた純菜が戻ってきた。

 俺は立ち上がり、カバンを手にした。



「帰ろう」

「うん。ところで大和田さんにまた絡まれてたの?」

「なぜかね。今まで話したことなかったのに不思議だよ」


「お兄ちゃんのこと好きだったんじゃない?」



 そう言われると、よく見られていたような気がする。目が合ったことも何度もあったような……。まさかな。

 いや、ありえんだろ。

 俺は銃をもっていても戦闘力たったの0.05の男。雑魚中の雑魚。

 吹けば消し飛ぶような男だぞ。


 あんなキャピキャピギャルに好かれる要素だとか覚えがない。



「ただの気まぐれだろ」

「そうなのかな~」

「それより帰ろう」

「りょーかーい」



 一緒に教室を出る。

 廊下で早々、木崎くんと遭遇した。



「帰るのか、月島」

「そんなところだ」

「可愛い義妹と下校か。羨ましいなぁ」

「今日は初日だから、真っ直ぐ帰るよ」

「そうか。気をつけて帰れよ。変なのに絡まれたら俺が代わりにボコボコにしてやんよ」



 ニカッと笑い、去っていく木崎くん。なんでそこまでしてくれるんだ。優しすぎだろ! すでに変なのとは遭遇しているが、ギャルは対象外だ。


 感謝しつつ、俺と純菜は学校を去った。


 バス停でバスに乗り込む。



「今日一日どうだった、純菜」

「すっごく楽しかった。みんないい人だったし、学校生活楽しくなりそう」

「そりゃよかった。俺も最高だったよ」

「うん。お兄ちゃんの笑顔が増えてよかった」


「え……?」


「なんかね、お兄ちゃんさ、ずっと表情が硬かったから。岩のように硬かったよ」



 そうだな。俺はずっと孤独だった。

 純菜が現れてから笑うようになったかもしれない。自分ではあんまりよく分からないけど。

 けれど、俺なんかより純菜の笑顔の方が見れて嬉しい。

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