第14話 デート中に一番する行動は、二人で話すこと。

 ……ずっと、『主人公』に負け続けてきた人生だった。

 本当に、物心ついた頃から本当にそうで。中学のあの日──あの兄ちゃんに言われて自分が自分を『モブ』だと認識していたと自覚するまで、そのことに気づくことすらできなかった。


 俺は、そんな自分自身を恥じている。

 だからこそ──この、自分に降りかかる不思議な何かを乗り越えるまで、自分はきっと永遠に前に進めない。夢を見ることも……ましてや、誰かを求めることも許されない。

 あの日からずっと、そう思っている。




「……どうしてこうなった」


 土曜日、駅前にて。

 外行き用の格好をした晴夜が、そう呟いた。

 無論、誰にも聞こえないくらいの小声だ。何故なら既に隣には居るからだ。


「それで、どうするっ、何するっ!? 行ってみたいところとかあったら聞かせてっ!」


 ぴょんぴょんとその場で飛び跳ね、もう遊んでみたくてしょうがないとばかりに興奮気味の水澄灯が。


 この場に居るのは、晴夜と灯の二人だけ。

 そう、悠里はこの場にいない。先日行った『親戚の急用』とやらで現在は県外だろう。一応言っておくと、なんかこう親族の誰かが危篤とかそういうのではないらしく建物関連の事故で単純に人手が必要になったとか。

 それに関しては純粋に良かったと思うが──まずは、この現状をどうするか。


「とりあえず落ち着いて水澄さん」

「そ、そだねごめんね! わたし、こうやって誰かと二人……少人数で遊ぶのって本当になかったから……!」


 一先ず灯を落ち着かせるべく声をかける。このまま放っておいたらあらゆる場所を飛び回りそうなくらいのはしゃぎっぷりだったので。


「大人数ではあったの?」

「う、うん。クラス全員で出かけるのとかは誘われて……それ以外ではあんまり」


 なるほど、と納得する。

 灯の中学までの周りからの扱いからするに、多分誰かと──しかも異性と二人で出かけたなんて噂が立とうものなら大事件になってしまったのだろう。それを恐れて引くか、或いは誘おうとしても牽制されるか。そうして、お姫様の如く孤高だったわけだ。


 正直それも無理のないことだと思う。

 何せ、今も灯は駅前のあらゆる人間から注目を集めっぱなしだ。日本人離れした髪の色と瞳の色、それだけでも人目を引くのに、その持ち主が同時に埒外の美貌まで兼ね備えているとなれば尚更。

 学校を出ても変わらず灯の美少女ぶりは健在で、清楚可憐でありながら今風のおしゃれさも兼ね備えた私服に身を包んだ彼女は、まさしくお忍びのお姫様と言われても信じられそうなほど決まっていた。


 そうなると、晴夜の立ち位置はその護衛あたりだろうか。

 正直、心持ちとしてもそうだ。晴夜が持っていたこの日の当初の目的は、灯と悠里に今まで以上に仲良くなってもらうことだった。

 だが、灯の目的は違う。純粋に友達と楽しく遊ぶことで……同時に、それを通じて中学の頃に見失った『お姫様』じゃない本当の自分をゆっくりと見つけていくこと。


 それを──晴夜と同じ、今までの自分ではない自分になりたい、という。その目的を持った彼女を手伝いたい。それも、確かなのだから。



 ともあれ、そうである以上まずはこのお出かけを灯に楽しんでもらうことを考えよう。

 そう思考を切り替えて、晴夜は灯と並んで歩き出す。

 本日の天候は快晴。絶好のお出かけ日和だ。だからこそ……


「しかし、神崎がいないのは本当に惜しかったな。せっかくこんないい天気なのに」

「うん。それに関しては……残念だし、神崎くんにも申し訳ないけど」


 灯も、そう本心から返す。ここ数日の交流で、灯と悠里も大分打ち解けてはきているからこそのその台詞に続いて。


「だからこそ、来週いっぱい話せるように。それで、神崎くんに今度こそ一緒に遊びたいって思ってもらえるように、今日はいっぱい楽しもう!」

「あまりにも光」


 なんとなく、『お姫様』じゃない灯の性格が分かってきたな、と思う晴夜に対して。


「それでね」


 灯は、こんなことを告げてきた。


「もう一つあるんだ。わたしの、今日の目的」

「え?」


 思わぬ言葉に驚く晴夜に向かって、灯は改めて振り向くと。

 正面から上目遣いで、一言。



「──君が、ここ数日ちょっと悲しい顔してる理由を聞くこと」



「──」


 思わず、息が詰まった。


「『普通』なら、気を遣って聞かないのかもしれない。『お姫様』なら、向こうから話してくれるまで待つのかもしれない。

 でも──わたしは、『わたし』になるんだって決めた、そうしたいって思うから。だから……頑張って聞きにいく。もちろん無理やりじゃないけど、君が話したいって思うまでなんでもやるつもりだから」


 そうして、彼女は。

 以前言った『仲良くなる』宣言と同じように。

 けれど今度は……その時よりも、少しだけ更に積極的に。


「だから……今日は、君にも。目一杯、楽しんでほしいな?」


 あまりにも可憐に、世界全部の目を奪うほど華麗に微笑んで、そう告げてきた。

 思わず、晴夜もこぼす。


「……覚悟しとくよ」


 こうして。

 晴夜と灯の初めての──敢えてこの言葉を使うのなら、デートが始まったのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


デート回、開幕です。

少しずつ変わっていって攻め攻めになっている灯の様子と、晴夜の悩み。それらにどういう風に二人が関わっていくのかを糖分も積極的に使いつつ書いていきます。ぜひ読んでいただけると嬉しいです!

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ラブコメのモブは、『原作』を知らない。~「お前はラブコメのモブだ」と言われたので脱モブを目指して頑張ったら、何も知らないままメインヒロインを原作以上に幸せにしてた~ みわもひ @miwamohi

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