第13話 モブの呪いも、予想外の方向に完璧ではないらしい。

「……」


 灯に絡んでいた男子生徒をどうにか撃退はできた。

 まぁ、代わりに晴夜がヘイトを集める形にはなったが、あれの執着が灯に向けられるよりは自分に向けられる方が万倍マシだろう。そう結論づけて、晴夜は引き続き考える。


(しかし……なんなんだ? あいつらは、本当に)


 入学の日から晴夜に敵意を向けていた二人のクラスメイト。彼らの行動は、最初から考えてみても異常ではなかった点がどこにもない。

 まず晴夜に敵意を向ける理由がこの期に及んでもさっぱり分からない。灯と、あとは場合によっては悠里にもか? この辺りの人間に何かしらの感情を持っているのは分かるのだが、それにしてもアプローチのやり方が不明すぎる。


 迂遠で臆病かと思えばときに直接的で、距離感も自信もちぐはぐで。特定の状況にだけはやけに自分の知っていることに対して自信満々になる。

 まるで……本人の能力や気質に・・・・・・・・・不相応な知識だけを・・・・・・・・・与えられた・・・・・ような。そんな形容し難い違和感をずっと晴夜は彼らに対して抱いている。


 ……正直、勘弁してほしい。

 ただでさえ自分も自分に降りかかる謎の現象に立ち向かうのに精一杯だというのに、これ以上外的要因で自分の対処リソースが割かれるのが勘弁願いたいところだ。……彼らの執着だけはおそらく人一倍だと察している以上、叶わぬ願いになりそうだが。


 ともあれ、泣き言を言ってばかりもいられない。彼らの動向には引き続き気を配りつつ、まずは不思議と関わることになった横を歩く少女、晴夜と同じく『何かに決められた自分』を脱却しようと頑張る少女の手伝いに注力しよう。

 それは間違いなく、今の自分のやりたいことだから──と心を固め、改めて横の灯を見やると。



「わ……う……ぁ……っ」

「いや何その顔!?」



 何やら、すんごい青ざめた感じの顔で晴夜の方向を見ている彼女がいた。

 何かに怯えているかのようなその表情をさせる心当たりが本気でなく、慌てて晴夜は問いかける。


「え、どしたのごめんマジで心当たりがない! 何か怯えられるようなことした!? 差し支えなければ教えてくれると嬉しいかも!」

「あ、えっと、その……っ」


 そんな晴夜に対して、灯も慌てた様子で。


「……小日向くん、さっき言ってたよね。『仲良くなるにも順序があるって』」

「あ、ああ」

「わ、わたし──ちゃんと順序踏めてた!? 今自分のこと振り返ってみたらその、いきなり押しかけてる感じあるし、今もすごくぐいぐい行ってると思うし……っ!」

「自覚はあるのね!」


 なるほど、その辺りを自覚しているからこそ、先刻の晴夜の言葉が自分にも刺さってしまったと。

 ……いやしかし、あのどう考えても無理やり話しかけて捲し立てた側が悪いと分かる状況で、尚も自分を省みることができるのは流石にいい子すぎないか?

 そう思いつつ、ともあれそれに関して灯が気にする必要は一切無い。


「大丈夫、ちゃんと踏めてるよ」

「!」

「さっきのと違って水澄さんはちゃんとこっちに許可も取ってるし、過剰に押し付けたりとかもしてないし。というか、俺は嫌だったらちゃんと言うさ。ちゃんとこっちも仲良くなりたいと思ってるからこうやって交流してる」


 その辺りを笑顔で伝えると、灯はふわりと可憐な安堵の顔を浮かべる。

 そのまま、安堵に合わせて心からの嬉しさも含んだ、えへへ、という笑みを浮かべ。


「良かった。……今、一番仲良くなりたいのは君だから。ちゃんと向き合ってくれてるって聞けて、すっごい嬉しい」

「っ」


 そして、さしもの晴夜も思わず気恥ずかしくなるようなことを言ってくる。

 なんともストレートなセリフに加えて、それが灯の美貌と愛らしさで紡がれるのだから破壊力もひとしおだ。……これも、これまで対等な友達付き合いが少なかった弊害だろうか。親愛の伝え方があまりに直球すぎる。


 無論、嬉しいことは嬉しい。

 だが、同時に思うのだ。……やっぱり、このまま自分とだけ仲を深めるのは良くないと。

 ある意味で閉じた交友関係だけにしてしまうのは、今までの彼女と大きくは変わらない。もっと積極的に、仲の良い人間は増やして欲しいと思う。


 結局、その結論に戻ってきて。……そして同時に、心当たりもある。

 なんの心当たりかといえば、晴夜以外にも素の灯と対等に付き合ってくれる人間の心当たりだ。誰かについては──まぁ概ね予想がつくだろう。

 そんな考えのもと、晴夜は話を切り替えるように口を開く。


「そういえばさ。どっかで水澄さんに聞こうと思ってたことなんだけど」

「ん、なに?」

「今度の休日、せっかく色々あったんだし交友深めようってことで、神崎と出かける約束してんだよね。そんで良かったら水澄さんもどうかって──」

「行きたいです!!」

「レスポンス早っ!」


 超絶食い気味に、目を輝かせて身を乗り出してきた。

 ……そう言えば、まさしくこんな感じの『普通の友達っぽい交流』に灯は憧れていたんだったか。なんなら入学式の日にも似たようなことを提案された覚えがある。

 であれば、この食いつきも納得か。そして同時に、晴夜にとってもありがたい。


 そう。晴夜の考える、自分以外の素の灯と仲良くしてくれそうな相手の第一候補。それは言うまでもなく、神崎悠里である。


 無論、晴夜は原作を知らない。そのためこの世界の基となった『原作』ではまさしく灯と悠里が仲を深め、それこそ恋仲にまで発展したことなんて知る由もない。

 だが……そんなもの知らなくても、二人と交流していれば明確に分かる。

 神崎悠里がちゃんと『主人公』になれるほどの良いやつであり、また灯と悠里がこの上なくお互い気が合うだろうということくらいは。


 だから、今回のお出かけの晴夜の目的は、灯と悠里にも仲良くなってもらうこと。


(俺が間に入れば、変にお互い緊張するとかいう事態にもならなさそうだしな)


 そう心中で一人呟きつつ、晴夜は考える。

 その日のお出かけで、二人が仲良くなってくれればくれるほどよい。まだ若干ぎこちない二人に今まで以上に打ち解けてもらって。理想は灯に、完全に素と言えるくらいに砕けられるようになってもらう。

 そう、それこそ。



(──別に俺が居なくても互いが一番仲良しになってくれるくらいに、な)



 そう、晴夜が心の中で告げたことを。

 知る人間は、誰もいない。


 そこから、続けてこう考えたことも。


(そう言えばさっきあいつが言ってたな。『自分よりもできる奴がいるなら、そいつに譲るべきだとは思わないのか』って)


 ああ、全く。晴夜にとっては今更な質問だ。そんなの──


(──最初からそのつもりに・・・・・・・・・・決まってんだろ・・・・・・・。それがお前じゃないってだけで)



 そんな決意と判断を、誰に聞かれるでもなく固める晴夜。

 とにかく、その目処は立った。自然な流れで三人で遊ぶ計画を立てつつ、その中で灯と悠里にもっと仲を深めてもらう。

 我ながら完璧な計画だ。そう自画自賛しつつ、興奮気味の灯と休日の予定を立てていた──その時。



「こ、小日向君!」


 まさしく、話の中心になっていたその神崎悠里が慌てた様子でやってきて。


「その、今度の休日の約束のことなんだけど……」


 こんなことを、告げてきたのだった。


「急用で親戚の所に行かないといけなくなって──そっちに行けなくなったんだ。埋め合わせはする、本当にごめん……っ!」




「…………はい?」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


というわけで、次話よりラブコメの定番、晴夜と灯のデート回です!

本話でちらっと見せた晴夜の深い部分にも言及しつつ、基本は甘酸っぱく書けるように頑張ります。ぜひ読んでいただけると!

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