日常的に活かせる本の知識

かなひろ

人は世界が公平であると信じたい


あなたのおすすめの物語は何でしょうか?

 






もちろん物語であれば小説にこだわる必要はありません。


子どもの頃に膨大な時間を費やしたRPG、例えば『ドラクエ』や『FF』。

 

今流行りのアニメや漫画、例えば『進撃の巨人』や『推しの子』。

  

または『ホメロス』や『メーディア』などの古典文学作品等々、

 

例を上げればきりがないですね。



 

では、魅力的な物語に共通する『要素』とは何でしょうか。

 



当然たくさんの要素があると思いますが、

今回僕が取り上げたいのは『とある信念』のもたらす効果です。




一般的に人であればその信念を持っています。

おかげで僕らは努力をしたり他者を思いやることができます。




また、魅力的な物語は僕らがもつこの信念を上手く扱い、時には真っ正面から否定することで強烈な感情を読者に与えることもできます。




ではその信念とは一体何か。


それはずばり、『公正世界信念』と呼ばれるものです。





おそらく多くの方にとっては聞き慣れない単語でしょう。ですが安心してください。できる限り分かりやすく紹介します。






今回のエピソードでは、

この公正世界信念が僕たちに与える心理的な影響について紹介します。

その影響によって自分を苦しめたり他者を苦しめる事態を引き起こす場合もありますが、上手く使えるようになると人の心を動かすことも可能になるでしょう。





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*はじめに参考文献の方を紹介しておきます。(おすすめの本でもあるのでぜひ読んで欲しいです!)




・『「感情」から書く脚本術――心を奪って釘付けにする物語の書き方』

   (著 カール・イグレシアス) 



・『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(著 綿野恵太) 



・『オプションB:逆境、レジリエンス、そして喜び』(著 シェリル・サンドバーグ、アダム・グラント)     



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はじめに、公正世界信念とは心理学用語であり「良いことをした人は報われ、悪いことをした人は裁かれるはずだ」という認識のことです。



いわば、『アンパンマン』のような世界観ですね。


悪いことをしたバイキンマンは毎回アンパンマンにやっつけられる……それと同じようなことが現実社会においても成立すると僕たちは信じているということです。

 

因果応報とも言えますね。

 

 



そして、その信念が正しいと肯定してくれるストーリーに私たちは惹かれます。苦しみを耐えて強くなった主人公が周りの人間を見返したり、追い抜いたり復讐する展開には、思わず心地よさを感じるものです。






 ……しかし、この信念が引き起こす弊害もあります。


例えば被害者非難。いじめの被害者に対して「お前にも非があるんじゃないか」と言って話に応じてくれない教師や大人。何かしらの被害にあった時、「そんな服装をしていたから襲われたんだ」といったように責められるパターン。挙句の果てには災害に巻き込まれた被災者に対して「因果応報だ」なんて言う人も実際にいます。



では、一体これらはどういう心理か。


「何の罪もない善良な人が残酷な目に遭っている」という事実から目を背けようとする、つまり高い心理的負担から身を守ろうとしている…というのが可能性の一つとして考えられます。




例えば、残忍で非道な敵キャラが悲惨な目に遭っても僕たちには何の悲しみもありませんよね。むしろ、それを待ち望んでいた……なんて思うこともあるでしょう。





しかし、もし主人公を愛していて健気で優しく、辛い運命に立たされていながらも前に進むようなヒロインが敵の手によって命を奪われたとしたら、どうでしょうか。



…精神的にかなりきついですよね。


そしてそれは現実社会でも同じことです。

ニュースやSNSでたまたま知ったような他人のことであっても、その人が事件に巻き込まれたとあらば、自分のように悲しんだり苦しくなったりする人もいるでしょう。



(ちなみに、真っ向から公正世界信念を否定する出来事を僕たちはトラウマと読んでいます)



このような苦しみを回避するため、その人が過去に悪いことをした…とほぼ無意識のレベルで思考が偏ってしまうのではないかと考えられます。その方が僕たちの心理的負担が下がりますからね。不快な気分を減らし、自分の身を守ることができるのですから。





では、最後にこれらの知識をどのように物語に活かすことができるのかを考えます。


…と言いたいところですが、物書きの方はこれらのことを十分に理解し、当たり前のように使っていることだと思います。







追放ものや復讐劇のような作品はまさにこの信念をうまく活用していますよね。

「ヘイトを集める」なんて表現もありますから。つまり、主人公と相対する敵への攻撃心や嫌悪感を高めるような場面を挟むことで、物語の受け手を感情的にするということです。







作品の中には、とても優しい人物やヒロイン等が敵に殺されるといった場面がたまにあると思います。先ほども言ったように、これらはあまりにも衝撃的で強い感情体験を僕たちに与えます。




 そしてそのような出来事はその作品をより印象付けるための重要な一手であると考えることができますよね。



というのも、僕たちは感情が揺さぶられる出来事ほど強く記憶するからです―*。


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 *あまり脳に興味がない方であっても「海馬」という単語を一度は聞いたことがあると思います。

 海馬とは、記憶の形成・感情のコントロールに大きく関わっている脳の部位です。

 実はこの海馬の近くには「扁桃体(へんとうたい)」と呼ばれる、感情を作り出す部位があります。衝撃的な出来事を体験すると、この扁桃体が活性化され、それに触発されて海馬も活性化され記憶の形成が促されるのです。――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



先ほど話したのは負の感情に焦点を当てたものですが、プラスの方向でも考えてみましょう。



主人公の夢が叶ったり、努力が報われたり、負けヒロインが他のキャラと結ばれたりなども読者の感情を強く揺さぶることができると言えるでしょう。





このように、科学の知識というのは知っているだけでも効果があります。今回の内容を見てくださったみなさんは既に、被害者非難などに加担してしまうような事態をより回避しやすくなったことと思います。



しかし、その知識を分野をこえて応用すると新しいモノの見方ができるようになるはずです。このことを類推(あるいはアナロジー)と言ったりしますが、今後もネタを提供しようと思うので、面白ければぜひフォローやいいねをよろしくお願いします。






次回は、「孤独によるストレスが与える生理的な影響」について紹介します。


 ではまた。


 

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