過労死したので酒が水代わりだった中世ヨーロッパに転生してみたら普通に後悔した
紬寧々
酒は水
『過労死ですね』
「中世ヨーロッパの農民で」
『……まだ死因しか言っていないのですが』
そんなことはどうでもいい。俺には"中世ヨーロッパの農民に転生する"という夢があった。目の前に女神が現れたということは、つまり転生できるということ。農民になれば誰かに縛られることもなく悠々自適な生活を送れること間違いなし。
ちなみに中世ヨーロッパに決めた一番の理由は"酒が水代わり"であったと、どこかのネット記事で読んだからだ。酒カスの俺にとってはたまらねぇぜ。
「あびゃあびゃあびゃあびゃあびゃあびゃ!!」
思わず笑いが漏れてしまった。女神は冷めた視線を向けてくるが俺の熱意の前では無意味だ。
『分かりました。それでは14世紀頃のヨーロッパへお送り致します』
いざ、誰にも縛られない世界へ────
気がつくと椅子に座ってお祈りをしていた。どうやら朝食を食べ始めるところだったようで、テーブルには黒いパンと具のないスープらしきものが置かれていた。質素だが文句はない。メインディッシュは横に置かれた木製のジョッキの中にある。
間違いない、あれは酒だ。
お祈りを済ませ、早速ジョッキを手に取り中身を喉に流し込む。
ごくごくっと目にも止まらぬ速さで一気に飲み干した。机の上にジョッキを置き一言。
「水やんけぇえええええええええええええ!!」
アルコールが入ってないただの酸っぱい水じゃねぇか!?
まぁ朝くらいはいいだろう。後で都市に行ってワインか何かを買えばいい。
「母さん、金をくれ。酒を買ってくる」
俺の目の前に座っていた母にそう言うと、怪訝な顔をされた。
「あんた何言ってるのよ。お金は領主様に納めたばかりでほとんど残ってないわ。うちにお酒を買う余裕はありません。そんなに飲みたいならさっさと食べて働きなさい」
現代よりブラックじゃねぇか!?
俺の悠々自適な生活が…………。
「もう一回転生させてくれぇええええええ!!」
彼は知らなかった。中世ヨーロッパの農民が飲んでいた酒はアルコール度数が1〜2%ほどしかなかったことを。金のほとんどを領主に取られていたことを。
過労死したので酒が水代わりだった中世ヨーロッパに転生してみたら普通に後悔した 紬寧々 @nenetsumugi
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