甲斐の虎VS砂漠の狐

船越麻央

武田信玄VSロンメル将軍

 永禄四年十月二十八日、早朝。

 川中島に立ち込めていた霧が晴れた。


「な、何だあれは!」

「ティーガー戦車だっ!」

「そんな……ばかな……なんでやつらがっ!」

「ティーガーが来るぞ! 対戦車砲用意!」


「やられたなあ、勘助」

 武田信玄は軍師に話しかけた。

「いや、参りました。キツツキ戦法を見破るとは。さすが『砂漠の狐』ですな」

 山本勘助が答える。

「かくなる上は別働隊の到着まで持ちこたえるしかありません」

「おのれロンメルめ。今日こそ決着をつけようぜ」


「さあ、行くわよ! 目指すは『甲斐の虎』、ティーガーを先頭に波状攻撃をかけるの! 準備はいいわね」

 こちらはロンメル将軍。副官に命じた。

「別働隊が来るまでが勝負だわ。ティーガー、パンターを発進させて! レッツゴー!」

「はっ! ティーガー戦車隊突撃開始! パンター戦車隊ティーガーに続け!」

「フン武田信玄。今日こそ決着をつけましょうね」


 ドイツ機甲師団が動き出した。自慢のティーガー重戦車を先頭に武田軍の前衛に殺到する。火を噴く武田軍対戦車砲。しかしティーガーの厚い装甲に跳ね返される。さらに戦車砲による砲撃が始まった。突撃するドイツ機甲師団、損害を出しながらも応戦する武田軍。

 ロンメル軍の波状攻撃に、武田軍の前衛が破られた。後続のパンター戦車隊も砲撃しながら迫る。両軍の装甲歩兵の白兵戦も始まった。しかしドイツ機甲師団の勢い凄まじく武田軍は明らかに押されていた。ロンメル軍の猛攻に武田軍の最強装甲騎兵隊も苦戦を強いられている。


「別働隊はまだか。このままではヤバイぞ」

「申し訳ありません。この山本勘助、一生の不覚。これより我が隊を率いてロンメルを止めて見せます!」

「勘助……無理するなよ。死ぬな! 命令だ!」

「……それでは……失礼します……」


「さすが武田軍ね。本当にしぶといこと。別働隊が来たらマズイし。いいわ、いつものジープを用意して」

「か、閣下! まさか! ダメです、いけません!」

「いいから、いいから。あとわまかせたわよ。お願いね!」


 ロンメル将軍は双眼鏡を手に、美しい金髪をなびかせて愛用のジープに飛び乗った。


◇ ◇ ◇


 この日、川中島で武田信玄率いる甲州軍とロンメル将軍率いるドイツ機甲師団が激突した。交通の要衝かつ豊かな穀倉地帯をめぐってこれまで両軍は小競り合いを続けていた。ただお互いに相手の実力を認め、あえて決戦を避けていたのだ。

 しかし今回は違った。信玄もロンメルも決戦を望んで川中島に出動して来たのである。信玄は海津基地、ロンメルも妻女山に陣地を築いてにらみ合いとなった。

 『甲斐の虎』と『砂漠の狐』。この知恵くらべどちらが先に動くか。


 そして信玄がまず動いた。軍師山本勘助の策をいれ、妻女山を早朝に奇襲すべく夜中に別働隊を出撃させた。信玄本隊は八幡原に展開し、妻女山から追い落とされたロンメル軍を待ち伏せする。いわゆるキツツキ戦法なのだが……。


「さあ狐狩りだ! ロンメルめ待ってろよ」


 しかしロンメルの目はあざむけなかった。ロンメルは武田軍の動きを察知、全軍で夜間妻女山を下り武田軍本隊の待つ八幡原に向かった……。


「さあ虎退治だわ! 信玄よ待ってなさい」


 ◇ ◇ ◇

 

「はかられた! 本隊が危ない! 八幡原に向かう! 急げ!」


 もぬけの殻となった妻女山を急襲した別働隊は地団駄踏んで悔しがった。そして直ちに主戦場となった八幡原に向かったのだが、果たして間に合うか。


 激戦は続いていた。戦車対戦車、装甲歩兵対装甲歩兵、装甲騎兵対装甲騎兵、両軍とも死力を尽くして戦っている。完全に乱戦状態であったが、戦力に勝るロンメル軍がジワジワと武田軍を追い詰めていた。


 武田信玄は指令本部で腕を組み目を閉じてジッと待っていた。


 この乱戦の中、一台のジープが戦場を駆け巡っていた。『砂漠の狐』、ロンメル将軍である。金髪碧眼のオンナ将軍がわき目もふらずに武田軍の司令本部を目指している。


「どいて、どいて! 邪魔しないで! 武田しんげーん、出てきなさーい!」


 何という無茶無謀。司令官自らジープを駆って敵の司令本部に突進する。常識外れなことをやってのける。『砂漠の狐』本領発揮である。

 そしてついにジープは陣幕に囲まれた武田軍司令本部に猛スピードで乱入した。


「何? ロンメルが来ただと⁉」


 さすがに絶句した信玄の前に機関銃を乱射するロンメルが現れた。信玄の頬を弾がかすめる。ジープの前に立ちはだかる装甲歩兵。

 ロンメルと信玄の目が合ったが、ロンメルは無言で信玄を睨みつけた。信玄も動じずに見返す。『甲斐の虎』と『砂漠の狐』。気迫と気迫のぶつかり合いである。


 数秒後、ロンメルは信玄に背を向けると装甲歩兵を振り切り、猛スピードで去って行った。


 ちょうどその頃。ついに妻女山から武田軍別働隊が戦場に到着、ドイツ機甲師団に襲い掛かった。崩壊寸前だった武田軍は息を吹き返し、形勢は逆転した。


「うーん、もう少しだったのに! しょうがないわねえ」

「かっ、閣下、全軍退却させます!」

「……退却? もうおバカさんね。負けて逃げるんじゃなくて! 戦略的移動よ、移動!」

 

 ドイツ機甲師団は武田軍の猛追を受けつつ、大損害を出しながら戦場を離脱した。こうして川中島の大会戦は終了した。武田信玄は川中島を確保したものの犠牲も多く、特に軍師山本勘助を失ったのは痛かった。


「……勘助……勝ったぞ……おのれロンメルめ……」


 一方のロンメル将軍。まったく懲りていない。いたって元気かつ意気軒高である。


「勝ったのはこっちです! 次は関東よ、関東。準備出来次第出動するからね! よろしく~」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 『甲斐の虎』と『砂漠の狐』、まさしく好敵手である。


 了

  

  

 


 

 

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甲斐の虎VS砂漠の狐 船越麻央 @funakoshimao

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