虚勢という名の仮面

夜桜月乃

今会いに行くからね

 私は何かを馬鹿にするのが好きだ。


 話の本質を知らずに発言をする人。それをして痛い目を見る人。例を挙げるなら、所謂ツイフェミという人たちや、ポリコレを謳いながらも結局のところそれが差別的なものということに気が付かない人たち。それから過激派の動物愛護団体や環境活動家という、偏った視点で物事を見てしまう人たち。面白いことにこれらは女性が多い。

 社会で求められることと真逆のことをさせることがある教育現場だったり、十年間学んでもほとんどの人が身に付かない英語教育プログラム。本当にそれが指標となりうるのかがいまいちよくわからない試験たち。

 私は色んなものを、どうやら誤用らしいけど、穿った、斜に構えた見方をしてしまう。

 そんな、とても褒められたものじゃない性格をしている私は教室内で少し浮いた存在だった。自分で言うのもなんだけれど、変な人なのだ。陰気で、自分から人と関わることが少ない、言ってしまえば中二病な娘。こんな私がストレスの捌け口にされるのは必然だったのかもしれない。要するに、いじめだ。

 けれど、こんな私も、恋愛というものができて、付き合うこともできたんだ。


「いつ、あいつに会いに行こうかなあ」

 私はいつも、そんなことを呟きながら生きている。人に会うんだから、良い感じのタイミングで会いに行きたいなんて思うのは普通のこと。私にとってそれは大事なことだから、この発言が日常のものと化していた。

 この口癖からも察せる通り、現在私の彼氏くんはこの場所には居ない。寂しいし、辛いけど、私はそれでも頑張って生きている。

 彼と出会ったのはいつだっただろうか。とりあえず、私がいじめっ子野郎にぶん殴られた後呆けていたら話かけて来たというのは覚えてる。

 私は当然のように「私に優しくしてなんか企んでる?」なんて言っちゃったけど、彼氏くんは普通に優しいだけだった。客観的に見ても自分の容姿はそれなりに整ってると思ってたけど、自滅してしまったらしい。

 そんな恥ずかしい出会いをしてから、放課後私が無感動に死んだ顔をしているところに来て、話し相手になってくれるようになった。

 よくある軽々しい「死にたい」発言としてではなく、真面目に死んでやろうかなんて馬鹿なこと考えてた私だったけど、彼氏くんと話すことでちょっとは楽になっていた。存外私はチョロい人間なのかもしれない。いつしか真面目な「死にたい」は、軽々しい「死にたい」になっていたような気がする。

 私に対するいじめというものは、かなりひどいものだと思う。単純な暴力から、制服をはだけさせて写真を撮ったり。面白いのが、よくある盗みをやらなかったこと。文房具があまり困らない範囲で消えることは一応あるにはあったけど、教科書とかやったら教師にバレるからかそういうものに手は出さなかった。写真については最悪の一言だけど、可愛い娘がぼろぼろな状態で服をはだけてるのは、私じゃなかったらちょっと見たい。

 彼氏くんが、正式に私の彼氏くんになったのは、それから少し後のこと。耐えがたい屈辱を受けてなお学校に来ている。そんなところに憧れたって言ってた。そう言われると、良くも悪くも私は面の皮が厚い人間なのかもしれないななんて思った。

 そんなことをしていると、やっぱりいつかはその関係がバレるようで、彼氏くんもいじめの標的にされた。暫くは二人でなんとか耐えていたけど、長くは続かなかった。

 私は受け流すのが上手な人間だけど、彼氏くんはそうでもない人間だった。私に憧れていたけど、それは憧れに終わったようだ。これに関しては仕方がないと思う。

 彼氏くんは、私に「ごめん」と言って、別の所に行った。一緒に居たい気持ちは勿論強かったけど、そんな都合良く一緒に行くのも難しい。だから私は、また一人で耐える日々に逆戻りした。なんなら、獲物に逃げられた腹いせからかその行為は激化していた。

 そして昨日も今日も明日も、私は殴られ、写真を撮られ、仲間内だけがわかる場所に晒される。「死にたい」なんて呟きながら、重い足を引きずって歩いていく。


 今日は天気が良い日だった。風が心地良い。そんな日こそ彼氏くんに会いに行くに相応しいなんて、適当な理由で私は駅に向かった。

『今会いに行くからね』

 私は彼氏くんにそうメッセージを送った。彼氏くんに貰った手紙を握り締めて、そろそろ電車が来るらしいので前に踏み出す。

 誰かの悲鳴と、電車の車輪の悲鳴が重なる。私はうるさいなぁと思いながら構わずその動きを続けた。


 電車が到着する。

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