Slum Badminton

@kyo1031

そこに伝説がいた

-桜木 花-


私はバドミントンが好きだ。


中学1年から初めて早3年、地元の進高校に入学したがこの高校はバドミントン部が決して強くはない。

同じ地区の強かった先輩たちが入学したとは聞いていないし、高校の地区大会を見に行った時も上位にこの高校の名前はなかった。


ならばなぜこの高校に進学したのかというと、家から通える進学校がここしかなかったことと、単純に私はバドミントンが強くはなかったからだ。

全国大会出場なんて夢のまた夢、私の最高成績は3年最後の大会での地区大会ベスト8、県大会まであと一歩だったのだが、全国常連校の1番手と当たったが最後、あっさり敗退してしまった。


本日はこの県立修北(しゅうほく)高校の入学式。


新生活に大きな期待を持っているわけでもなければ新たな出会いに胸を膨らましているわけでもないこの入学式にもそろそろ飽きてきたころあいだ。

校長と名乗る頭皮の防御力が著しく低い男の話を聞くのにも限界を迎えていたのだがようやくそれが終わり、次は新しく赴任してきた教師の紹介に移った。


そこに伝説の男がいた。


長話を聞きすぎて脳がバグったのかと思ったが、佐々木翔(ささきしょう)という名前を聞いてこれは現実であると引き戻された。


佐々木翔、バドミントン界を一時期ふるわせた人物。

当時世界一スマッシュが早いといわれていた人物。

私の7歳年上のはずなので現在22歳、彼の経歴はすさまじく高校1年にしてインターハイベスト4、2年3年では優勝は当たり前で全日本で3位、惜しくもオリンピック出場を逃すという結果となった。

強豪の体育大学に入学するという噂を聞いて次回のオリンピックは当確か?と言われていたが、彼は突然バドミントン会から姿を消した。

少しの間はケガか病気かと嘆かれていたが、その後の新星誕生により世間から忘れられるのに長い時間はかからなかった。


「この度体育の教師として赴任してきました、佐々木翔と申します。」


彼を初めて目にしたのは私が小学生の時に、近所の大型体育館でインターハイが開催されていた時だ。

当時その体育館を避暑地兼、遊び場としていた私はこの日は人が多いなくらいにしか思っていなかったが、いざ応援席で観戦してみると夢中になってみてしまったのを覚えている。

結局決勝まで見てしまい、家に帰ったころには夜も更けており母親にこっぴどく怒られたのもいい思い出だ。


その時に優勝したのが彼だった。

その鮮烈な姿に憧れ中学でバドミントン部に入ったのだが、私には才能がなかったようだ。


「ここは進学校なのであまり体育を好まない生徒が多く、スポーツ系の部活に入る方も少なくなっていると聞きました。」


高校では部活はそこそこに勉強を頑張ろうと思っていたのだが、彼が顧問になってくれれば私も強くなれるかな。

中学では結構練習してきたつもりだったが、悔しい思い出ばかりだ。


「体育教師の僕が言うのもアレですが、適度な運動はストレス発散にもなり、勉強にもいい影響を与えることも多くあります。」


せめて県大会に行きたいなとか、負けたあの子に勝ちたいとか妄想が膨らむ。

でもなんでこんなバド部の強くない高校に来たんだろう。

経歴的にも実力的にも強豪校から引く手あまただろうに。


「軽くからでもいいのでスポーツをしましょう!気になった方は気軽に声をかけてください。」


楽しみだ。どんな練習をしたらあんなに強くなれるんだろう。どんな戦術を教えてくれるんだろう。彼のスマッシュを受けてみたい。

神様ありがとう。私にこんなチャンスをくれて。


「バスケットは好きですか?」


は?


「私は大好きなバスケットボール部の顧問になりたいと思います!バスケがしたいです、、、って方はぜひ入部してください!」


神はいない。

私は感謝したことを悔んだ。

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