第13話 エピローグ的な何か。
私は結局、第2王女を殺すことはできなかった。
それは情けでも何でもなく、そうすることでラーレを彼女から引き離せると思ったから、私の愛する人ににならなくても、彼女の元から引き離せるのなら、私はそれでいい。
私は自身の恨みから、子を成すことができなくなり、王都をモンスターで襲撃させた悪人だ。
この致命的な傷を抱えてワイバーンにしがみつくのは何故だろう?
もう死んでもいいのではないだろうか?
私自身がそう思っていても、私の身体はまだ生きていたいのか、死にもせず、その手はワイバーンの体を落ちないようにしっかりと掴んでいる。
その手は、まるで、生にしがみつく亡者のように浅ましい。
死にたくないのであろう。
だって、ラーレに会えていないのだから、一目でいいラーレに会いたいと私は願いながら、空を飛んでいる。
その血を高い空から落としながら・・・。その血は私の最後の願いかもしれない。
もしかしたら、ラーレが私を見つけてくれる。そんな私の最後の希望・・・。
〜〜〜〜〜〜
僕は飛竜の巣でサイサリスとクリスを置いていった後、ラミアが去ったとされる南へ向かった。
もちろんあてのない旅だし、ラミア自体、大怪我をしていたとのことなので、もう死んでいるかもしれない。
だけど、僕は彼女を探さなくてはならない。
僕自身がそう決めたのだ。
僕は他国の慣れない土地を巡ってラミアの足跡を探して旅をしていた。
彼女は最後はワイバーンに乗っていたらしいので、行動範囲が広いので大変だが、僕は諦めずに彼女が向かったという南へ向かって歩いていった。
〜〜〜〜〜〜〜
僕は南の地方を歩いていたら、ある時、血痕を見つけた。
周りには動物や人の死体などはないし、血の飛び散り方から高所から落ちたと思われる後だった。
僕はこの血痕をラミアの痕跡として周囲を捜索することにした。
今まで、碌な痕跡がなかったんだ。
この微かな痕跡をたよりにして必死に捜索した。
ラミアはワイバーンに乗っていたんだ。
血の痕跡があった周辺の村を訪ねて、新しくワイバーンが住み着いていないか、あるいは、昔からワイバーンの巣がないかを尋ねたりした。
すると、何人かの木こりや猟師から、近くの山にワイバーンが巣でも作ったのか、住み着いて山の頂上付近にある洞窟を出入りしているとの情報を得たので、僕は一縷の望みをかけて、ワイバーンが住み着いたという山の洞窟に向かっていった。
ワイバーンが住み着いていると噂が流れているので、ほとんどの猟師や木こりは山には入っておらず、僕は
他人の目を気にすることなく、山道を進んで行く。
ワイバーンの噂が出るまでは頻繁に猟師や木こりが山に入っていたみたいなので山道はそんなに荒れておらず、頂上までの道程はたいしたことはなかった。
山の頂上に行くまでにも、いくつか血痕があり、僕はラミアの存在を確信して、頂上に向かう。
そして、数時間後、僕はワイバーンが住み着いたという噂の洞窟を発見した。
僕は逸る気持ちを抑え、慎重に洞窟に侵入する。
すると思ったよりも洞窟は広くはなく、入口からの太陽の光で奥の方までの見渡せるような広さだった。
僕は奥の方を見ると、そこにワイバーンらしき生物が動いており、その足元に微かに動く存在を見つけた。
暗闇に慣れてきた僕の目には女性らしき存在が倒れており、その周辺をワイバーンが守るようにこちらを威嚇している。
僕は通じないとわかっていても、こちらを警戒しているワイバーンに向かって話しかける。
「僕には君を害する意図はない。ただ、君の足元に倒れている人を助けたいだけだ。」
僕が必死に呼びかけるとワイバーンは気付いたのか、威嚇を止めてこちらに向かって歩いてきた。
僕は思わず身構えたが、ワイバーンは僕の横を通り過ぎる。
その時に僕はそのワイバーンの身体がかなりの傷を負っていることに気付いた。
多分、倒れている人を守っていたせいで傷を負ったのだろう。
傷ついたワイバーンは、洞窟の入口に行き、誰も入れないように横たわる。まるで、僕達を守っているかのようだ。
僕はワイバーンに感謝をしつつ、倒れている人に向かって駆け寄る。
すると、僕が予想していたとおりラミアが倒れていた。
自分で行ったのか、ワイバーンがしたのか分からないけど、怪我をしていたであろう脇腹には、薬草らしきものが置かれており、ラミア自身の手で傷口を抑えていた。
微かに息はしているかのようだが、目は何も写してはいないのかラミアの表情は虚ろだった。
僕は急いでラミアの傷に手をあてて回復術をかけ始める。
「ラミア!死なないでくれ!」
僕の声が、想いが、天に届いてくれと願いながら。
〜〜〜〜〜〜〜〜
私は薄暗い洞窟の中でワイバーンと共に倒れている。
私もそうだが、ワイバーンも私を守って身体中に傷を負っていて、限界みたい。私は最後に残っていた薬草をワイバーンに使おうとしたが、ワイバーンは薬草を器用に口に咥えて、私の脇腹にある傷の上に置いた。
「ありがとう。」
私は衰弱して、発声できないけど、感謝の気持ちを込めてワイバーンを見る。
ワイバーンは私に寄り添ってくれていたが、物音がしたのか、洞窟の入口付近見つめており、しばらくするとこちらに、近づく人影に気付いた。
私かワイバーンを追ってきた人かしら。私にはもう抵抗する力はない。せめてもの抵抗で傷口に手を置いて相手に見せないようにした。
まぁ、どう見ても弱っていることはわかるだろうけど。
ワイバーンが人影に向かって威嚇をし始めた。
すると、
「僕には君を害する意図はない。ただ、君の足元に倒れている人を助けたいだけだ。」
という懐かしくて愛おしい声が聞こえてきた。
ああ!今、私が一番聞きたい声だ。
私の心を察知したのか、ワイバーンは入口に行き、侵入者が入りこまないように入口付近で横たわる。
私に向かってラーレが駆け寄ってくる気配がする。
しかし、私の目はもうあの愛おしいラーレの顔を見ることは出来ないのであろう。
微かに人影らしきものしかとらえることができなかった。
私の脇腹に暖かい手が置かれ、そこからは癒しの力を感じる。
「ラミア!死なないでくれ!」
あぁ!最後にラーレを感じることができた。
「ありがとう、愛しています・・・。」
私はあの時は言えなかった言葉を口に出した。
ラーレに届いていると嬉しいな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ここまでお読みくださりありがとうございます。
一部の登場人物の名前が少しかわっていると思いますので、以下、ネタバラシ(?)的なものを記載します。
ラーレ=トルコ語でチューリップを意味する。チューリップの花言葉は色によって違いますが「愛の告白」「美しい瞳」「失恋」「報われぬ恋」等があるそうです。
サイサリス=某ロボットOVAで奪われる方のロボットのコードネームで有名、和名は鬼灯で花言葉は「偽り」
ラミア=ギリシア神話に登場、ラミアーとも言われる。ゼウスと通じた結果、ヘーラー(ヘラとも呼ばれており、ゼウスの妻)に嫉妬されたことにより、自分の子供を失う(あるいは自分で子供を殺したとも)。その失意により、狂い、他人の子供を殺す存在となる。
流れよ我が涙と悪魔《ゆうしゃ》は言った。 鍛冶屋 優雨 @sasuke008
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます