第12話
今までは例え、第2王女の捜索と言えど、確証がなければ、他国に軍勢や勇者が入ることは躊躇されていた。
僕の推理ではサイサリス様を攫ったワイバーンは侍女の情報から怪我をしたラミアからの統制が外れ(これは僕達が戦ったゴブリンキングが統制が外れ弱体化したことから類推した)帰巣本能によって飛竜の巣と呼ばれるワイバーンが多く生息している山に帰ったのではないかと僕は考えた。
そのため、僕は少ない可能性にかけて飛竜の巣を目指し移動を行う。
一応、僕は勇者と言われている。
他国への移動は慎重に行わなくてはならない。
僕は当然ながら関所は越えず、誰も通らないような山の越えて他国に侵入、途中の村や町で正体を隠して、補給をし、飛竜の巣に向かった。
2ヶ月かけて飛竜の巣と冠されている山に到着、頂上付近には小さくワイバーンが飛んでいることを確認して僕は登山を開始する。
飛竜の巣と言われるほどの危険な山なので登山者は少ないと思ったが、どうやら少数ではあるが、誰かが定期的に山に出入りを行なっているらしい。
僕は人が通った後を確認したので、その後を追いながら山を登って行くと、小さな山小屋を発見した。軒先には干し肉や薬草が干されていたので、誰かの手は入っているみたいだ。
僕は気配を消して、静かに山小屋に近づく、すると後ろから殺気を感じたので咄嗟に横に飛ぶ。
僕が避けた後を見るとぼんやりとした影の魔物が僕を攻撃してきているのが確認できた。
僕はこの影が、第2王女の侍女が言っていた。
第2王女が攫われたあの日、ラミアを攻撃していた影の魔物だと悟った。
僕は侍女から影の魔物は少なくとも2体いる等の情報は得ていて、ラミアとの戦闘の様子も聞いていたので、弱点もなんとなく把握していた。
しかも、今は昼で明るく、魔物とはいえ、影の弱点である太陽の光が降り注いでいる状況で見ると、影の魔物の動きは緩慢としているみたいだ。
僕は影の魔物の動きをしっかりと観て行動し相手の攻撃を避けていた。
僕はこの4年間、伊達に幽閉されていたわけではない。
自分が得られる知識は学んでいたのだ。
すると、役職は発現しなかったが簡単な光の魔術は使えるようになったのだ。
僕は影の動きに合わせて、光の魔術を発動、相手はかなりのダメージを受けたらしく消えていった。
僕は一息つくが、かなりの動いたために山小屋の中に誰かいれば気付いているだろう。
僕は扉を確認すると、鍵は掛かっておらず、中からは微かに物音がするので、誰かいるようだ。
僕は素早く扉を開け、中に入ると、部屋には少しやつれて、簡素な服を着たクリス様が椅子に座っていた。
クリス様は僕を見ると苦笑いを浮かべて、話しかけてきた。
「やはりお前がきたか。ラーレ」
僕はやっとのことで声を出す。
「クリス様はどうして捜索状況の報告をされず、王宮に帰還もされず、この地に居られるのですか?」
僕のつまらない質問に、クリス様はフッと笑い、
「俺は疲れたんだよ。愛する人もできた。帰還をして、実際の状況を報告するとその愛する人から引き離されてしまうからな。」
僕はクリス様の言葉から、ある程度の解答を想像しているが、事実を知るのが怖くて、敢えて知らないふりをして話しかける。
「先ほどこの山小屋の入口で影の魔物に襲われました。あの影の魔物をご存知ですか?」
クリス様は僕をじっと見つめて答える。
「そりゃ、知っているさ。なんせある時、俺に発現した役職を使用することで操作できる魔物だからな。」
僕はクリス様の言葉に不審を抱いた。
「クリス様の役職は閃光の騎士でしたよね。影の魔物とは関係ないように思えますが?」
クリス様は僕の質問に答える。
「俺は、お前がサイサリスと婚約した日、別の役職が与えられた。その引き換えに『閃光の騎士』の役職は消えて無くなったよ。」
僕がクリス様の言葉に驚いていると、クリス様から外で話そうかと促されたので、僕はクリス様を警戒しながら外に出る。クリス様は腰に剣を携えてはいるが、こちらに攻撃の意志は見せていない。2人共外に出たとき、クリス様は僕をしっかりと見据えて僕に話しかけてきた。
「俺はお前が嫌いだった。」
僕が何も答えないでいると、
「最初、お前がきたときは見習い神官の面倒を見てくれと言われ、俺は嫌だったが、ラミアを付けると言われたので、俺はラミアの美しさに惹かれ仕方なくお前を引き取ることにした。」
クリス様は一息ついて言葉を続ける。
「お前は見習いと言えども、しっかり働いてその能力を遺憾なく発揮したさ。そのおかげでいつの間にかお前が勇者で俺は付き添いの騎士、どこに行っても勇者万歳、勇者万歳、ラミアに想いを告げても返ってきた応えは愛しているのはラーレ、国王陛下からの勲章授与も貴族の俺を差し置いてお前が先、サイサリスとの婚約もお前、何処に行ってもラーレ、ラーレ、ラーレだ!」
クリス様の顔が憎しみで歪む。
「何でだ!役職も発現していない出来損ないのお前が一番で俺が二番、勇者がお前で、俺は従者みたいな扱い、閃光の騎士と言われている役職だけど、まるでお前の影みたいな存在だったよ。」
クリスが腰に差している剣を抜く。
「ちょうど良い機会だ!俺はここでお前を殺し、お前を越える!」
クリスの陰から影の魔物が湧き出る。
「俺はここで、今、このとき、お前を過去の存在にしてやる!」
クリスが僕に斬り掛かってくる。
影の魔物でなくて自分で斬りつけてきたのだ。
僕はクリスの動きをしっかりと観て行動に移る。
過去のクリスよりは動きは早くない。どうやら閃光の騎士の役職が無くなったのは本当のことらしい。
僕はクリスの剣を躱し、続いて攻撃してきた影の魔物の攻撃も躱す。
そして、僕は愛用のハンマーでクリスの膝を狙う。
僕の攻撃は上手くクリスの膝に当たり、クリスは崩れ落ちる。
「クリス、貴方の弱点は影の魔物を操り攻撃する時、ある程度は意識を持っていく必要があるのではないですか?
閃光の騎士のときは自分が動くから良かったでしょう。しかし、影の魔物で攻撃するときは、本来は貴方自身は隠れているのでしょうね。だから、貴方と影の魔物が同時にでてくると、貴方自身の動きが稚拙になっていますよ。」
僕が告げるとクリスは悔しそうに地面を叩く。
「クソ!クソ!また負けた!どうしてお前は俺の邪魔ばかりするんだ!」
クリスが僕を睨みつける。
「クリス!もう止めて!」
僕が倒れたクリスを見ていると山小屋から懐かしい声が聴こえてくる。
「サイサリス様!」
僕は声の方向を向くと、サイサリス様が山小屋から出てきてこちらに向かってくる。
しかし、サイサリス様は僕の呼びかけには応えず、倒れたクリスの下に駆け寄る。
「サイサリス様、何故、クリスのところに?」
僕は震える声でサイサリス様に問いかける。
サイサリス様は僕を睨みつけ、
「私はクリスと契りを交わし、夫婦となりました。夫を気遣って何が悪いのです!」
僕はサイサリス様の応えを聞き愕然とした。
「クリスから全てを聞きました。貴方は後からきてクリスの全てを奪っていった。あの日にラミアから貴方への愛を聞き、私は、王家はなんと酷いことをしてしまったのだろうと悩みました。ラミアは私を攫った後、重傷を追いながら私の前に表れました。例え重傷を負っていても、私なんか簡単に殺せるのに、何故か殺さなかった。どうやら、影の魔物の動きを見てクリスと同じ動きだと思いつき、彼が役職の力を使い、私を守ったことに気付いたらしいのです。」
サイサリス様は黙り込む僕に向かって更に続ける。
「だから、私を殺さなかった!クリスは役職の力でラミアから私を守り、貴方より先に私の下にきて、私に愛を告げ、私を今まで守ってくれた。ラミアは私がクリスを愛することで、貴方を捨てると思って私を殺さなかったのです。貴方から私を確実に引き離すために。」
ラミアの思いどおりになったな。
彼女は敢えて僕に接触しなかった。
僕が幽閉され、クリスが先にサイサリス様を見つけ、サイサリス様がクリスを愛するように仕向けたのだ。
「サイサリス様、ラミアは貴女にクリスのことを告げた後どうしたのですか?」
サイサリス様は言いづらそうに言葉を紡ぐ。
「彼女は死んだと思います。なぜなら彼女は重傷を負いながら手当をしていませんでした。そして私にこう告げました。
【私が得た役職は多くの魔物を操り、強化し、生み出す役職で、寿命を削り、1年で大軍を作りあげて王家に単独で戦闘を挑んだ。だから、この怪我がなくても、もう死んでしまうでしょう】。そう言って彼女はワイバーンに乗って何処かに飛んで行きました。」
僕は悔しくて過去の自分を殴りたくなった。
あの時、ラミアに想いを伝えていればこんなに結果にはならなかったのかもしれない。
「だから、私は貴方の愛に応えることはできません。父が・・・、私が・・・、王家が勝手に貴方達の関係を・・・、心を壊してすみません。」
僕は空を見上げる。
いつの間にか夜になっていた。
その時、絶望していた僕の中で声が聞こえた。
僕の役職は『StarGazer 』星を見つめる者、見つめた相手の力や役職を奪うことができる能力を持つ。
仲が親密になればなるほど、より奪いやすくなる悪魔の役職、だから僕は神から役職が与えられなかった。
神よりも先に悪魔から役職が与えられていたから・・・、両親が目の前で死を迎えそうな時に両親助けるために、僕は悪魔から誘いににのって力を要求したのだ。
その代償は悪魔の役職に関する記憶・・・、なんて悪辣なんだ。役職を得たのに役職の記憶を代償にするなんて、僕は無意識に見つめる役職の力を使用して相手の力を奪っていたのだろう。
そして死にゆく両親からは役職を奪ったんだ。
だから僕は重いハンマーを振り回せるし、回復術や光の魔術を使えるんだ。
何故、今は記憶が戻ったのかはわからない。
僕はサイサリスと倒れているクリスを残して歩きだした。
僕はラミアの元に向かわなければならない。
僕は振り返り、最後の質問をサイサリスにした。
「ラミアは何処に向かいましたか?」
彼女は死んでいる可能性が高い。
さっきサイサリスがそう言ったばかりじゃないか。
だけど、僕はどこかで彼女が生きていると信じ、彼女を探そうと思う。
サイサリスは応える。
「彼女が乗ったワイバーンは南へ向かって行きました。」
「ありがとう。」
僕は南に向かって歩き出す。
流れよ我が涙と悪魔(ゆうしゃ)は言った。
完
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