第32話 捨てられ聖女は隣国の愛犬王子に前世の分まで溺愛される


「姫、ヨモギ団子の材料ですが、こちらで全てですか?」


「うーん、生地の材料は揃った感じかな? あとはヨモギを摘まなきゃだね」




本日。私はレオと2人、城下へと買い物に繰り出している。


何故かというと、1週間後に開かれるN王国の国王……もとい、祖父の誕生祭のため。

彼にバースデーケーキならぬ、ヨモギ団子タワー? 的なものをリクエストされているからだ。



「おじいちゃん、本当にヨモギ団子が好きだよね。お誕生日に何か食べたいものとかある? って聞いたら、迷わずヨモギ団子って言ったの。今でも1か月に1度は食べてるのに」



毒病の一件を解決し、このN王国に戻ってきてからすでに半年以上が経っている。



「確か姫は、前世のボスの奥様……貴女のお祖母様にその作り方を教わったと言っておられましたよね?」


「そうなの。だからきっと、おじいちゃんにとって懐かしい味なんだとは思うんだけど」



ちなみに、祖父が今世では独身の理由。

それは、祖母以上に良い女性がいないからだそう。



「奥様以外と一緒になる気はないともおっしゃっていましたね」


「……前世でも、誰もが認める愛妻家だったからね。またいつか、おばあちゃんにも会えるといいな。おじいちゃんも、私たちも」


「そうですね……」





城下で購入したヨモギ団子の材料たちは、ジュジュとリヴィが引き取りに来てくれた。



「おやおや……王太子殿下、ルカ殿。これはまた色々と大量に購入されましたね」


「あはは、違う違う! 町の人たちが持たせてくれたり、お店の店主さんがオマケしてくれたりしたの。

国王様には元気で長生きして欲しいから、お好きなものを沢山召し上がっていただいて下さいって」


「なるほど」



カゴから溢れんばかりになっている品物たちを見つめながら、ジュジュがふむふむと頷いている。



「ハルカ様がお作りになるヨモギ団子はわたくしも好きです。今世では口に出来るものが格段に増えましたし、色々と勉強になります」


「そっか。前世のリヴィたちにとっては御法度なものも多かったしね、人間の食べ物って。お餅とか甘い餡子あんこなんて特にそう」



リヴィの言葉を聞いて、今後は彼らにも日本の味をもっと知ってもらおうと思った。

和菓子の他に、お寿司とか天ぷらとか?



「殿下たちはこの後、ヨモギを摘みに森へ行かれる予定でしたね」


「……そっ、そうだっ!」



しかし。私が日本の伝統食についてのあれこれを考えているそばで、



「殿下、殿下。お声が上擦っておいでですよ。陛下も、「あやつの首尾はいかがなものか? 万一成功しなければ、自身の誕生祭どころではない」、とおっしゃっておいででした」


「ぐっ……粗相はしたくないっ」



レオとジュジュが、何やらコソコソと言い合い始めた。



「王太子殿下、わたくしの方からも1つお伝え事が。

実は昨日に "例のもの" が出来上がったようでして。今、お渡ししてもよろしいですか?」


「おっ、そうか……! ご苦労だった!」



すると、今度はリヴィまでもがソロっとレオに何かを手渡していた。



「……3人とも、どうかしたの? もしかしてまた、何か凶悪事件でも発生してるとか?」



少し心配になってしまった私は、彼らにそう問いかけた。だが。



「「「全くもってそのようなことではございません!!」」」



と、素晴らしく息の合った答えが返ってきた。



「姫、ご心配をおかけして申し訳ありません。この件は後ほど、俺の方からお伝えします。

……そんなわけで、我々はそろそろ移動しましょう!」



私の手を引き、森へと続く道をどこか緊張した様子で歩き始めたレオ。


少し怪訝に思いながらも、私はわざわざ町へと出向いてくれたジュジュとリヴィにお礼を言おうと、彼らの方を振り返った。


……だが。



「幸運を祈ります、殿下」


「どうかハルカ様に幸せを。そして、N王国のさらなる平安を……」



2人が神頼みのように手を擦り合わせている様子を見た私は、思わず言葉を飲み込んでしまった。そして、ますます眉を寄せたのだった。






「おお! この辺りにもたくさんヨモギが自生していたのですね」


「うん……というか、ここって初めてレオと会った場所だよね?」



レオに連れられた先は、私たちの今世での出会いの場。


K王国の騎士らに追われ、逃げてきた先で毒病に侵されたレオを見つけた。そして回復魔法と大回復薬を使って彼を治療したという。


そう言えば、あの時はレオのことを完全に知らない人だとばかり思っていた。

だからいきなりの姫呼びと口もとを舐められたことに、それはそれはビックリしたっけ……



「はい。今日はどうしても、この場で姫に伝えたいことがありまして。

……と、その前に。手を出していただけますか?」


「手?」



レオの言葉にきょとんとしながら、私は言われた通りに両手を差し出す。すると……



「?! これ……!」


「姫と俺を結ぶ糸は、決して切れさせません」



彼は私の手の上に、ある物を乗せてくれた。



「毒病の件が解決した後。リヴィが俺に、「K王国へと連行される際、森の中で咄嗟に2粒だけ拾い上げた」と預けてくれたのです。


それを知ったジュジュが、加工して新たな装飾品に仕上げてはどうかと提案してくれて」



それは、大小の琥珀玉を組み合わせて作られた、とても綺麗なピアス。



「俺のブレスレットもばらし、姫のものと合わせました。これを片方ずつ付けて、また2人の新たなお揃いにしませんか?」



そう言って私の手を自身のもので包み、そこにキスを落とす彼。



「姫、付けてみていただけますか?」


「……うん」



私はピアスを1つ手に取り、それを右耳に付けた。



「思った通り、とても良くお似合いです」



レオは優しく笑みながら、もう片方のピアスを自身の左耳へとかけていた。



「……ありがとう、レオ。すごく嬉しい。

王城に帰ったら、ジュジュとリヴィにもお礼を言わなきゃ」



胸がいっぱいになる。

レオにもらった大切なブレスレットが、まさかこんな形で手もとに戻って来てくれるなんて思っていなかった。



「姫、実はこれだけではないのです」



すると、レオは再び私の手を取り、この場に跪いた。



「レオ……?」


「半年前。俺は姫の父上様、母上様の御前で、生涯貴女をお守りすると約束いたしました。

ですがそれを、もう1度この場で誓わせて下さい」



そして……



「ルカ・ヒュギエイア殿、そして北原 春花殿。俺は永遠に貴女を愛し続けます。

この先、例えどれほどの困難が訪れようとも、必ず道を切り開いてみせます。


……俺は、本当に貴女が大好きなんだ。全てが愛おしいし、尊敬している。

ずっとおそばで、その光り輝く魂を守っていきたい」



私の左手薬指に、美しいダイヤモンドを備えた指輪リングを通したのだ。



「姫、俺と結婚して下さい」





祖国らに捨てられた聖女は、森の中で隣国の王太子に出会った。そしてその彼が実は、前世に硬い絆で結ばれていた彼女の愛犬だったことが分かった。


孤独だった聖女だが、愛犬王子と再び巡り会ってからは、前世に引き続き今世でもこの上なく彼に愛された。

そして、来世もそのまた次の世でも、2人は共に在ることを誓い合った。


彼らの愛の物語は、この先もずっと途切れることなどない。永遠に続いていく。



「…………もちろん。謹んでお受けいたします、レオ」




太陽のようにまばゆい笑みを浮かべた愛犬王子が聖女にキスをし、そして彼女の口もとをペロリと愛おしそうに舐めたところで、


御伽話のようなこちらのお話は、一先ひとまずお終い。


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捨てられ聖女は隣国の愛犬王子に前世の分まで溺愛される カヤベミコ @kayamiko

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