こちょうのゆめ

ねむ

こちょうのゆめ(一話完結)

 蝶々になる、夢を見た。

 あるいは、しゃぼん玉か。

 真っ暗だった視界が開け、目の前に広がる光景。何かがこちらを見ていた。伸ばされた手を避け、光の方へ向かう。ゆらゆらと揺れる真っ白なカーテンを抜け、窓の外へ。青い空の中を上へ、上へと泳いでゆく。太陽の光が強くなる。そうして身体中を陽の光が巡ったと思ったら、

 ――ぱちん。

 と音がして、視界が暗転した。なんのことはない。重たい頭を上げるとそこはいつもと変わらない教室であった。僕は自分の席で突っ伏していたのだ。頭を置いていたからか、重ねた手が少しぴりぴりする。

 がやがや、と輪郭のはっきりしない喧騒が直方体の空間を満たしていた。いつもは騒がしいはずのそれも今はどこか心地良い。

「あ、起きた?」

 もう、授業終わっちゃったよ。と君は一つ前の席でこちらを振り向き笑っている。風になびく長髪は先程の夢で見た何かとよく似ていた。

 ──なんだっけ?

 先程まで眠りこけていたからか、まだ頭がぼんやりする。騒がしいはずの教室をなにか薄いベールのようなものが優しく包み込んでいるような、不思議な感覚だった。

チャイムが鳴っても依然そうしていたからか、君は不思議そうにこちらをのぞきこんで言った。

「いつまでそうしてるの?次、移動教室だよ?」

 慌てて机の上に重ねていた手を動かす。と

 ふわり。

 何か白いものが空中へゆらゆら飛んで行った。

 あれは――

 なんだかとても大切なものだった気がして、思わず手を伸ばす。しかし蝶々は器用にその手をひらりと避けると、陽の光を受けて淡い青色に染まるカーテンを抜け、そのまま窓の外へ飛んで行ってしまった。そうしてその姿は青い空に吸い込まれ、やがて見えなくなってしまった。ああ、そうか。

 ――蝶々だったのか。

「ねー、置いてくよ?」

「ああ、ごめん。今行く。」

 そうして僕は一度、大きく伸びをしてから教科書、ノートを抱え君のもとへ向かった。

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こちょうのゆめ ねむ @nemu-san

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