酒カス令嬢、人妻になる
こうして、私はエドガーと結婚した。
結婚式は盛大に行われ、たくさんの人が来てくれた。
私の友人たちは口々に祝福してくれた。お父さまとお母さまも言わずもがな、泣きながら「おめでとう」と言ってくれた。
「……だからね、私たちって、本当に幸せ者だと思うの」
結婚式の夜の味は、格別だ。夫婦の寝室で一緒にレジェンダリーフューイヤーズを飲みながら、エドガーへ話しかける。エドガーは「そうだね」と微笑んで、ワイングラスをチェストへ置いた。
「だけど、俺がいちばんの幸せ者だと思うな」
「あら。私だって負けないわよ?」
私もくすくす笑うと、エドガーは私を抱きよせる。私は大人しくその胸におさまって、ワインで喉を潤した。
「エドガー。もう、よそで悪さをしちゃダメよ?」
「分かってるよ、ロゼ。俺は心底反省したんだ」
その声の甘いことといったら。私はぷいっとそっぽを向いて、「どうかしたらね」とグラスのワインを飲み干した。エドガーは空になったグラスを取り上げて、「ロゼ」と私を呼ぶ。
「俺がいかに反省していい子になったか、確かめてくれないか?」
「あら。本当にいい子だったら、自分のことを『いい子』だなんて言わないんじゃないの?」
本当におかしくて、笑ってしまう。エドガーは「そんなことないよ」と、捨てられた子犬のような目をして言った。
「信じて、ロゼ。このレジェンダリーフューイヤーズの、過去最高とも言われた一昨年を超えると言われたこの一本を賭けてもいい」
「そう。なら、一緒に飲みましょう」
私は手ずからボトルをとって、エドガーにグラスをとるよう促した。エドガーはグラスを持ち上げて、ボトルの口へと寄せる。
たっぷり注ぐと、エドガーが私からボトルを取り上げた。
「ロゼの分を注ぐよ」
私は大人しくグラスを差し出して、ワインを注いでもらった。七分目を越えて、八分目まで注がれる。
「ありがとう」
文句はない。手首でグラスを回すと、やっぱりあの芳醇な香りがした。
エドガーとグラスを合わせて、乾杯をする。口をつけて、ゆっくりと飲み干した。エドガーは唇を湿らせて、すぐにグラスを置いてしまう。
「あら。飲まないの?」
「うん。俺は、ロゼが美味しそうに飲んでいるのを見るのが好きだ」
「あらあら。本当にかわいいことを言ってくれるわね」
私の唇に、自然と笑みが浮かぶ。
そして、どんどん飲んだ。ボトルを一本開けて、くてんくてんに酔っ払った私の身体を、エドガーが引き寄せる。
「かわいい、ロゼ。真っ赤だ」
「んふふ……」
今日は疲れているせいか、やたらとお酒が回ってしまう。エドガーの胸にしなだれかかると、しっかりとした力で抱きしめられた。
「もう寝ようか。ロゼ」
「あら。もう、いいの?」
私の問いかけに、エドガーは「うん」と笑う。その顔は、真っ赤だった。
「これから先は、ずっとこうしていられるからね」
なるほど、そういうことか。私はすっかり納得して、エドガーの胸の中で目を瞑る。
こうして、私はエドガーの妻になった。これまでエドガーが尽くしてきたのだという邪知暴虐の限りを許し、首輪をつけてやるのは、私の義務だと思う。
それに、本人には、絶対に言わないのだけど。
私のお酒が大好きなところも、じっとしていられないところも、エドガーは好きになってくれたと思うの。
これだけ私のことを大事に思ってくれて――私も大事に思える人なんて、きっといないわ。
だから、これがいちばんの、幸せな顛末だと思うの。
「あいしてるわ、エドガー……」
エドガーの首元に顔をうずめると、彼はくすぐったそうに笑った。
「知ってるよ、ロゼ」
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた 鳥羽ミワ @attackTOBA
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