第4話私だけの主人公

 けいくんは頭のいいおバカさん。

 私がどれだけ恵くんを好きなのか、恵くんはまるで分かっていない。

 私は昔から感情が顔に表れにくい。

 だから、よく気味悪がられていた。

 感情がないわけじゃないから、酷く傷ついていたことを覚えている。


 小学3年になるとクラス替えが行われた。

 その時に隣の席になったのが恵くんだ。

 この人も他の男の子と一緒で、私の顔を揶揄うのだろう。

 そう思っていたけど、恵くんは違った。

 揶揄うどころか、人懐っこい笑顔でしかもいきなりあだ名で――。


「ひーちゃんは笑うともっと可愛いね!」


 と言って、私の心の中に踏み込んできた。

 私は笑ってなどいない。つもりもなかった。

 給食でプリンが出たから、ちょっと嬉しくなっただけ。


「えー、でも? ひーちゃんの目が凄く柔らかくなったよ?」


 と、プリンを頬張りながら言った。

 私はその時から、その瞬間から、恵くんが好きになった。

 恵くんは目を合わせて話してくれる。

 私の感情を察してくれる。

 恵くんの近くに居たくて、お母さんに無理を言って引っ越しまでした。

 それから、一緒に夕飯を取ることで過ごせる時間を増やした。

 賢いところも好き。優しく頭を撫でてくれるのも好き。ギュッとしてと言えば、仕方ないなぁと笑いながらギュッとしてくれるのも好き。

 恵くんはとても素直。そんな恵くんが好き。


 どんどんと日を追う毎に気持ちは強くなる。

 私が恵くんの好きなところは、数えきれないほどある。

 そんな行き過ぎている私は私のことをバカきしょいと思っている。

 ちょっと(?)ヤンデレ気質なことも承知している。


 でも、好きの気持ちが抑えられないからしょうがない。

 中学の卒業式で告白してくれたことも、本当に嬉しかった。

 一瞬、ほんの一瞬だけ気を失う程に嬉しかった。

 感涙にむせびてしまいたかった。


 でも――。


『私の愛は重い』


 付き合えば、歯止めが掛からなくなってしまう。

 間違いなく恵くんを潰してしまう。

 付き合うならば、恵くんが私と同じくらい重くならないとすぐに駄目になる。

 そんなの耐えられない。

 瞬きのように短い幸せを選んでしまえば、私は破滅する。

 そう自覚していたから、恵くんとの愛を育むために振った。


 それなのに――。恵くんはとても残酷な事を告げてきた。


「俺、高校ではラブコメの主人公になりたい」


 と。

 正直言えば「バカきしょい!!」と叫びたかった。

 私とは違うベクトルで恵くんの発想がおかしい。

 何? ラブコメの主人公って。

 ハーレムでも目指すの?

 幼馴染であり妹であり自他ともに認める美少女わたしがいるのに?

 私の気持ちにまるで気付かない恵くんは鈍感系主人公で間違いない。

 望まなくても主人公だ。


 少年漫画、少女漫画、ライトノベル。

 小説やドラマに映画。

 さまざまな媒体で、恵くん好きそうなヒロインの知識を吸収した。


 そして、私をとことん好きになってもらうって決めたから。

 どんなに苦手でも表情を作り、王道の正ヒロインを演じている。

 化粧なんて何も分からなかったけど、ギャル要素のあるツンデレ風ヒロインを造りきった。

 甘やかし系妹キャラは、私に合っているのか一番楽しいかもしれない。

 私は多分、根っこから甘やかされたいし甘やかしたい性格なんだ。


 演じていると言っても、

 恵くんとの触れ合いで感じる嬉しさや恥ずかしさ、嫉妬心は全て本物だ。

 表情を作るようになった副次的効果で、恵くんの前では素直にさまざまな表情を出せるようになれた。


 だからもしも、恵くんが望めばどんなキャラにだって成ってみせる。

 そして――。


 高校卒業までに必ず、私と同じだけ恵くんを惚れさせてみせる。

 私と同じくらい重くなったら、その時は――。


 卒業式に私から恵くんにプロポーズする。そして一生逃がしてあげない。


 だから私はあの時に宣言したのだ。


「ひーが恵くんをラブコメ主人公にする――」って。


 誰にも渡さない。私以外のヒロインなんて不要。

 勝ちヒロインも負けヒロインも私だけで十分。誰にも渡さない。


 私が恵くんの全てを独り占めする。

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~ラブコメ共通点(異論は認めます)~ラブコメ主人公に俺はなる!? 山吹祥 @8ma2ki

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