無邪気は時に

幸まる

集団は怖い

私には二人の娘がいますが、二人共あまり虫を怖がりません。



怖がらないというよりも、むしろ好き。



もちろん害虫は嫌いますし退治しますが、いわゆる虫捕りとして楽しむ種類の昆虫は大好きです。

セミやバッタ、てんとう虫、コオロギ、トンボに蝶々。

カマキリも素手で持って、鎌を振り上げる様を観察します。


娘が小学生の頃は、冬を除いて、大体の季節には虫取り網を持って外へ行き、虫を捕まえて回ったものです。

次女はまだ小学生なので、現在進行系ですが。


親が怖がらないと、子も怖がらないと聞きます。

確かに、私は黒光りする虫以外は平気なので、散歩中に虫を見つければ一緒に観察していましたし、虫捕りしたいと言われれば一緒に網を持って振り回していました。




そんな風に育った娘たちですが、特に長女は幼い頃、虫を観察、採集するのが好きした。

そして、子供とは、なぜか何かしらの自己目標を立てたがります(違います?)。


長女は虫を見つけると、同じ虫を集めたがりました。

そして、なぜか自分の中に目標数を設定し、クリアするまで帰らないと主張するのです。


蝶を見つけると、三匹見つけたい。

トンボを捕まえると、五匹捕まえたい。

セミを捕まえると、十匹虫かごに入れたい……。


クマゼミ十匹、虫かごに入れると防犯笛も真っ青の大音声。

はよ逃がしてやれ、娘。


あ、もちろんちゃんと逃がしましたよ、全部。



この“目標を立ててクリアする”ことを楽しみ始めると、その目標数は徐々に上がっていくもの。

三匹はクリアしたから、次は五匹。

五匹をクリアしたから、次は八匹、という具合です。


そうして増えていく採集数。


ある時は飼育ケースに二十匹の蝶の幼虫。

ある時は三十匹のカエル。

ある時は、五十匹のバッタ。

またある時は、ケースに満タンのセミの抜け殻。


殻で良かったヨ……。



生き物だと分かっているので(抜け殻は違うけれども)、集めて満足すればすぐに逃がします。

なので、私は特にやめなさいと言ったことはありませんでした。

成長すれば、いつか飽きるだろうと思っていたのです。



そんな初夏のある日のこと。



川沿いの公園で遊んでいた娘。

大きな木が並んでいる日陰で座り込み、落ち葉ぎっしりのところを触って何かを始めました。


ああ、また何か集めているのかな。

場所的にダンゴムシかしら……。


そんな風に考えてベンチに座り、背中を見守ること十数分。


「お母さん、見て見て!」


嬉しそうにソロソロと寄ってきた娘。


おや?

今日の娘は、確かノースリーブの服を着てませんでしたっけ?

どうして黒い袖が……??



そう、娘は予想通りダンゴムシを採集していました。

両腕に黒いアームカバーを着けているように見えるほど、たくさんのダンゴムシをくっつけて。



「ぎゃぁ~っ! 近寄らないでぇ〜っ!」



全身鳥肌で娘を拒絶したのはあの時だけでしょう。

今思い出してもホラーですぅ……。



《 おしまい 》

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無邪気は時に 幸まる @karamitu

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