エピローグ

第16話

 そして今、僕はもともと久雄さんのものだった博物館を買い取り、新しくリニューアルをして開館した。

 元々館長だった久雄さんに変わり、僕が館長を務め、復活させたのだった。


 久雄さんはというと、今でも山で暮らしているそうだ。

 そうだ、というのは、最近は忙しくて、全く久雄さんにあっていないからだ。


 最近では、妻ができて、娘もできた。

 家族運にも恵まれ、僕は、幸せな生活を送っている。


 久しぶりに久雄さんに会いたくなった。

 なので僕は簡単な手土産を持って久雄のところへ向かうことにした。


 山に行くのは、久雄さんと開館したいという話をしたとき以来だった。

 その時は久雄さんは、


「またあの博物館が復活するのかい?

 それは嬉しい限りだね。

 そうだ、だったらここら辺にある石たちも連れていってあげなさい」


 そう言って、前まで展示してあった石を僕に預けてきた。

 他の博物館に移動されず、残された久雄さんの個人コレクションだ。


 山に入って、十分ほどで、久雄さんのに着いた。

 その家は、僕が前に来た時と同じように、また、家出をした時と同じように、そこに立っていた。


 僕は、とても懐かしい気持ちになり、しばらくそこに立っていた。


「久雄さん、いらっしゃいますか?」


 しばらくしてから、遠慮がちに声をかけた。

 すぐさま


「誰ですか、そこにいるのは」


 という声と共に、久雄さんが顔を出した。


「あぁ楓珠くんでしたか。

 どうしました?何か行き詰まったことがあったのですか?」


 久雄さんは、前に来たよりもずっと歳をとっているように見えた。


「いえ、行き詰まったわけではなくて、ただ顔を見に来ただけですよ。

 最近は何かと忙しい日々が続いていて、なかなか訪れる時間がありませんでしたから」


 そういうと、久雄さんは笑って、


「あぁそうでしたか。ご苦労様です。

 その『何かと』という部分には、博物館のことも入っていると見ていいんですよね」


 久雄さんが少し心配そうな目で僕を見つめたので、


「はい、博物館は繁盛してますよ。

 この時期だとお盆が近づいているので、家族が戻ってくることも多く、せっかく来たんだからと言って、思い出を作ろうとした家族連れが多く博物館に訪れます。

 昨年もそうだったのですが、お盆を明けてからも、お盆の時期に来てくださった方々が、自分の家に帰って、その場所で、博物館について話をしてくださるみたいで、人も増えて、大繁盛しています」


 そういうと、久雄さんは安心したらしい。僕はひと段落したところで、渡そうと思っていた石をポケットから取り出した。


「これは僕からの気持ちです。

 受け取ってください。

 今度は前回と違い、直接意味が伝わると思うので、何も聞かないでくださいね」


 そう言ってコーラルを渡した。

 久雄さんは、どこか遠くの空を見上げるように遠くを見てから、泣いているのか、上を向いて、手を顔にかぶせた。


「私に長寿を願ってくれるのかね」


 そう言って僕に問いかけてきた。


「いえ、それだけではありません。

 コーラルには、聡明や幸福を祈願するという意味もあり、それらの石言葉の組み合わせが一番合致したのが、このコーラルだったんです」


「そんな意味もあったんだね。

 いつの間にか私よりも詳しくなったんだね。

 なんか安心するけど、少し悔しい気もするね」


 そういうと、久雄さんは笑いながら、ふざけた様子で、悔しそうに口元を歪めた。

 その表情で僕は笑ってしまった。


 久雄さんとの話が一通り終わると、僕は、


「そろそろ帰らせてもらいます」


 そう言って、僕は久雄さんの家を出た。

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宝石図鑑 EVI @hi7yo8ri

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