1の23 ヨウイチ
【ミッドベル村広場】
キャンプファイヤ―の隣に小さな机が準備されていた。ゲンユウが立っていて、机の上には
シュウジは歩いて近づいていく。ひどく警戒していた。机の前で立ち止まる。
ゲンユウが言った。
「誇り高き勇者、シュウジよ。この度はよくぞ山の人食い大蛇を討伐した。報償として、ミッドベル村からエルスの剣を進呈する! 受け取るが良い!」
「じいさん、その剣もどうせ罠なんだろ?」
「罠!? そんなはずあるか! ミッドベル村のささやかな謝礼じゃ。さあシュウジ、剣を握るのじゃ」
「握ったらどうなるんだ? もう手から離れなくなったりしてな」シュウジはせせら笑った。
「そ、そそそそそ、そんなことは無い! は、早く受け取れ!」ゲンユウは焦ったように言って、広いオデコに玉のような汗を浮かべる。図星だったのだろうか?
「いいだろう。もらってやる。だけどその前にじいさん、一度その剣を握ってみろ」
「な、なななな、何を言っている! この剣はもうお主の物じゃ!」
「握ってみろ!」シュウジは語気を強くした。
ゲンユウがおそるおそる剣の柄に手を伸ばす。左手で握って持った。しかし再び剣を置く様子はない。
「そこまでいうのならば! 剣はお主にくれないことにする。残念じゃが、エルスの剣はあきらめるじゃなあ!」
「別にあきらめるのはかまわない。だけどじいさん、その剣をもう一度、机に置いてみてくれ」
「な、なんじゃと!?」
「何を怒っているんだ? 早く剣を置け」シュウジは笑ってしまった。
「ふ、ふふふふふ、ふざけるでない!」ゲンユウが剣の柄を両手で握る。これから戦闘でもするかのように構えた。
「俺は何もふざけてない。剣を置け」
「きやああああい!」
ゲンユウが机を蹴っ飛ばして突進してきた。シュウジは慌てずにロングソードを抜く。迫り来るゲンユウの右腕を斬り飛ばした。
「あがああぁぁぁぁあああああ!」ゲンユウが悲鳴を上げてその場に崩れる。『勇者』とは違い痛みがあるようだ。血もこぼれている。
そんな状態だと言うのに左手の剣を手放す様子はない。手放せないのだろう。そういう効果を持った呪いの剣のようだ。
……女将さんの助言で助かったな。
……ゲンユウが俺を狙って何かしようとしていると言っていたが、まさか殺しにくるとは。
広場に流れているメロディーが止まった。シュウジのそばにミリアが駆け寄ってくる。彼は地面に這いつくばっているゲンユウを見下ろしていた。
ふと広場に面した通りから、黒いローブを着た巨躯の男が歩いてくる。近くにいた『勇者』たちが
「おいゲンユウ! なんだその無様な失態は!」ヨウイチである。
「兄さん、まだこの村にいたのか」
「ようブラザー。今夜は祭りだ。喧嘩が起こり、死人が出てもおかしくねえ夜だってことさ」両手にダガーを握っている。
「おいおい、冗談もやめてくれよ。こっちは二人いるぞ? 兄さん、勝てるつもりか?」
「そうです!」勇気を振り絞ったようなミリアの声。
「俺は31レベルだ。よくよく考えれば、レベル12のお前なんて、ワンパンで殺せるんだよ」ヨウイチは笑った。
「攻撃が当たればの話だろ?」
「ハローシュウジ、俺は武器強化のユニークスキルを持っている。本当にワンパンだぞ? だがお前が今『闇落ちフェス』に入るって言うんなら許してやる」
「許される必要は無いな」
「そうか、じゃあ、さようならだ。シャープウェポン!」ヨウイチのダガーが鋭く光り輝いた。
「来い!」
二人が武器を構えて対峙する。シュウジは『シールドエンチャント』を唱えた。体の周囲に四つの盾が回る。
「ヨウイチ、お前を殺すです!」とミリア。
ヨウイチの頭上にドクロマークが浮かんだ。彼女のユニークスキル『死の宣告』である。移動速度や攻撃速度、ステータスをガタ落ちさせるブッコワレスキルだった。
「何だと!?」ヨウイチが焦っている。
「兄さん、さようなら」シュウジが走り出した。
二人の武器がぶつかり合い、火花を散らした。シュウジの知る限り、ヨウイチはクズで卑怯だが勇敢な男である。少なくとも劣勢の場面で命乞いをしたりしない。
武器がぶつかり合う三度目だった。
ズバーン。
爽快な効果音と共にヨウイチのダガーが砕け散った。シュウジの攻撃に会心の一撃が出ていた。彼は勝ち気の笑みを頬にたたえる。
「はあ!?」びっくりしたように言ってヨウイチが壊れたダガーを捨てた。ダガーはもう一本残っている。
「兄さん、ジエンドだ」
「この野郎! シャドウミスト!」ヨウイチがスキルを使う。
「変身、メリーグーテル」白い光に包まれて、シュウジが変身した。
ヨウイチがシュウジの胸に飛びかかり、ダガーで四回切り裂く。シュウジはHPがゴリッと削れて、一瞬で半分以下になった。
「リカバー! サンダーショックサイン! ブラッドペインマーク!」ミリアが援護をしてくれる。三つの魔法のグラフィックが起こった。
シュウジは無我夢中で木の杖を振った。『ダークネスブロー』を多用するのだが、ヨウイチの防御力は硬く、HPが少ししか削れない。レベルが違いすぎるせいだった。
「へへへ、シュウジ。殺して殺して殺してやるぜ!」
「くっ!」
やがてHPを無くしたことにより変身が解けた。シュウジは剣を構え、防御に集中する。
「お仕置きの時間だ。死ね! シュウジ!」
「兄さん! 死ぬのはお前だ!」
「おっとここで、俺の登場だーい! 豪炎よ燃え盛れ!」ヨウイチの後ろに出現するアゲハチョウウイング。
豪炎がヨウイチを襲った。彼のHPが一気に半分以下になる。
「誰だあぁぁぁぁああああああ!」ヨウイチが後ろを振り返った。
「ハルオナイスだ!」
シュウジは炎に巻き込まれないように後ろに飛び退いた。ミリアもマジックブックを掲げて唱える。
「ユッコの敵討ちです! 豪炎よ燃え盛れ!」
ヨウイチは正面からも激しい炎を浴びて、HPバーを無くした。炎の中に倒れる。
「ふざけんじゃねえぇぇええええええ! 俺が! 死ぬかあぁぁぁぁあああああああああ!」
無念の声を上げて、やがて赤い光になって消えた。その場に一枚のカードを落とす。炎がやみ、シュウジは近づいてそれを拾った。
『闇落ちフェスの制服』のスキンカードだった。おそらくあの黒いローブの格好だろう。ギルドを設立すると、制服スキンを制作できるようだ。
シュウジのそばにハルオとミリアが近づいてくる。シュウジは二人の背中に手を置いて笑顔を浮かべた。
「二人とも、俺たちの勝ちだ!」
「愛の大勝利ですよ!」
「へへーん、やったぜー」
広場に拍手が起こった。見ると、『住人』のみんなが両手を叩いている。ちらほらといる『勇者』たちもが拍手を送っていた。
広場の中心に食堂の女将が出てきて声を張った。
「『住人』のみんな! 闇落ちと結託していた村長のゲンユウを、村から追放しようじゃないか!」
「そうだそうだ、その方が良い!」
「村長は消えろー!」
「な、なんじゃと?」
地面に膝をついているゲンユウが苦々しい声を上げた。未だにエルスの剣を左手に握っている。やはり放せないようだ。
防具屋の体格の良い夫婦が歩いてきて、ゲンユウの首根っこを掴んだ。問答無用でどこかに連れて行く。
「痛っ、痛たたた! やめい! わしは村長じゃぞ!」
「早く歩きな!」防具屋の奥さんがゲンユウの尻を蹴っ飛ばした。
「痛っ!」
そしてそれから、女将さんの主導で新しい村長決めが始まった。『住人』のみんなが女将さんを推薦した。どうやら彼女が、新しい村の村長になるようだ。
夜空には月が出ている。キャンプファイヤーが豪快に燃えている。再び広場に流れ出す軽やかなメロディー。
お祭りは朝まで続いた。シュウジたちハメをはずし、今夜は心ゆくまで騒ぎ通したのだった。こんなに楽しい夜は久しぶりだった。
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恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。
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ヤッヴァ俺TUEEEE!!人嫌いの異世界ゲーム攻略譚~ハズレスキル『思考力』で着実に強くなる~ 空澄叶人 @kakeru-jimochi
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