1の22 お祭り



 【ミッドベル村広場】



 広場の中心にはキャンプファイヤーが焚かれていた。夜中だというのに村の『住人』が集まってきている。道具屋と武器屋の主人が楽器を演奏していた。


 アコーディオンとギターである。宿屋の女主人がその間に立って歌を歌っていた。他の『住人』たちは男女でペアになり、くるくるとダンスを踊っている。


 広場の手前のたき火では食堂の亭主が料理をしており、ビーフシチューのような肉とルウの香りが運ばれてくる。女将もいて、亭主の作った料理の皿を木製のテーブルに並べていた。


 パンもあるようだ。勝手に取って食べて良いらしい。『住人』だけでなくお祭りに気づいた『勇者』たちも集まってきていた。


 シュウジたちが大蛇を倒したことによるお祭りイベントだった。三人は広場の噴水の縁に座っていて、カードを使用しようとしている。大蛇を倒した時に手に入れた、高級スキンカード選択券だった。


 シュウジはステータスからカードの説明を読んだ。選べる服装は、白銀の王子様、浴衣、暗黒騎士の衣装、の三つのうちのどれかである。服以外には帽子、ウイング、武器スキン、アクセサリーセット、香水がある。


 どれか一つしか選べないようだ。シュウジはそろそろ平民服セットを卒業したかった。ここは服を選ぶしかない。


 悩んだ末、白銀の王子様を選択する。スキン項目から衣装をチェンジした。


 白銀の王子様は、服の裾が背中の部分だけ長く尻の後ろで左右に分かれている。服全体が白を基調としており、高級感があった。ところどころに銀の刺繍が入っていて、靴も銀色だ。


 隣に座っているミリアが頬を赤くしていた。テンションが高くウキウキとした声でシュウジを褒める。



「シュウジさん、その服格好良いです!」


「そうか?」シュウジは襟元を直すように手で掴んだ。


「俺も選んだぜー!」ハルオの背中にはアゲハチョウのようなウイングが出現している。色は黄色と黒のツートンカラーだ。


「あほですか?」ミリアが一人で爆笑を始めた。


「おい、ハルオ。お前、服を選ばなくて良かったのか?」


「服? そんなの平民服で充分っすよー。そんなことより見てくださいこのウイング。イカスイカス! 俺、イカース!」


「ま、まあ、満足しているのなら良いが」


「貴方とは、もうっ、歩かないっ、です!」ミリアはツボに入ったようだ。


「そーれ! 折れない翼でどこまでも飛ぶぜー!」



 ハルオが走ってどこかへ行ってしまう。やがてミリアは笑いがおさまったのか、自分も選び始めた。決まったようで、スキン項目から衣装をチェンジする。


 ゴスロリのワンピースだった。オフショルダーになっており、鎖骨から肩口が露出している。金髪のロングということも相まって、とてもよく似合っていた。



「シュウジさん、私ゴスロリを選んでみました」


「ああ、良いんじゃないか?」


「反応薄っ! もっと何か言うこと無いんですか?」


「特にないな」


「もーう、シュウジさんのためにおめかししたんだぞっ」ミリアが甘ったるい声を出す。


「魔女みたいな外見になったな」


「魔女っ子ミリアなのです」


「その服装なら小学校高学年でも通るかもな」


「ロリっ子ミリアなのです」


「黒いから葬式があっても困らなそうだな」


「もう~~~~~~!」


「似合ってるよ」小さな声。


「えっ!?」



 シュウジはベンチから立ち上がった。料理を食べようと思い、木製のテーブルの方へと歩いて行く。後ろからミリアの足音がコツコツと着いてきていた。


 テーブルのところにいた女将が挨拶をくれる。



「こんばんは、シュウジくん。ありがとうねえ、大蛇を討伐してくれて」


「そうは言ってもゲーム世界だからな、どうせまた大蛇は復活するんだろ?」


「はは、まあそうだね」


「こちらこそ礼を言いたい。こんな夜中に祭りを開いてくれたこと、感謝する」


「たまにはハメを外すのも良いさ。『住人』にとっては良いガス抜きになるよ。それよりあんた、ちょっと耳貸しな」


「どうしました?」


「いいからいいから」



 女将さんがシュウジにそっと耳打ちをした。彼の顔がだんだんと険しくなる。伝え終えると、女将は離れた。



「気をつけるんだよ」


「情報ありがとうございます」


「金貨一枚さ」


「銅貨一枚にしてくれ」


「嘘嘘。今日はあんたたちのお祭りだ。無料だよ」


「そうですか」



 ふとミリアが料理の皿とスプーンを持って、シュウジに渡した。



「はい、シュウジさん。愛情スープですよ」


「おう、気が利くな」


「それで、何が似合ってるって?」


「ん? 何の話だ?」シュウジはビーフシチューのようなスープを食べ始める。


「似合ってるって言った! これはもう結婚です!」


「チンパンジーに似てると言ったんだ。それと結婚はする可能性は永遠にゼロだ」


「ガーン。いまひどく心が傷つきました。ちなみに結婚をすればカップルだけの強化要素があるみたいですよ?」


「傷つくなんてチンパンジーに失礼だろ。チンパンジーは可愛いからな。ちなみにどれほどの強化要素があっても結婚はしないぞ」


「ガーン。私の心に雨が降ってきました」


「止まない雨は無いからな」


「格好良いこと言いますね」


「格好良い男、シュウジです」


「今日のシュウジさんの姿はとても素敵なのです」ミリアの瞳がキラキラ。


「ミリア、もう少しツッコミを鍛えてくれ」


「素直な方が可愛いですよ?」


「俺は性格が曲がっているんだ」


「トンカチで叩いて直して差し上げます」


「痛いそうだからトンカチはやめてくれ」


「私がシュウジさんの心の傷を癒やして差し上げます」


「まるで告白みたいなセリフだな?」


「私がシュウジさんをずっと守ります」


「それはもう告白だな」


「告白しても良いですか?」


「魔王を討伐した翌日なら許可する」


「魔王を討伐した翌日に告白するです」


「まあ振るけどな」


「振るんかい!」


「今のツッコミは80点だ」


「100点が出ないですぅ」


「俺が鍛えてやる」


「じゃあ今夜私の部屋に来てくださいね」


「身の危険を感じるんで断る」


「何もしねーわ!」


「今のは85点ぐらいかなあ」


「中々100点が出ないですぅ」


「と言うかさ、そろそろ喋ってないで食べよう」


「あ、それじゃあ、いただきます」皿とスプーンをミリアも持った。



 二人で食事を楽しんだ。華やかな音楽の中で、やがてシュウジの名前が呼ばれる。広場の真ん中では村長のゲンユウが手招きしていた。


 シュウジは表情を歪めて、呼ばれた方向へと歩いて行く。







 ◆◆◆


 恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。


 ◆◆◆

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