1の21 ドットダメージ
【ミモネ山の山頂】
夜は月が大きく出ていた。シュウジたち三人はミモネ山の山頂に登り、今たき火を焚いている。カサドの木から折ってきた枝がパチパチと音を立ててよく燃えていた。
木のある場所は食堂の女将さんに聞いた。その際、やはりというかなんというか、大銅貨一枚を支払うことになった。カサドの木は村の南出口付近に立っており、皮がゴツゴツとしていた。
たき火を中心に三角形になり、シュウジとミリアとハルオが地面に腰を下ろしている。燃えているカサドの木の枝の煙が臭い。ミリアが手で鼻をつまんで咳をしていた。
あの後、ハルオは『闇落ちフェス』のギルドをすぐに脱退し、また『あるりなみーみ』に加入した。もちろん文句を言う人間はいなかった。いま三人はパーティを組み、人食い大蛇の出現を待っている。
「こんな臭い匂いで、本当に蛇神様ってのが来るんすか」とハルオ。
「それは分からんな」シュウジは首を振った。
「そんなことよりも、私早く、ミッドベルから離れたいです」
「そうっすよねー。次の村か町に行った方が、安全ですよねー。闇落ちのアジトから離れられるし」
「名前も聞きたくないですよ」ミリアが顔をしかめる。
「まあ、ミッドベル村はこれで最後のクエストっぽいから、明日には離れて、次の町へ行くとするか」とシュウジ。
病院のおばあさんに薬を届けるクエストはシュウジ以外の二人もクリア済みである。シュウジが取った特効薬の余りを使って、先ほど完了したのだった。おかげで今、全員が豪炎の指輪を装備していた。
「今夜にでも立つに一票ですよ」
「蛇神様を倒したら行くってことっすか?」
「その方が良いです」
「まあ、それでも良いか」シュウジはカサドの木の枝をたき火に追加でくべる。
「シュウジさん、もう枝を入れないでください。煙が、ごほっごほっ」
「なんかでも、こういうのって良いよなあ。夜に男女でたき火を囲んで楽しく会話ができるなんて、前世では無かったっすよ」
「そんなに楽しいか?」
「女の私がいるから男臭さが浄化されているです。感謝して欲しいですよ」
「いやあー、ミリアさん最高っす。何て言ったって美人だし、強いし」
「おいハルオ。こいつを褒めるな。調子に乗るぞ」
「セクシーでキュートでプリチーなミリア様を崇めたてるが良いです」
「ほら来たぞ」
「ミリアさんなら、ゲーム内結婚もありだなー、俺」
「ハルオ、ごめんね、その可能性は永遠にゼロです」
「えっ!? なんで!?」
「ハルオ、ごめんね、その可能性は永遠にゼロです」
「大事なことだから二回言ったの!?」
「お前らなあ」シュウジは夜空の月を見上げる。
「シュウジさんなら、可能性は無くもないですよ?」
「ごめんな、その可能性は永遠にゼロだ」
「私の言葉をパクったですか!?」
「やーい、ミリアさん振られてやんのー」
「ハルオにはギルド所属税を課します」
「そんなのあんの!?」
「おいお前ら、何か聞こえないか?」
「「え!?」」
山の下の方から地面を這うような音が聞こえてきた。その巨大で不気味な音に、恐怖に顔を歪めて三人が立ち上がる。シュウジはロングソードを鞘から抜いた。
やがて山頂の地面に紫色の大蛇が顔を見せる。細い長い舌を素早く出し入れし「キシャー!」と鳴いた。また地面を這ってこちらに近づいてくる。
――ボス、ベルデルアーク
「来たな、やるぞ!」タンク職のシュウジが立ち向かっていく。
「お、大きいわ!」ミリアの声が震えている。
「やばいやばいやばい! 大蛇退散大蛇退散!」ハルオは意味もなく横に走った。
「シールドエンチャント!」
シュウジの体の周囲に四つの盾マークが出現して回る。彼は大蛇の顔面に斬りかかった。大蛇が体をしなやかに動かして彼の体に巻き付く。
「キシャーッ!」大蛇が大きく口を開き、頭上からシュウジに噛みつこうとした。
「くそっ、ウインドアサルト!」
シュウジはスキルで直線上に5メートル突進する。ゲームなので敵の体をすり抜けることができた。しかしすぐに大蛇が追いかけてくる。
「シュウジさん! どうすれば!?」
「シュウジくん!?」
他の二人は攻撃をせずに、シュウジと大蛇から距離を取るように動いている。自分にターゲットが来ないように注意しているようだ。シュウジは走りながら倒す方法を考える。
巻き付かれれば彼は攻撃できない。そうなるとターゲットを固定できない。ミリアかハルオが攻撃すれば、敵はターゲットをすぐに変えるだろう。
『ウインドアサルト』は使用後8秒のクールタイムがあった。連続で何度も脱出するには時間がかかる。
……どうする?
……考えろ!
シュウジは頂上の地面の外周を回るように走っていた。後ろから大蛇が追いついてくる。追いつかれ、彼の頭を狙って蛇が大口を開いた。
「クシャーッ!」
「このっ!」
シュウジは体の向きを反転させ、『ウインドアサルト』をまた使った。敵の体をすり抜けて、今度は逆側に走る。大蛇も体の向きを変えて追いかけてくる。
「サンダーショックサイン!」とミリア。蛇に雷が振った。
「馬鹿やめろ!」シュウジが叫ぶ。
「あ、ごめんなさいです!」
ベルデルアークはターゲットを変えずにシュウジを追いかけ続けている。標的が変わらなかったことに、彼は心の中でほっとため息をついた。『サンダーショックサイン』の
ユニークスキルの『思考力』が音を上げて回転した。シュウジは思いついた。二人に向かって叫ぶ。
「ハルオ! お前は攻撃するな!」
「あ、はいはいはい!」
「ミリア! サンダーショックサインを敵にゆっくり入れてくれ」
「ゆっくりって!? どういうことですか!?」
「効果が切れたらもう一度入れてくれ! それを繰り返せ!」
「分かったです!」
シュウジは走り続ける。追いつかれたら反転して『ウインドアサルト』を使い、また逆方向に逃げる。それを繰り返していた。
彼はまだ、このゲームのダメージ計算式を攻略していなかった。世界に来たばかりなので当然だ。しかしいま、一つ分かることがあった。
サンダーショックサインは
シュウジが定期的に大ダメージを敵に与えている時、それを下回るダメージを一度に仲間が与えてもターゲットは変わらない。その事実が判明していた。
シュウジはまた叫んだ。
「ミリア! 三回重ねがけして大丈夫だ」
「本当ですか!?」
「ああ! だけどブラッドペインマークは使うな!」
「分かりましたです。サンダーショックサイン!」
敵に何度もびりびりと雷が起こる。『サンダーショックサイン』のクールタイムは3秒である。敵の移動力減少効果もあった。シュウジは余裕で逃げ回ることができるようになった。
三回の重ねがけにより、敵のHPがスムーズに減っていく。
……何だ。
……この蛇、雑魚じゃないか。
完全にこちらの作戦勝ちだった。やがてベルデルアークはHPを無くし、「キシュウゥゥウウウ」と断末魔を上げてその場に倒れる。赤い光となって消えた。数枚の金貨を落とす。
ドンッ、と音がして目の前に文字が現れた。
――クエストクリア――
――帰還してミッドベル村の祭りを楽しもう――
――ミッドベル村の全クエストクリア――
シュウジたちは再びたき火の周りに集まった。彼はほっとため息をつく。ミリアとハルオは笑顔だった。
「シュウジさん天才です!」
「シュウジくーん、すごいすごいすごいぜー、俺、男として惚れた!」
「野郎に惚れられても嬉しくないけどな」顎を振るシュウジ。
そして、三人の手元に一枚ずつカードが振ってきた。クエストクリアの褒美である。
****この時、シュウジたちが油断しているのも当然だった。ミッドベル村にはまだあの男がいて、
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恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。
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