1の20 嘘の見せ方



 【『闇落ちフェス』のアジト】



 雨は未だに降りしきっている。その勢いを増しており豪雨になっていた。冷たい大粒がシュウジの体を叩いている。


 彼は敵のアジトに単身で乗り込んでいた。勝算はあった。これ以上は無いだろうという作戦を考えてきている。


 いま黒いローブたちに取り囲まれていた。シュウジは剣を抜いており、戦闘態勢だ。敵たちが彼を見下すようにニヤニヤと笑っていた。


 ヨウイチが建物の玄関から出てきた。その後ろには黒いローブを着たハルオがいた。それを見たシュウジは顔に出さないが精神的にキツいものを感じる。



 ……ハルオは『闇落ちフェス』に加入したのか?

 ……それで良い。

 ……拷問を受けるよりましな選択だ。



 ヨウイチが両手にダガーを抜いている。この状況がおかしくて仕方が無いというふうな声で言った。



「ようシュウジ。何しに来た? お兄ちゃんが恋しくなったか?」


「よう兄さん、あんたを殺しに来た。雨の中に死ね」


「殺す? どーーやって殺すって言うんだあ? お前囲まれてっぞ? シュウジお前、ついに頭おかしくなったんじゃねえかあ?」ヨウイチが豪快に笑い声を上げる。


「シュウジくーん! 君も、『闇落ちフェス』に入ろうよー!」とハルオ。


 シュウジは作戦の演技を実行する。「ヨウイチ、俺はさっきメリーグーテルというボスの隠しクエストをクリアしてきた。おかげでボスの変身カードを手に入れている」


「おお、じゃあそのカードもらうわ! 届けに来てくれたのか? ありがてえなあ! シュウジぴょんありがとう。いやー、なんか悪いなあ」ヨウイチがふてぶてしい態度で頭の後ろを右手でさする。



 シュウジはニヤリと笑った。ヨウイチがメリーグーテルの隠しクエストをクリアしていないことが今の言葉で分かったのだ。これで作戦を進められる。


 そしてヨウイチは豪炎の指輪を手に入れていないだろう。それはシュウジの予想に過ぎなかったが、予想が当たっている確率は高いと思えた。ステータスポイントを運に多く割り振るような変わり種の人間は、中々いないと思うからだ。


 彼は唱えた。



「変身、メリーグーテル」



 シュウジの体が白い光に包まれて姿を変えた。羊の顔の化け物に変身する。右手には木の杖を持っている。


 ヨウイチの目つきが警戒の色を帯びた。油断なくダガーを構えている。シュウジを囲んでいる黒いローブたちが彼ににじり寄る足音が聞こえた。


 ふと、玄関の隙間からミリアが顔を出した。



「シュウジさん!」ミリアは不安と喜びの入り交じった顔をしている。



 ミリアはお姫様ドレスの姿のままだった。黒いローブを着ていないところからして『闇落ちフェス』に加入していないようだ。


 拷問されるぐらいなら加入していて欲しかった。だが彼女の顔色は悪くない。乱暴などはされなかったようだ。



 シュウジはモンスターの不気味な声で嘘を言い放った。



「この変身をすると、豪炎ごうえんという魔法スキルを発動できる。豪炎は相手の魔防まぼうを無視してダメージを与えることが可能だ。クールタイムは1秒だ。ヨウイチ、ここはひとつ焼き鳥になってみるか?」


「シュウジぴょん、嘘をついちゃダメだあ。変身カードってのは俺は一つも持ってねえが、世間の話に寄ると固有スキルは無いはずだ。はったりをかますのもいい加減にしろ!」


「あるんだよ。メリーグーテルにはあるんだ。ここはいっちょ焼き豚になってみろ」


「やってみろよ?」両手を開くヨウイチ。


「豪炎よ燃え盛れ」シュウジは杖を突き出して唱えた。



 激しい炎がヨウイチとその回りの仲間たちを襲った。ハルオとミリアが焦って建物の中に避難する。豪炎を浴びた敵ギルドメンバーたちが溶けるようにHPバーを無くし、赤い光になって消えた。



「「うわああぁぁあああああああ!」」団員たちが断末魔を上げている。



 ヨウイチも炎を浴びて、HPバーの半分ほどが減っていた。彼は焦って横に飛び退き炎から抜け出す。ステータスを呼び出してポーションを使った。


 シュウジが豪炎を使えるのはあと一回だけだった。三回使えば指輪は壊れるというおばあさんの話である。


 ここに来る前に、シュウジは道中にいたホブゴブリンにテストで一回使ってしまっていた。どのぐらいのダメージが出るのかを知っておく必要があったからだ。ホブゴブリンは1000以上のHPがあるのだが、豪炎をくらうと一撃で地面に沈んだ。


 シュウジは演技を続ける。



「おお兄さん。良い感じに焼けてきたな? だけどまだ半生だな。もういっちょ食らってみるか?」


「ま、ままま、待て待てシュウジ! は、はは! そんな怖い顔するなよ。俺たち兄弟じゃねえか! ちょ、ちょっと俺、腹が痛くてよ、トイレでうんこしてくるわ」



 ヨウイチがアジトの中へと駆け込んでいく。『勇者』は排泄行為をする必要はない。シュウジは兄が逃げたのかと思った。


 しかしヨウイチはすぐに出てきた。その左手にミリアの体を捕まえている。彼女の首筋にダガーを突きつけていた。



「ハローシュウジ、ただいまシュウジ。今からミリアちゃんを殺すわ。それが嫌だったら、その変身カードを寄越せ」


「やり口が汚いな!」シュウジは表情を険しくした。


「シュウジさん、ごめんなさいです」ミリアは人質になってしまったことを嘆いている。


「ヨウイチ、ミリアを離せ。離すのなら、今日のところはお前を焼き肉にして食べないでおいてやる」


「ヘローシュウジ。変身カードを寄越せと言っている。ミリアちゃんの首筋に風穴開けちゃうぞう?」


「シュウジさん、私もろともヨウイチを殺してくださいです!」ミリアの声は本気であり、その証拠に震えていた。



 その時だ。



「このお! ミリアさんを離せ! バーニングアロー!」



 ヨウイチの後ろからハルオがスキルを放った。火の矢が彼の頭に突き刺さり、炎にくるまれる。



「て、てめえ!」頭が燃えたままヨウイチが振り返る。


「ヨウイチお前ー、取るに足りないネズミをなめんなよ! 誰がお前の仲間になんかなるもんか!」ハルオがニヤリと笑った。


「ハルオナイスだ!」シュウジが言って走り出した。今が好機である。



 ヨウイチがステータスから帰還の札を取り出した。ひどく焦ったような顔だ。



「ダークネスブロー」シュウジが唱えて杖を薙ぐ。


「テメエラオボエトケ! 使用!」



 ヨウイチが青白い光に包まれて消えた。村の広場へとワープしたのだろう。シュウジのスキルは空を斬った。



「「逃げろ!」」



 シュウジを囲んでいた『闇落ちフェス』のメンバーたちが森の中へと逃げだして行く。シュウジはミリアに近寄り、その頭にぽんと手を置いた。



「すまん、遅くなったな」メリーグーテルの低い声である。


「すごく早かったですよ?」ミリアがほんのりと頬を染めている。その両目からは次第に大粒の涙がこぼれた。


「泣くな。助かったんだから」


「シュウジさん、シュウジさあん! うわあぁぁああああん!」ミリアが抱きついてきた。



 シュウジは羊の手でミリアの肩を抱いた。ハルオはステータスから黒いローブのスキンを解除して、格好を平民服に戻していた。



「シュウジくーん。君はやっぱり最強だよー!」とハルオ。


「ハルオ。わざと裏切ったふりをしていたんだな。よく辛抱してくれた」


「当ったり前だろ? へへーん。俺の演技を見破れる奴はいねーってね」ハルオが鼻の下を人差し指でこすった。得意げな顔である。



 ミリアが泣き止むと、シュウジたちはアジトを離れて歩いた。帰還の札は使わなかった。使えばすぐに村の広場へワープできるが、一瞬でも味方がバラバラになるのは良くなかった。


 とは言え、シュウジたちが向かっているのはミッドベル村である。運悪くヨウイチに出くわしたら、もうはったりは使えないだろう。


 ちなみに二人は帰還の札を取り上げられているようだ。そんなことだろうと思い、シュウジは札を何枚も買ってきていた。念のため二人に数枚渡した。


 次に会えば、ヨウイチと真っ向からの実力勝負になる。



 ……会いたくないな。

 ……ヨウイチがどこかへ移動していてくれれば良いんだが。



 ふとシュウジは空を見上げた。雨が小降りになってきている。雲間から太陽が顔を見せており、これから晴れるようだった。







 ◆◆◆


 恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。


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