1の19 『闇落ちフェス』



 【『闇落ちフェス』アジト】



 アジトの一室で、テーブルの席にミリアとハルオが並んで座らされていた。小さな部屋である。テーブルと椅子以外の調度品が何も無かった。


 ミリアの対面にはヨウイチ、ハルオの対面にはヨウコが座っている。ヨウコは以前のミリアの友達だった。とは言っても、付き合った時間は短いが。


 かつての友人が今は黒いローブを着ている。それは殺人ギルドメンバーの証である。ミリアは悲しい気持ちになった。


 他には誰もいない。団のメンバーたちは他の部屋にいるようだった。今から何が始まるのだろうか?


 先ほど団員に脅されて、二人はステータスから帰還の札を取り上げられていた。これでは隙を見計らってワープすることもできない。


 ハルオはぷるぷると震えている。ミリアは毅然としていた。やがてヨウイチが口を開いた。



「おめーら、ようこそ『闇落ちフェス』に。ここはおめーらが思ってるような悪いところじゃねえ。まあ、ゆっくりしていけや」


「ミリアとハルオさん、『闇落ちフェス』にようこそ」とヨウコ。


「私たちは入る気がありませんですが?」とミリア。


「……」ハルオは黙ったままミリアに顔を向けた。


「それはダメだ。おめーらには入ってもらう」ヨウイチは意外にも優しげな声音である。


「どうしてですか? メンバーが欲しいなら、村の広場で勧誘をしてくださいです」とミリア。


 ヨウイチが笑い声を一つこぼした。「それはそうだがな。運が悪いことにおめーらはシュウジの仲間だった。シュウジの持ち物は俺の物にする。そう決めているんだ」


 ミリアがテーブルを叩いた。ドンッ、と激しい音が鳴る。「どうしてシュウジさんに悪いことをするですか!? 貴方はシュウジさんのお兄さんなのでしょう?」


「俺が兄であると、シュウジから聞いたか?」


「聞きました。いじわるをする理由を教えてくださいです」


「シュウジって小僧はなあ、生まれた時から地獄に行く運命なんだよ。地獄に落とすのが、俺は楽しくって楽しくって仕方が無いんだ。だから、シュウジに悪いことをしている」ヨウイチはイカレたような表情だ。


「意味が分からないです。貴方は、兄失格です!」


「失格じゃねーよ。良い兄の定義が俺とお前の脳みそでは違っているだけだ。とにかく、シュウジをいじめることは楽しい。俺はシュウジをいじめたい。だからいじめる。そういうことだ」


「……狂ってるです」


「ミリア、おめーは堅そうだから、時間をかけて懐柔かいじゅうする。俺は別に暴力も振るわなければ、おめーを裸にしたりもしない。だからまあ、このアジトでゆっくりしていけやなあ」


「私は『闇落ちフェス』には入らないです」


「時間をかけるっつってんだろ」


「時間をかけても無駄です!」


 ヨウイチが人差し指をミリアに向けた。「おめー、今日はもう喋んなよ」


 そして彼はハルオの方を向く。「ハルオくん、どうだい? 『闇落ちフェス』に入らねーか?」


「は、入ります入ります入ります!」ハルオはすっかりびびっている。


「……っっ」ミリアは顔に怒りがこみ上げて、その次にとても恥ずかしい気分になった。顔色は真っ赤だったと思う。



 ……この男、どうして一瞬で裏切るですか!

 ……情けないったら無いです。



 ヨウイチは椅子を引いて立ち上がった。テーブルに両手をつく。



「じゃあ後のことは、ヨウコ。おめーに任せる。言っとくけど、ミリア。このアジトから出ようとしたら、殺す。運良く逃げられたとしても、俺たちはどこまでもいつまでもお前を追いかけて、殺す。それだけ覚えとけ」



 ヨウイチがテーブルから手を離した。扉の方へと歩いて行く。開けて出て行った。


 ヨウコが明るい声でハルオに話しかけ始める。



「それじゃあハルオさん。他のギルドに入っていると思うので、抜けてください。その後に私が『闇落ちフェス』への招待を送ります」


「分っかりましたー!」ハルオがステータスを呼び出す。


「ちょちょちょちょっと、ハルオ? どういうことですか!?」とミリア。


「ミリアさんも入ろうよ! 『闇落ちフェス』入った方が安全じゃーん? もう誰にも殺される心配無いじゃーん? つまりここはユートピアだよ。はい、ヨウコさん、抜けたよ」


「では次に、私とフレンド登録を」


「はーい!」



 ミリアの両目に涙が滲んだ。そもそもハルオの性格は好きでは無かった。だけどどこかで信頼している自分がいたのだ。


 それがこうもあっさりと裏切られてしまった。



 ……『あるりなみーみ』を抜けたですね。

 ……こいつはもう一生許さないです!



 ハルオが『闇落ちフェス』に加入した。彼は緊張が解けたのか、頭の後ろに両手を組んで、椅子の背もたれに寄りかかる。


 ヨウコがミリアに顔を向けた。



「ミリア、気が変わったらいつでも言ってね」


「話しかけないで!」ミリアはキレていた。


「……ご、ごめんなさい。これ以上話すのは明日にした方がいいわね」


「貴方の顔はもう見たくないです!」


「おーい、ミリアさーん。君も入ろうよ~」とハルオ。


「お前とは絶交です!」



 ……泣くわけにはいかない、シュウジさんはもっと辛いはずです。

 ……そうだ、シュウジさんがきっと助けに来てくれる。

 ……それまで、絶対に耐え抜くですよ。



 ミリアは歯を食いしばって、顔をうつむかせた。やがてヨウコはハルオを連れて部屋を出て行く。部屋の鍵はかけないようだった。


 ミリアはひとりぼっちで椅子に座っていた。それから一時間ほどが過ぎただろうか? ふと建物の玄関の方で、人々の騒がしい声が聞こえてきた。「敵襲!」という声がこだまする。


 

 ****シュウジが速攻で助けに来ていた****







 ◆◆◆


 恐れ入ります。作者はこの小説で、本気でプロを目指しております。お手数ですが、以降読み進める際に以下の作業をお願いします。フォロー ☆☆☆ レビュー ♡応援 応援コメント をいただきたいのです。作者のモチベーションUPと維持のため。この小説を幅広い読者に読んでいただくため。プロになるため。よろしくお願いいたします。


 ◆◆◆

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